第8話

無事は分かっていても、元気がなくなっていたらどうやって元気づければいいんだろう。


「……涼那ちゃん、大丈夫かな…」

「こんなで怪我でへこたれるほど、ゆーちは弱くないよ」


この間と同じように涼那ちゃんの病室まで来ると、やはりというか、涼那ちゃんは横たわっていた。


「やっほ~ゆーち!元気?」

「これが元気に見えたらおうちゃんはかなりのお気楽人間だよ…」

「……な、何かあったの?」

「圧倒的に暇!!学校行きたい!」


活力はあるけど動けないことの弊害、か。


「涼那ちゃん……。えっと、手術は?」

「普通に終わったよ。局所麻酔かけられてさ。だから今は膝に針金入ってる。絶対膝曲げるなってさ」

「退院は?」

「傷次第だけど、明日か、遅くとも明後日までみたい。そしたらもう週末だよ。というかなっちゃん。その様子だとまた過度に心配してたでしょ。大丈夫だよ。これは私の不注意の結果。なっちゃんがくよくよしたって、事実は変わらないし、怪我の治りが早まるわけでもない。だからさ、もっと気楽に捉えていいんだよ。第一、当事者の私よりなっちゃんの方が不安がってどうするのさ」

「そうだよなっちゃん。ゆーちなら大丈夫ってさっきも言ったでしょ?今回のことはまぁ、しょうがないことだとして一旦受け止めよう?で、ゆーちが退院したらどっか行こうか!3人で!」

「普通に松葉杖生活の人間に歩かせるとか鬼かあんたは」

「まぁまぁ、要するに座ったりはできるんでしょ?だったら別にカフェでもなんでも行けばいいじゃん!」

「座るもできるのかなぁ。通常通りに膝を曲げられない生活は続くだろうし、それを考えると結構苦労しそうだけど。まぁそんなのは、ケガした時から承知済みだし、しょうがないか」


本当に2人は強い。怪我をしたという事実は何も変わらないのに、桜花ちゃんも、当事者である涼那ちゃんさえも、その事実をすでに受け入れて、前を向こうとしている。


「…その強さが、私も欲しいな」

「どしたの?別になっちゃんも弱くないと思うよ。自分の弱点をしっかり見れてると思うし、それって、なかなかできることじゃないと思うな」

「……ありがと」


2人には、ずっと甘えっぱなしになってしまう。そんな自分をちょっと嫌いになるときもあるけれど、この友人たちは、そういうところも『らしさ』と認めてくれた上で、『一緒に行こう』と手を引っ張ってくれる。だから、自然と前を向ける。


「2人とも、いつもありがとね」

「…?おうちゃん、私たちなっちゃんに感謝されるいわれなんてあったかね?」

「分からんのよね。私としてはあんまりない気もする。でも、割とゆーちが怪我してからずっとこんな感じよ?」

「……はて?じゃあなぜ?」

「さぁ…?」

「……はぁ。ちょっと涙出そうになってきちゃった。ごめん。ちょっと外の空気吸ってくる。2人で喋ってて?」

「え?私たち謎だけ残されてなっちゃんいなくなるの?マジで?お~い?どうしたのさなっちゃん。お~い?」


桜花ちゃんのその言葉を半ば振り切るように、私は病室の外へと駆けていた。



俯きすぎただろうか。

周りが見えていなかった私は、曲がり角で何かにぶつかって、そのまま少しよろけてしまった。

と思ったらすぐに前に引かれて、誰かの胸の中に飛び込んでいた。


「ご、ごめんなさ……っ…」

「こちらこそ、急に引っ張ってしまって申し訳ない」


頭上から聞こえてきたのは、低いけれど温かみのある、そんな声だった。

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