第74話 ファイアボール

「落ち着かない」

「です」


 は?


「それを聞いてオレにどうしろと?」


 ブリー青年に塩害対策を教えてから三日が経った。その間アジィ修道士の元でお世話になっていたのだが、無為な日々に飽きたのだろう、マヤとファラーシャ嬢がオレに談判してきた。


「魔法を思いっきりブッ放したい」

「止めてください、迷惑です」

「盾を大きくしたい」

「言ってる意味が分からん」


 いくら人里から離れているとはいえ、ここで爆音轟かせたら、誰かしらここに見にくるかも知れない。そんなことやらせられない。

 盾を大きくと言われてもな。マヤの盾は大盾で、人が隠れる程大きいのだ。それ以上大きい盾だと取り回しに問題が出そうなんだが。


「ホワイトナイトみたいに、盾を大きくしたり小さくしたりしたいの」


 そういうことか。映画「ホワイトナイト」の主役ヴィクトリアは盾使いだ。その盾は魔法の盾で、魔力次第で大きくなったり小さくなったり変形したり、とかなりご都合主義が透けて見える。

 ホワイトナイトに憧れてこのゲームでロールプレイをしているマヤには、盾を思うように変形させるというのは、一つの目標なのかもしれない。


「マヤの意見を取り入れて願いを叶えるとしたら、今取り得る方法は二つだな」

「おお。三つ目は?」

「ホントにホワイトナイトみたいな盾を手に入れる」

「確かに現実的じゃないね」


 マヤも三つ目の方法は諦めたみたいだ。どこかにあるかも知れないが、どこにもないかも知れない盾を探し回っている時間は、今のオレたちには無い。


「それで残る二つって?」


 マヤが目を輝かせながら先を促す。


「基礎魔法のエフェクトか、マテリアルだ」

「おお」

「エフェクトの場合、盾が大きくなるように変形させる。イメージとしては、ゴムのように伸縮するようにイメージするのがいいだろう」

「ふむふむ」

「マテリアルの場合、それこそ物質生成だからな。盾の周りに物質マテリアルをくっつけるイメージかな」

「なるほど。どっちがいいの?」


 マヤが首を傾げて聞いてくる。


「どっちも一長一短だよ。エフェクトの場合、盾自体を薄く広く伸ばす訳だから、盾そのものが脆くなる。対してマテリアルの場合、物質を生成するんだから、その生成した物質の分だけ盾が重くなる」

「ふ~む」


 オレの意見を聞いて、マヤは腕を組んで悩み始めてしまった。まあ、悩んでるうちに日が過ぎるだろ。


「私はどうすれば?」


 ファラーシャ嬢の問題が残ってたな。



 火の魔法というのは魔力をエフェクトで燃焼材に変質させ、酸素と化合させることで燃焼させる。その時、熱で酸素の体積が爆発的に大きくなるため爆音が起こる。


「今はこの爆音が問題な訳だが……」

「なぜオレを見る」


 ブルースは不機嫌そうに返事をした。


「ブルースは音の専門家だろ?」

「いつから専門家になったんだ?」

「違うのか?」

「オレは音楽を習ったことがない。独学だ。スキルも感覚に頼ったもので、教えられるものじゃない」


 感覚であれをやってたのか。天才肌だったんだなブルースは。

 ブルースが当てにできないとは、当てが外れたな。


「う〜ん。音を吸収する魔法、創れないか……」


 ファラーシャ嬢と二人腕を組む。

 いや、待て。音は音子が伝えるものだ。ということは、音子にバフを掛ければ、


「わっ!!!」


 うわっ! 思った以上に響くな。自分で声出しといて耳がキーンとなった。うん。みんなの視線が痛いな。ごめんなさい。

 次に音子にデバフを掛けてみる。


(わっ!!!)


 おお! 全然響かん! これは使えるな!


「ファラーシャ嬢、 今のを覚えてくれ。これは使えると思う」


 がファラーシャ嬢は困惑の表情を浮かべる。


「今の、と言われましても、大きい声と小さい声を出されただけですよね?」


 ああ、自分の中だけで完結してた。ごめんなさい。

 オレはファラーシャ嬢に音子の説明をする。



「ファイアボール!」


 海に向かって撃ち出されたファイアボール。しかしてその火の玉は、まるで音を出さずに直進し、しかるべき場所で静かに弾けた。無音のファイアボールの完成である。


「「おお〜!」」


 オレはファラーシャ嬢と固く握手をする。

 はっきり言ってこれだけでは隠し芸みたいなものだが、次がある。


「次は無色のファイアボールですね」

「ええ!」


 これが成功すれば、見えず聞こえぬ無色無音のファイアボールの完成である。

 ちなみにマヤはまだ悩んでいる。

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