第32話 ~つまり文化祭(後編その2)~

 ミニ王子の姿に、使用人サロン(教室)は騒ぎとなった。


「キャーッ! エデル殿下よ!」


「私、初めて拝見しましたわ!」


「お兄様に似て、またお美しい……」


 (改めて見ればブレイム寄りの色白美少年だし、当たり前か……)


「エデル殿下!? ちょっとライリー、どういう事なの!?」


 助かった……。

 アケビは、私の超過休憩を完全に忘れている。


「ブレイム殿下から、お預かりしたのよ」


「そうなの? とっ、とにかく席を用意するわ! エデル様、少々お待ちください」


「私達は、直ぐにお飲み物を!」


 執事とメイドが慌てて準備に取り掛かる。

 店内の客も皆、ミニ王子に遠慮をして注文すらしない。



「あっ、ありがとうございます……」


 エデルは用意をされた窓際の席に、背中を丸めて座った。


「あの……ここでは何を?」


 ご令嬢達が使用人の格好でお茶を運んでいる光景は、王子とはいえさぞ困惑をするだろう。

 しかも子供の目から見れば尚更だ。


「使用人サロンです。執事や使用人がお茶で客人をもてなす、場と時間を提供しております」


「へぇー、面白いですね! ライリー様のお考えには、本当に驚かされます」


「どうして私の案だと?」


「何となく、そう思っただけです」


 クスクスと笑うミニ王子。

 とりあえず、この場を楽しめてはいる様だ。



「キャァァー!」


「わぁー!」


「……? が騒がしくなってきましたね? 少し見せてもらえますか?」


「かしこまりました」


 執事に戻っていた私は、エデルの指示で窓を開ける。


『うわぁぁ……綺麗』


 窓から望む庭園には、発表会を終えたドレス姿のフロレンヌ嬢が姿を見せていた。


 身に纏うドレスは花……とにかく花。

 白をベースに、様々な色の虹が幾つも架かっている。これらが全て本物の草花で出来ているから驚きだ。

 

 (……やっぱり、負けてないよねぇー)


 本日も、それはそれはお美しいフロレンヌ嬢。

 彼女とフラワードレスの組み合わせは、1つの芸術作品としてもはや国宝級の完成度だ。


『でも、勝負はまだよ!』


 クラスメイトに聞いた話だが、クラブ賞の行方を左右する人気投票の途中経過は、魔法研究クラブが優勢らしい。


 教室へ戻る際も『占いの小部屋』には、長い行列が続いていた。

 頼むぞ、ネムッッ!



「……あっ、様」


『なぬっっ!?』


 フロレンヌを追いかける様に庭園へ出てきたのは、なんとブレイムだった。

 追いついた彼は儚げな芸術品(フロレンヌ)に対し、片膝をつく。


 そして周囲の人間が温かな雰囲気で見守る中、手を重ねた2人は、幻想的な庭園を散策。

 様子からしておそらくフロレンヌ嬢が、庭園の植物についてブレイムに説明をしているのだろう。

 

『仕事って、これだったのね』


 まさか、フロレンヌ嬢のエスコート役だったとは。


「……」


 沈みに沈んで、声も出ない。


「兄様は頼まれて来ているだけですからっ! それに僕はライリー様の方が好きですよ」


「ありがとうございます、殿下」


 子供に慰められるとは……でも少し嬉しい。


「エデル様、お茶のお代わりはいかがですか?」


「はいっ! 頂きます!」


 エデルのお陰でどうにか平静を保った私。窓を閉めて、執事(仕事)に専念した。




「もうすぐ、集計が終るそうですわ!」


「今年はかしら?」


「フロレンヌ様とブレイム殿下も、お揃いらしいですわよ!?」


「早く参りましょう!」


 仕事再開から暫くして、教室内がざわつき始める。


 (時間か……)


 私は窓の外に再び視線を向けて、軽く息を吐いた。


 文化的交流会のに毎年行われるクラブ賞の発表――。

 庭園の中心に建てられた舞台には、早くも多くの生徒やゲストが集まっていた。

 クラスの催し物に順位をつけない分、競争心を煽るクラブ賞への関心は非常に高いらしい。


 そんな訳で閉店後のサロン(教室)からはすっかり人が消え、残ったのは私とエデル、アケビの3名のみだった――。

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