第36話
「よし、こんなもんだろ」
「すごい…こんな短時間で作れちゃうなんて…」
「結構立派になったね。最初に比べると…」
日が真上に登る頃までには、俺は家の拡張を終わらせていた。
基本骨子はすでに作ってあって、そこに付け足していくような作業だからな。
そこまで時間もかからない。
出来上がった家は、それなりのスペースを確保していた。
これなら俺と彩音、佐藤の3人が寝ても問題なさそうだ。
もし谷川を無事に助けられたら、またその時に拡張すればいい。
「ありがとう、佐藤さん、翔ちゃん。私のために、組み立て作業してくれて」
「ううん、島崎さんも木材集めお疲れ様」
彩音と佐藤が互いを労っている。
ちょっと佐藤の笑顔が固い気もしなくはないが、順調に打ち解けていっているな。
きっと佐藤の対応がちょっと素っ気なく感じるのも、そもそも佐藤があんまり他人と関わるのが得意じゃないからだろう。
「さて、寝床は確保したから、次は食糧調達だな。昨日仕掛けた罠に何かかかっているかもしれない。見にいってみよう」
この後にやることは二つ。
昨日仕掛けた罠の確認。
その後、魚釣りだ。
「わ、罠を仕掛けてあるんだね…すごい…!」
「何か獲れているといいね、佐久間くん」
「ああ、そうだな」
俺たちは3人で拠点から移動して罠を仕掛けた地点へ確認しにいく。
「お、獲れてるな」
「す、すごい…!」
「二日連続だね」
罠を仕掛けた地点に近づくと、キュイキュイと鳴き声が聞こえてきた。
罠にかかって暴れていたのは、また一羽のうさぎだった。
今回は灰色。
運のいいことに前回よりも一回りサイズが大きい。
「彩音。苦手なら見なくていいぞ」
俺は罠にかかったウサギをしめてしまう。
「…っ」
彩音はちょっと顔を顰めたが、何度か深呼吸をして心を落ち着かせていた。
すまんな。
だが無人島で生活していくためには、こうして野生動物を狩らなくてはならない。
彩音には時間をかけて慣れてもらうしかないな。
「さて、もう一つの罠も見に行こうか」
仕掛けた罠は一つではない。
一匹目の獲物をしめた俺はもう一つの罠を確認するために歩き出す。
「佐久間くん。よかったらそれ、私がもとうか?」
「頼めるか?」
もう一つの罠にも獲物がかかっていたら両手を使ってしめなければならない。
俺はウサギの死体を佐藤に持ってもらい、二つ目の罠を仕掛けた地点へ向かう。
「ん?なんだこれ…」
「血?がついてるね…」
「に、逃げられちゃった……とか?」
二つ目の罠を確認する。
獲物は、かかっていなかった。
だが罠の周辺に血がついている。
罠から逃げようとして獲物が暴れて、それによってついた血……というわけではなさそうだ。
「罠全体が破壊されているな…これは…」
寒気が背筋を通り過ぎていった。
こんなに豪快に罠を破壊するなんて、少なくとも草食動物には不可能のはずだ。
となると…
「佐久間くん…?」
「翔ちゃん、どうしたの…?」
罠に捕えられた獲物を、『何か』が喰った……
「その可能性が一番高いな」
「「…?」」
首を傾げる彩音と佐藤に、俺は破壊された罠が意味するところを告げようか迷う。
「まぁ、いいか」
だが、変に不安がらせることもないと思い、黙っておくことにした。
「どうしたの、翔ちゃん」
「佐久間くんどうかしたの?」
「いや、なんでもないんだ…罠は直しておこう…今日はその一匹を持って帰って、あとは釣りで釣った魚を食べよう」
俺は壊された罠を直してから、二人とともにその場を去ったのだった。
その後、俺は夕方までの間を釣りの時間に費やしたのだが、魚は一匹しか釣れなかった。
「そうだな…それじゃあ、うさぎ肉は彩音と佐藤で食べることにして……この魚は俺がもらおう」
釣れた魚はかなり小ぶりで、1食分にはやや足りないと言った量だが仕方ないだろう。
明日に期待して、俺はウサギ肉は彩音と佐藤に食べてもらい、今日のところはこの小ぶりの魚一匹で我慢することにした。
日が沈みかけ、あたりが暗くなる中、俺は拠点で、火を起こし、魚とウサギを焼いて調理する。
しばらくして、香ばしい匂いが漂い始めた。
「もういいだろう」
「うわぁ…美味しそう…」
「綺麗に焼けてるね」
十分火が通ったと判断したところで、俺たちはウサギ肉と魚にありつくことにした。
「翔ちゃん……それだけだと足りないでしょ?はい、私の分分けてあげるね」
「彩音…?いいのか?」
俺が早々に自分の分の魚を食べ終えたのを見かねてか、彩音が俺にウサギにくを分けてくれる。
「もちろんいいよ。私、朝にもお魚食べさせてもらってそこまでお腹すいてないし……ほら、遠慮しないで。あーん」
「んっ……」
「どう?」
「美味いな」
「よかった」
彩音にあーんされウサギ肉を口の中に入れられた。
咀嚼して飲み込む。
普通に美味しい。
「佐久間くん。私のも」
「い、いや…もう大丈夫だぞ?」
「ううん。私のも食べてほしい」
ちらっと彩音を見た佐藤が、ウサギ肉を俺の口元に持ってくる。
「だ、大丈夫…自分の手で食べるから…」
「…」
幼馴染の彩音ならともかく、佐藤にまでアーンされるわけにはいかない。
俺は佐藤の差し出すウサギ肉を受け取って自分の手で口に放り込む。
「ありがとな。佐藤」
「…」
「佐藤…?」
「ああ、うん。なんでもないよ」
佐藤がにっこりと笑った。
一瞬ちょっと不満げな表情を浮かべていたような気がしたが、多分俺の気のせいだと思う。
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