第55話 裏側

「ああ~〜」

「ベッドでだらだらするな。特訓行くぞ」


 オレが宿のベッドでぐで〜となっていると、マーチに叩き起こされた。


「ちょっとくらい勝利の余韻に浸らせてくれよ」

「あれは勝利じゃない。蹂躙だ」


ひどい言い草だな。


「そういやブルースは?」

「兄さんはオペラ商会に行ってる」

「?」

「またフーガがちょっかい出してきたんだ」

「また!?」


 そういうとマーチにため息を吐かれてしまった。


「リンが適当なこと言ってあの場を煙に巻いたからだろ」


 ああ、それの事後処理ですか。


「まさかオペラ商会にまで文句言ってくるとは思わなかった」

「何だって?」

「ワシの商売道具を勝手に奪いやがって、だそうだ」


 どういう思考したらその答えに行き着くんだろうなぁ。


「何やってくるか分からないから、連絡を密にしよう、周りで不審なことがないか報告し合おう、ってことで兄さんがオペラ商会に行ってる」


 そういやブルースは情報収集が得意だったな。


「分かった。じゃあ何か不審なことがあれば、ブルースに報告すればいいんだな?」


 頷きで返すマーチ。


「じゃあ、さっさと仕度しろ。特訓だ」

「へ〜い」



 と言ったそばからマーチと二人で、フーガ邸にご招待を受けたのだが。


「全く、貴様と出会ってからワシは損してばかりだ!」


 目の前をうろちょろするオッサンはお怒りのようだ。


「折角優秀な冒険者プレイヤーを雇って大会に潜り込ませたというのに、何てことをしてくれたんだ!」


 何てことと言われても、言ってる意味が分からんのだが。


「多分武闘大会で八百長しようとしてた」


 ああ、なるほどね。それをオレがぶち壊しちゃった訳だ。そりゃ怒るわな。ん?


「八百長って犯罪じゃないのか?」

「犯罪。バレれば牢屋行きは確定。罪の重さによっては死罪もある」


 う〜ん、そんなのをオレたちに話しちゃっていいのかねぇ。


「それで、だ。お前、そいつの代わりに試合に出ろ」


 はあ? だからさっきから言ってる意味が分かんねぇよ。


「試合に出て八百長しろって言ってる」


 あ、そういうことね。


「試合に勝てばいいんですか?」

「とりあえず、予選には勝て。ただしレクイエムという男とかち合った時には敗けろ」


 なるほど、そのレクイエムってのが本命でオレは対抗ってことか。


「分かりました」

「リン!?」


 オレは何か言おうとしているマーチを手で制して話を続ける。


「でも予選でレクイエムって人とかち合ったらどうするんですか?」

「はっ、バカが。予選でかち合う訳ないだろ」


 なるほど、大会運営側にも誰か仕込んでるってことか。


「じゃあもういいですね。大会まで特訓があるんで」


 オレが立ち上がりマーチとともに部屋を出ようとすると、


「このこと誰にも洩らすんじゃないぞ。洩らせばどうなるか分かっているな!」


 と最後まで脅しを掛けてきたオッサンだった。



「リン、何であんな約束した?」


 いつも特訓している林で、マーチに詰め寄られた。


「ああでもしないとあそこから出られなかっただろ」

「でも、八百長したらリン……」


 このゲームはRMTだ。だからお金関係の悪事には、運営もシビアな対応を取る。これがバレれば、オレはアカウント永久停止だろうな。いや、下手したらリアルでも刑務所行きかもしれない。


「そのことを話す前に、……ブルースいるんだろ?」


 茂みからブルースが姿を現す。と腕の中では人間が一人眠っている。


「やっぱ見張りが付いてたか」

「ああ。オペラ商会の間者かんじゃから、二人がフーガ邸に入っていくのを見たって情報が伝えられてな。急いでやって来た。どういう状況だ?」


 オレはことの経緯をブルースに話す。


「ハァー、それでリンはどうするつもりなんだ?」

「とりあえず、今までの経緯をセレナーデさんに話しておいてくれ」


 露骨に嫌そうな顔するなよ。


「……分かった」

「そうすりゃ領主様まで話が通るはずだ」

「確かにな」

「後は現場を押さえられればいいんだが」

「だが?」

「それにはオレがレクイエムって男に勝たなきゃならない。でないと予定調和で終わってオッサンに逃げられると思う」

「なるほど」


 ブルースとマーチの二人は得心顔になった。


「だが、レクイエムという男、噂だが相当強いらしいぞ」


 だろうな。予選の予選でなかなかの大勝をしたオレを、対抗留まりにしてるんだから、オレより強いんだろう。


「ならやることは一つ。今より強くなること」


 とマーチ。ですよね〜。


「そのためにリンに欠けているものを伝授する」

「欠けているもの?」

「そう、それは必殺技」


 必殺技かあ。

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