第26話 異界

……おかしいですね?何でこうなっているんですか?


 月明かりに照らされた、鮮やかな朱色の大きな鳥居の前で首を傾げた。








『……ぱりっ……ぽりっ……』


……引き戸の向こうから何か音がするぞ。


『……ぱりっ……ぽりっ…………ずずず~~……ああ……至福でス』


……おせんべいでお茶を啜っている音だ。……カーラ!無事だったのか!


 窪んだ取っ手に指を掛けて一気に引き戸を開けた。



「カーラ!…………え?……」


「……ぱりっ…………ん?……………………ずずずずず~~~……トン……」


 ちゃぶ台でくつろぐ黒猫の獣人らしき巫女と目が合った。赤と金色のオッドアイは珍しい。少しは驚いていた癖に、悠然とした態度で茶を飲み切り、湯呑を置いた。


「……迷い込んだあやかしですかネ?でも悪しきものが此処に居られる筈がありまセン。

 貴女は何者……ん?……みこと様の匂いがしまス。眷属の方でしたカ。大変失礼を致しましタ。おせんべいの追加とお茶を入れ替えて参りますので、どうぞ座ってお待ちくださイ」


 立ち上がった巫女の後ろ姿には三本の黒い尻尾しっぽがあった。


……な?……三本も尾がある獣人?

 ミコトサマ?……匂い?……カーラと一緒にいたからか。カーラがミコトサマ?それに眷属だと思われているって、やっぱりカーラは魔王か何かなのだろうか?

 何だか分からんが、私を護ってくれてたのは確かだぞ。


「待ってくれ!ミコトサマとはカーラの事か!カーラが心配なんだぞ!何処に居るのか知ってたら教えてくれ!」


「命様は今はカーラと言うお名前なのですネ。……命様ならこちらに向かわれている様子ですのでご安心くださイ」






「「……ぱりっ……ぽりっ…………ずずず~~……ああ……至福だぞ(でス)!」」


「遅れまして自己紹介ヲ。私は緋色ひいろと申しまス。元は猫魈ねこしょうというあやかしでしタ。長い年月を生きた猫は尾が二本の猫又ねこまたになり、更に年月を重ねると猫魈になりまス」


「ネコショウ?アヤカシ?ネコマタ?……私はポコちゃんと呼ばれているぞ。こう見えても……いや、ポコちゃんと呼んでくれればいいぞ」


 古龍だの守護神だのはもうどうでもいい。怖い目に逢うのはもう沢山だ。私は只のポコちゃんでいい。



「……コン……コン……ごめんください」


……あ!…‥今度こそカーラだ!


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