第36話 風紀を正す

「時也、帰るわよ」

 

 結局カレンは、目についた竜宮寺先輩のものであろう備品や書類を片っ端から捨ててしまった。

 で、最低限の過去資料や文具などが残された部屋の真ん中で、「まあ、このソファとかは学校の備品かもだから使ってあげよ」といった後にそそくさと扉を開けて俺に帰ろうと言ってきた。


「断捨離もいいとこだな。でも、大丈夫なのか?」

「問題ないわ。仕事に必要そうなものは全部置いてあるし。私だってそこまでバカじゃないもん」

「ふむ。ならいいか」


 まあ、いいのかどうかはわからんけど。


「でも、あの竜宮寺先輩がこのまま終わるとは思えないんだがなあ」

「過大評価しすぎよ。ただ頭がよくてちょっとスタイルがよくて男子にモテてるだけの女よ」


 ふふん、と。

 カレンが得意そうに言ったところで、「それはどうかしら」と。


 廊下から竜宮寺麗華が入ってきた。


「あ、なに勝手に入ってんのよ」

「別に学校の施設なんだから誰が出入りしても自由でしょ。それに、このまま二人で楽しく生徒会なんて私が許すはずないでしょ」


 パチンと指を鳴らすと、少し気だるそうに遠藤先輩がやってきた。


 そして、「麗華、その呼び方やめて犬みたいだから」と。


「いいでしょ別に。キキ、後のことは説明よろしく」


 そう言って竜宮寺先輩は先に部屋を出て行ってしまった。


「雑だなあほんと。ま、慣れてるけど。えと、とりあえず私と麗華は明日から風紀委員を立ち上げることになったから」

「風紀委員?」

 

 遠藤先輩の急な話に、カレンと俺は声を揃えて聞き返した。

 

「ええ、風紀委員はこれまでろくに機能してなかったけど、私と麗華で新しく運営することにしたの。この神聖なる生徒会室での不純な行為を許さないためにね」


 そう言って、遠藤先輩は鞄から腕章を取り出すと、細い腕にはめる。


 そこには『生徒会監査役』の文字が。


「ちょっと、なんですかそれは」

「見ての通り。あなたたち二人を監視するための監査役よ」

「何言ってるんですか。生徒会のメンバーは会長が自由に決めれるというルールのはずです」

「だから私は生徒会役員じゃない。あくまで外部のもの。だからルール違反じゃない」

「ぐっ……」


 なんと、生徒会に遠藤先輩を派遣するという荒技で、俺とカレンが二人っきりになるのを防ぐつもりだと。


 ……いや、なんでそこまでするの?


「と、時也、あんたもなんか言いなさいよ」

「いや、俺は別に……あの、遠藤先輩の目的はなんですか?」

「二人の邪魔をすること。それが麗華の望みだから」

「……竜宮寺先輩とはどういう関係なんですか?」

「親友。だから麗華のためならなんでもするつもり。まあ、死ねって言われたら考えるけど」

「……親友ってそんなもんなんですか?」

「さあ、他の人は知らない。でも、とにかく今は二人の邪魔しかしない。ほら、早く仕事しなさい。生徒会室を無駄に占拠するだけなら先生に報告してここは撤去するわよ」


 と、遠藤先輩は腕を組んで得意げにカレンを見る。


「……いいわよ。やってやるわ。でも、今日のところはもう片付けが終わったから解散するわ。それでいいかしら?」

「ええ、いいわよ新生徒会長さん。じゃあまた明日」


 遠藤先輩はさっさと部屋を出て行く。

 そして、ようやく静かになったところでカレンは、


「時也、帰ったらお爪、全部綺麗にするから」


 怒っていた。

 いや、もちろんカレンがイラつく理由はわかるけど。


「なんで俺の爪綺麗にするんだよ」

「腹立つから。時也に勝手に話しかけてるあいつらがムカつく」

「俺は何も悪くないじゃんそれだと」

「悪い。隙があるからいけないの。わかる?」

「……」


 わかんねえ。

 全く、これっぽっちもわからん。

 しかし、今は機嫌を良くしてもらうことの方が先決だ。


「わかった。俺が悪かったよ」

「うん、わかったらいいの。じゃあ帰るわよ。あっ、帰りにプリン買って」

「はいはい。じゃあ帰るぞ」


 というわけで一緒に生徒会室を出た。


 しかし、明日から放課後が別の意味で憂鬱になった。

 今まではカレンと毎日家で過ごす時間が憂鬱だったが。

 それが学校になって、さらに生徒会の仕事も増えて、旧生徒会の人間に監視までされるという事態。


 うーん、できればまっすぐ家に帰りたい。

 今まではまっすぐ家に帰らされるのが苦痛だったが、今では何もせずに家に帰れることがどれだけ恵まれていたかよくわかる。


 あーあ、ほんと人ってないものねだりな生き物だ。


 そこにあるといらないと思うのに、なくなると欲しいと思ってしまう。  

 

 結局俺も、贅沢なのかもしれない。

 放課後まっすぐ家に帰って、俺を好きな幼馴染が世話を焼いてくれて。

 それを普通に恵まれてると、そう思って甘んじるべきだったのかなあ。


 まあ、もう遅いけど。

 ああ、平穏な日々は再び訪れるのだろうか。

 

 


 

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