第2話

翌朝。


ベッドの上で起き上がると、一筋の涙が頬を伝った。2人のことが心配なのに変わりはない。


ただそれ以上に、嫌な予感が当たってしまったことに対して、恐怖を覚えてしまった。


「……準備、しなきゃ」


恐怖で手が震えそうになるけど、それでも、私には『日常』がある。その『日常』を完遂するために、今日も…………。



「どしたのなっちゃん。大丈夫?どっか痛い?頭撫でる?」


いつも通りに桜花ちゃんと会うと、開口一番にそう言われた。


「ううん。大丈夫」

「……?無理はしないでね?」

「うん。………ありがとう」


大丈夫。涼那ちゃんはいないけれど、それは一過性だ。それに、桜花ちゃんは隣にいてくれる。


どこまでも呑気で、でも、ちょっとは敏感なこの友人に、しばらく背中を預けよう。そしてまた、涼那ちゃんに笑って「おかえり」って言うんだ。


「……なんかなっちゃんはいろいろ背負ってそうだけど、ゆーちは無事だって分かったし、気持ちにある程度の整理がついたら2人でお見舞い行こうよ。そしたらさ、もっと気持ちも楽になると思う」

「うん……。そうする」


そうだ。今生の別れじゃない。きっと大丈夫。


そう思いながら、今日もまた、『日常』へと歩みを進めた。


──────────────────────────────────────


少し久々になった図書室へと、昼休みに足を進めた。


今日も嶺奈ちゃんの姿は見ていない。もしかしたらここにいるかもと思ったけれど、図書室は司書さんを除いて誰の姿もなかった。


「…………」


ぐちゃぐちゃになった心を抱えたまま、初めて嶺奈ちゃんを見たあの場所に立ってみると、ふとそこに、嶺奈ちゃんがいるような、そんな気がした。でも、実際は、違う。


「……」


また一粒、涙が頬を伝った。日常とは簡単に崩れ去ってしまうものなのか。


その時、どこかから聞こえた。


『大丈夫』


あの時の『声』だ。でも、今なら、誰の声かが分かった。


慌てて周りを見回したけれど、やはり彼女は見当たらない。

幻聴だとしても、はっきりと聞こえた。


……病院へ行けば、涼那ちゃんの安否も、嶺奈ちゃんの行方も。両方が正確に分かる気がした。


「…お見舞い、行ってみよう」


私はそう呟いていた。

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