第3話

その放課後。


私は桜花ちゃんを誘って、涼那ちゃんから病院を聞き出し、お見舞いに訪れた。


「まぁよく急に決心ついたね。なんかあった?」

「…私が、そう思いたいだけなのかもしれないけど、ここに来れば、何かが分かる気がするんだ」


総合病院。その言葉通り、かなり大きい病院ではあるけど、涼那ちゃんからは病院と一緒に病室まで教えてもらったから、その場所を受付で聞くだけだ。


「そういえばさ。私は誘われただけって言うとなっちゃんに責任全押し付けに聞こえちゃうけど、まぁ、誘われてきたわけじゃん?この場合さ、お見舞い品とか、あったほうが良いやつかな?」


すっかり失念していた。確かに、簡単なお見舞い品くらいはあったほうが良いかもしれない。親しき仲にも礼儀ありというやつだろうか。


「そうかも。どうする?」

「んじゃ、ちょっとそこのコンビニで買ってくる!なっちゃん先行ってていいよ」

「いいよ。一緒に行く」

「あそこまで不安がってた友人を私が心配しないとでも?いいから先にゆーちに顔合わせてきなって。後でまた合流しよ!」

「…うん。ありがとう」


そうして、桜花ちゃんはコンビニへ、私は、病院の中へと足を踏み入れた。


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やはり、総合病院なだけあって、設備が大きい。


「受付は…、あっちか」


入ってすぐの広間から、左手に見える受付と、右手に見える簡単なカフェテリア。そして、真正面に広がる、エスカレーターとエレベーター。その奥にも病室や診察室があるのだろう。空間が異様に広く感じた。


「どこかの高級ホテルみたいだな…」


この場所に似つかわしくない言葉を吐きながら、私は受付の方向へと足を進めた。


受付前の長椅子で順番待ちをしながら辺りを見回していると、久しぶりに、あの子の姿を見た。


その事実が、静かな安心になった。


涼那ちゃんとは違って音信不通にもなってしまっていた彼女をここで見つけられたことに、安堵感を覚えて、気がつけば駆け寄ってしまっていた。


「うわっ…。……だ、誰?」

「久しぶり。……嶺奈ちゃん」

「……久しぶり?なのかな。…うん。久しぶり。……どうしたの?」


しまった。気持ちばっかり先行して、戸惑わせてしまった。


ちょっぴり反省しつつ、多少の落ち着きを取り戻して言った。


「ううん。大丈夫。ちょっと、落ち着きがなくなっちゃった」

「…よかった。……今日は、どうしてここに?」

「あっえっとね……、友達が、部活で怪我しちゃって、お見舞いに来た」

「……そう。災難だった、ね」

「ううん。ちょっと大きなけがではあるけど、無事だって連絡はきてたの。だから、大丈夫だった。……嶺奈ちゃんは?」


その声に、顔の陰りが深くなった。……何か言いたくない事情に踏み込んでしまっただろうか。


「………ちょっと、ね」

「ご、ごめん。言いずらかった?」

「ううん。……ごめん。今日は、帰る。…そうだ。また、あなたに心配をかけないように、連絡先……」

「うん」


私は、お互いのメアドを交換しつつ、嶺奈ちゃんの落ち着きが戻るのを待った。


「…………これで、大丈夫?」

「うん。大丈夫だよ」

「…よかった。あんまり、人には言いたくない。でも、あなたには、言っておかなきゃいけないことだとも、思う。だから、……後で、連絡…、していい…………?」

「もちろん。待ってるね。焦らなくても大丈夫だよ」


その言葉に、嶺奈ちゃんの先ほどの陰りは薄れ、少し笑みがこぼれた。


「…………じゃあ、また、ね」

「うん。バイバイ」


その言葉に軽く反応した後、嶺奈ちゃんは出口へと向かっていった。

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