第22話 ~キノコの願い~

「……本当に此処なの!?」


 放課後、私は人目を避けて学校の裏庭へ来ていた――。     

 そこには今にも崩れそうな古小屋が建っていて、扉を見れば『魔法研究クラブ』と直に書かれて(彫られて)いる。


 (でもどこか、感じがするな……)


 ノック後に扉を開けると『4つのキノコ』が、私を出迎えた。



 天使の輪を形成させるキューティクルに、耳の下で切り揃えたボブヘアー。

 小柄な体格も似通って、でしか見分けがつかない。


 4つのキノコ……ではなくこの小屋に居る4人の生徒が、まほ研(校内での愛称)会員なのだろうか?



「魔法研究クラブへようこそ。ライリー・キュラス嬢」


「私の訪問を知っていたのですか?」


「ええ勿論! 私達の力を持ってすれば、簡単な事です」


「……」


 (そー言えばアケビが、顧問に私の事を伝えたと言っていたな……)

 


「私は、クラブ長の『ミラ・ファルド』です。宜しく」


 紫1号……。


「会員の『アルデ・バランデル』です」


「同じく『ラヴ・アトリナ』です」


「同じく『フランソワ・ロキオン』です」


 青2、緑3、黄4号……モチーフは毒キノコとみた。



「あっ、はい。あのう……このクラブだけ城(校舎)の外に活動室があるのは何故です? 魔法だけに、何か伝統的な理由があるとか?」


「いえ。此処は去年までただのでした。以前の主な活動拠点である、校内地下のから、学院の心遣いでより広いこの場所へと移りました」


「はあ……」


 (どう考えても、だよね?)


 はめ殺しの窓から見える少し離れた場所には、新しい家畜小屋が建てられている。

 おそらく私の捉え方で正解なのだろう。



 しかしこのクラブは『前髪で目を隠さなくてはならない』ルールでもあるのか?

 

 誰の表情も見えないが、とりあえず本題へ入る。


「クラブ長。この中に魔法使いの方は居ますか? 他言は絶対に致しませんので、教えてください!」


「……残念ながら、魔法使いの『血統』を持つ人間はこのクラブにはおりません」


「では、お知り合いではどうです? どうか紹介をしていただけませんか!?」


「知り合いでも居ません。現在『100人にも満たない』と言われている魔法使い達は、徹底的にその能力を隠して私達と同じ通常生活を送っています。国の誰に聞いても、見つからないと思いますよ?」


「そうですか……」


 (やっぱ、に頼るのは無理か……)


 休み時間に複数の生徒へ尋ねてみたが、そもそも魔法の存在すら信じていない人間が大多数だった(アケビの考え方はかなりレア)。

 世間一般では前世同様『儀式やまじない』に位置づけされているのだ。


 は、存在するのにっっ! 

 でも、魔法は使えないし……。


 因みに妖精(ヤプ)の能力は、他者の転生、物を浮かせる(軽量限定)、後は自身の伸縮くらいだ。



「ライリー嬢、魔法に興味が?」


「はい……魔法の力でも借りないと、解決困難な案件があるのです」


「うーん……何か大きな問題を抱えているようですね?」


 (だから、そう言っている……)


「一般の人間でも『使用可能な魔法』の存在はご存知でしょうか?」


「えっ! そのような(便利な)魔法があるのですか!?」


 希望が一気に溢れる。


「ええ、ありますよ。これまで学院にも秘密にしていましたが、私達は『一般魔法』が掲載された書物を所持しています……お貸し致しましょうか?」


「はいっっ! 是非!」


「クラブ長! 散々苦労をして手に入れた、門外不出の『魔法書』ですよ!? クラブ会員でもない生徒になんて!」


「お願いします、貸してくださいっっ! 料金もお支払いしますから!」


「お金はいりません。しかし1つだけ、があります」


 やはりお嬢様だ――では動かない。


「……分かりました。願いは何でしょう?」


「簡単な事です。我が魔法研究クラブのになってください」


「会員に!?」


「勿論、名前を貸して頂くだけでも構いません」


「それだけで宜しいのですか?」


「はい。クラブ長の私は、来年学院を卒業します。そうすると存続規定ギリギリだった会員数が、4名から3名に……解散せざるを得なくなってしまうのです」


「……分かりました。会員になります!」


 (困っているみたいだし、名前をだけならいいわよね?)


 私は『入会届け』にサインを書き、割と簡単に魔法書を受け取った――。

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