第53話 出場
驚き過ぎだろ。
「オレだって本選に出場できるなんて思ってないよ。ただ前回のゴブリン戦で思ったんだよ。オレって人型の敵との戦闘経験が少ないって」
「「「ああ~」」」
何で三人揃って得心顔なの?
「確かにそれはそうかも知れないわね」
「だろ? だから予選の予選? とやらに出場して、ちょっと人型との戦闘経験値を稼いでおきたいんだよ」
また力強く頷いてるなぁ。
「マーチのお陰で多少動けるようになったし」
「「「それはどうだろう?」」」
何なんだよ、お前ら。気分悪いぞ。
「どうせだし、パーティー四人で出場してみない?」
「「それは無理」」
ブルースとマーチが即座に拒否した。
「なんだよ連れないなあ」
「そうじゃない」
「?」
「あの大会は
「??」
「この大会、相手がギブアップするかゲームオーバーするまでやるのよ」
マヤの言に頷くブルースとマーチ。
なるほど、プレイヤーと違ってこっちの人はゲームオーバー=死だからな。そりゃ誰も出ないわな。
「たまにバカが出場してるけど」
出んのかよ。
「まぁ、そういうことならオレだけ予選の予選とやらに出場するか」
「大丈夫なの?」
「だから本選に出れるとはオレも思ってないって」
「いや、そうじゃなくて、その予選、明日なんだけど?」
早く言ってー。
翌日。なんとか予選の予選に出場を果たせたオレだったが。
「人多っ!?」
人人人とどこを見ても人だらけで、まさに芋洗い状態の大混雑だ。いったいどれくらいいるのだろうか? マグ拳ファイターの売上が35万
この盛況ぶりで予選は1日では終わらず、五日間掛けて行われる。当然、最後に滑り込みで出場申請したオレの出番は五日目となる。
では何故初日からこんな人混みにいるのか。ライバルになりそうな人間を見定めるための敵情視察? いいえ、商売です!
オペラさんに頼まれ、オレが作ったオペラ印(音符)の塩胡椒の実演販売をやっているのだ。
やっているのは公園でしていたことと変わらない。
特設屋台で鹿肉にその塩胡椒を振りかけて売るだけだ。公園と同じようにブルースとマーチが前で大道芸をしてくれている。
トレシーの街人にはすでにお馴染みになっていても、他所からこの大会のためにやって来たプレイヤーにはまだまだ斬新に映ったらしい。鹿肉が飛ぶように売れ、塩胡椒も売れていく。
「でもさ、これってただ小袋に入ってるだけだろ? すぐに香りが飛んじゃうんじゃないか?」
客の一人がイチャモン付けてくる。この忙しいときに面倒臭いなぁ。とはおくびにも出さない。その質問は公園の時からされ飽きている。オレはにっこり笑い、
「保管するときはマジックボックスに入れといて下さい。味も香りも新鮮なまま味わえますし、小袋ですから場所も取りません」
「な、なるほど」
オレの笑顔の圧に気圧された客は、一袋塩胡椒を買って帰ったのだった。
なんかもうすでにぐったりしている。五日間鹿肉と格闘してきた上に、その後マーチによる特訓も受けてきた。レベルは上がってるかも知れないが、身体中バキバキだ。
試合会場となる舞台には戦士たちがゴロゴロとしている。150人はいると思う。
試合は武器あり、魔法ありの何でもありで、死ぬかギブアップか舞台から出たら負け、と言うシンプルなバトルロイヤルだ。
死んでも装備品は戻ってくるそうだが、試合中に壊れたらそのままらしい。結構なリスクである。なのでオレはカーキのジャケットコートは脱ぎ、武道着みたいな服に、小手と脛当てで出場した。
オレたちが最後の出場者だからだろう。観客席はかなり閑散としていた。出場者の方が多いぐらいだ。
とはいえ出場者は皆多少なり緊張した面持ちである。
「お? あいつ塩胡椒売ってた奴じゃね?」
「おお確かに。頑張れよう兄ちゃん!」
などとこの五日間でオレの顔は少し周りに知られるものになっていた。これで有名になったとは言えないだろうが。
ガアアンッ!
と銅鑼が鳴り響き、試合が開始される。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます