第15話
『――とのことで、グアムでは現在、外出禁止令が出されており、避難所に指定されたショッピングモールは軍により誘導された民間人が肩を寄せ合っています』
朝のニュースを見て、僕は箸を止めた。
『国防総省からの発表によりますと、昨夜一八時頃から発生した戦闘により、アンダーセン基地はほぼ壊滅。現在ハワイより部隊を派遣し、戦力の立て直しを進めているとのことです』
昨夜、グアムがイグドラシル連合の攻撃を受けたというニュースだった。
自宅で朝食を摂っているときに流れたニュースは、映像こそショッピングモールと避難してきた民間人しか映していないが、軍事施設――アンダーセン空軍基地はどれだけの惨状になっていることだろうか。襲撃時刻を考えるに昨日の夜にでも報じられていそうだが、米軍の報道規制があったのかもしれない。襲撃があった時刻はまだ僕は横須賀基地にいたのだが、基地内は(知る限りだが)平常運転だった。つまり、MUFに情報共有がされていない可能性があるということだ。そんな暇がなかったのか、それとも米軍単独で対処しようとしたのかわからないが、とにかく太平洋上要衝が落ちたという事実は大きい。ついこの間、横須賀基地が襲われたという事実があるので、グアムの米軍の存在がどれだけ効果的かと言われると、自信がなくなってしまうが。
「フィオナ……」
テーブルを囲んでいるフィオナに視線を向ける。器用に箸で白米を口に運んでいるフィオナはゆっくりと咀嚼して嚥下の後、一言。
「ただの漸減作戦だ」
そう、簡潔に答えた。
「ウルズはオーストラリアを基盤にして捜索を続けている。オーストラリアが最有力で、その捜索率はまだ大陸の六割程度。だから、邪魔が入らないように周辺の基地に襲撃をかけて、地球の反抗作戦を阻止しようとしているわけだ」
そう言ってから、味噌汁を啜る。
「イグドラシル連合に対しては、あくまで部隊集結――大規模反抗作戦の予兆が確認されたため、電撃作戦を決行したと、そういう説明をしているんだろう」
と、最後に付け加えた。
僕たち地球側からすれば、敵はイグドラシル連合だが、フィオナにとって敵はウルズ帝国のようだ。
「詳しく聞いてなかったけど、ウルズって国が、連合の中核で、他の二国をうまく使っているってことになるの?」
「そうだ」
僕の疑問に、フィオナは答えてから皿の上のソーセージを口に入れる。
「指揮官はウルズ騎士――ウルズの国政と軍の指揮権を持つ一二人が、持ち回りでオーストラリア駐留司令官を担っている。オーストラリア駐留軍の機動部隊の半数はウルズ帝国軍、残り半数がフヴェルゲルミル軍だ。ミーミル軍はわたしを含めたハルクキャスター一個小隊程度で、むしろ整備の方が多いな。主に金を出しているというのもあるし、フヴェルにもハルクキャスターを貸与しているというのも、ミーミル軍が少ない理由だ」
なんだか昔の日本みたいだな、ミーミルって。確か昔、日本が参加したPKOに対する謝辞に日本が入っていなくて、金だけ出しても汗をかかなければ参加したことにならない、みたいなことがあったと聞いたことがある。
「で、捜索って、何を?」
僕は聞き逃さなかった。『オーストラリアを基盤にして捜索を続けている』という、フィオナの言葉を。
フィオナは茶碗に残った最後のご飯を口に運んでゆっくりと咀嚼する。どう話すか考えているのだろうか、単にゆっくり食べたいから僕を待たせているのかわからない。
「エクスカリバー」
嚥下の後、ぼそりと一言。
だが、僕は聞き取ったものの意味を理解できなかった。
「え?なんて…?」
「だから、エクスカリバーだ。正確には、その『鞘』だが」
フィオナは麦茶に口をつけて、ゆっくりと飲む。
対して、僕は彼女から発せられた単語が、何度繰り返しても飲み込めない。
エクスカリバー。
ゲームとかで出てくる剣だ。騎士道物語に出てくる、今でも欧米を中心にフリークが存在する作品に出てくる、メジャーな剣だ。
それが、なんで今?
そんなポカンとした僕の様子に、フィオナは呆れのため息をひとつ。
「お前が訊いたんだろう。ウルズの捜索対象は何なのかと。ウルズの国宝にして最強の武器、
待ってほしい。
「ねぇ、フィオナ。じゃあさ――」
そうするとだ。
「それだとさ、まるで――」
僕は、ふと思ってしまったんだ。
「地球に攻めてきた理由は…、特使が殺されたとか、そういうこともみんな、全部――」
「地球に侵攻して、エクスカリバーの力を完全に引き出すための制御機構である『鞘』を、取り戻すためだ。ミーミルも、フヴェルも、みんな利用されている。みんな、ウルズのためにな」
フィオナは静かに、空になったコップを置いた。
「わたしの祖国・ミーミルとて、ウルズが何か隠していることは掴んでいた。そして、それが何なのかを探るために、わたしは連合の地球駐留部隊に参加した。結果、確信を得たわたしは、ウルズ勢力に追われたというわけだ」
本当に呆れる。
戦争とは政治の中の一分野であり手段でしかないというのを聞いたことがある。だが、それを実際に聞くと、やるせない。きっと、何も知らずに巻き込まれた人もいるだろう。いや、ほとんどがそんな事情など知る由もなかっただろう。
そして、さらっと僕とフィオナの出会いのきっかけ、というか、なんで単身オーストラリアから離れた日本まで流れ着いたのかの理由の一端が明らかになった。ほんと、さらっと大事なことを普通のテンションで言うのをやめてほしい。聞き逃したらどうするつもりだい?
「ところでリョウト」
すっと、フィオナが立ち上がる。
いつもの切れ長の目で、僕をすっと見下ろした。
「出なくていいのか?いつもなら、もう家を出る時間だろう」
「……え?」
言われて、僕は気づく。
確かに、いつもならマンションを出ていてもおかしくない時刻だ。
そして、僕の前にはまだ三割ほど残った白米と目玉焼き、味噌汁。対して、フィオナの方は全て空だ。
作ったものを全てきれいに食べてもらえるのは嬉しいのだが、
「遅れるならば、先に行くぞ」
フィオナはスタスタと玄関に向かう。
「あ、待って――」
僕は急いで朝食をかき込む。残すなどという選択肢はない。全ての生産者に感謝する人間だぞ、僕は。
あとフィオナ、できれば自分の分くらいは茶碗をシンクに持っていってほしい。普段ならいいんだけど、今僕は時間との戦いの真っ最中だからね?
朝食を胃に流し込んだ僕は、二人分の茶碗やら皿やらをシンクに置いて水を貯める。時間がないので洗うのは帰ってからだ。一縷の望みで先に帰ったフィオナが洗い物を済ませてくれる未来を妄想したが、これを妄想と思っている時点で望みなどないことがわかりきっている。
僕は慌てて玄関を出て、エレベーターを待つフィオナと合流した。
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