第5話 プレゼント

「お待たせ〜」

と少し遅れて寺坂が教室に入ってきた。教室にはもうすでに颯と梶谷が真っ白な布を広げて待っていた。

「寺坂さんおはよう〜」

「おはようございます」

颯と梶谷が寺坂に挨拶をした。寺坂も挨拶を返す。

「なんか、教室に私たちだけっていうのも変な感じね」

と寺坂が周りを見渡しながらそう呟く。今日は土曜日でクラスには3人以外誰もいなかった。

「それじゃー、早速始めようか」

と寺坂が前に描き上げた団旗のデザインが描かれた紙を取り出すと、床の上に広げた。そう、今日颯たちは、先日集めてきた貝殻を使って団旗を作るために学校に集まったのである。もちろん先生の許可を取っている。

「え〜、まず青ペンキで布の半分くらいまで塗っちゃっていいよ」

と寺坂が指示をする。そして、その指示の通りに颯が筆を動かす。

「そしたら、次に波を意識して境界線を描いていくと」

と指示をする寺坂。颯は指示通りにやろうとするが、これがなんとも難しい。ここには相当時間をかけた。そして、塗り終わると颯がゆっくりと筆を置いた。

「あ〜、疲れた。結構難しいな」

颯は大勢を崩しながらそう言った。

「でも、すごいお上手に描けてるじゃないですか」

「うん、めっちゃいい感じ!なんなら下書きよりもいいかも」

と女子軍からお褒めの言葉をもらい、少し嬉しくなった颯。すると、その時ふと寺坂が颯に聞いた。

「そういえば、今日石川くんは?」

颯はちょっとドキッとなった後に、

「あいつ今日バイトなんだ」

と答えた。

「へー、石川くんってバイトやってたんだ」

と意外そうに寺坂は言った。

「なんのバイトをしていらっしゃるんですか?」

と梶谷も興味がありそうに颯に聞いた。

「飲食店でウェイターをやってる」

と颯が言うと2人はとても意外そうな表情をした。

「土日にやってるの?」

と寺坂が聞くとちょっと颯はためらった表情になった。

「いや、いつもは水、金でやってるかな」

と颯がいうと、案の定、寺坂がじゃー今日はなんでやってるのと聞いてきた。

「んー、なんか今お金が必要みたいで」

と颯がそれとなく答えた。すると、梶谷が何かこころ当たりがあるかのような反応を示した。

「あの、もしかして石川さんって兄弟とかおられますか?」

と梶谷は颯に聞いた。

「え、うん、兄ちゃんがいるけど」

「お名前は?」

と颯が答えるのと同時くらいに梶谷が再度質問をしてきた。

「幸助だけど?」

と言われるがままに答えた颯。すると、何か確信したような表情を浮かべた梶谷。

「あの、石川さんの今日のバイトって以前お借りしたカーディガンのせいですよね」

と梶谷は颯に確証を持って聞いた。颯はその通り過ぎて思わず声が出た。さすがの推理力である。梶谷の言う通り今日、陵大がいないのは以前兄にカーディガンは海に流されたと嘘をついた際、それじゃ今月中までに5万円現金で返せと言われたためである。陵大はこのことを颯にだけ言って、梶谷や寺坂には言わないようにと伝えたのである。しかし、現状は違う。先ほどの颯の反応を見て気づかないやつはまずいないだろう。

「にしても、梶谷さんよくわかったね」

寺坂がまずは梶谷の推理力を褒めた。

「あー、それはお借りしたものを洗濯しようと思い、洗濯物表記を見ようとしたらそこにアルファベットでKと書かれていたので、もしかしてと思っただけです。」

と得意げに話す梶谷。しかし、イマイチ理解できていない寺坂は再度梶谷に質問する。

「それがなんで石川くんに兄弟がいることになるの?」

梶谷は少し驚いた表情を浮かべた後に再び喋り出す。

「私も姉がいるためわかるのですが、同性の兄弟が居ると、母親が洗濯物をする際、どちらの服かわからなくならないようにどこかしらにイニシャルを書くんですよ」

と真顔で解説をする梶谷。寺坂は、初めて聞いたような表情を浮かべている。その様子を横から見ていた颯は、寺坂さん兄弟いないからあまりピンとこないかもね〜とそれとなくフォローをした。その時、何かを思い出したかのように梶谷が自分の鞄を漁り始める。すると、何かを取り出し寺坂の方に近づいてきた。

「すみません、お返しするの遅くなってしまって」

梶谷は先日、海に行った際に借りたシャツを寺坂に手渡した。寺坂は全然大丈夫と言いながらそのシャツを受け取った。そして、梶谷は引き続き今度はその日に陵大から借りていたズボンも取り出した。すると、何か悲しい表情を浮かべる梶谷。

「本当今日、石川さんにもお返ししたかったのですが」

と言いながら、ズボンを握り締める梶谷。

「あれ、肝心のカーディガンは?」

と颯が梶谷に聞いた。

「それが、一応持ってはきたのですが・・・」

とカーディガンもカバンから取り出す梶谷。すると、ヨボヨボになったカーディガンが姿を現した。

「私の洗い方が悪かったのかこんな感じになってしまって」

と落ち込んだ様子の梶谷。

「いや、それは多分梶谷のせいじゃなくて、そのカーディガンを海に来てきた陵大のせいだから大丈夫だと思うぞ。それをわかってるからあいつも今こうして必死にバイトをしているのであって・・・」

と颯が必死に慰めようとするが、梶谷の落ち込み度は変わらない。それを見越した寺坂が口を開く。

「じゃーそれと同じの石川くんに買って渡せば?」

と寺坂が梶谷に聞いた。

「それが、こちら限定商品らしくて今どこにも売ってないそうなんです。」

と梶谷が寺坂に答えた。とこの時颯はだから陵大のお兄さん現物じゃなくて現金を要求したんだと心の中で納得した。そして、しばらく考えた後に寺坂がある提案をした。

「じゃーさ、プレゼント渡せば?」

すると、一気に梶谷の顔が上がる。

「なんでそういう話になるですか⁈」

と顔を赤くしながら言う梶谷。

「いや、プレゼントなら同じものじゃなくても全然大丈夫だし?それにあの日怖い人から守ってくれたしね」

とナンパの時の話を持ちかけてきた寺坂。

「あの時の件は水に濡らされたことでチャラになったので!あと、別にそこまで怖くもありませんでしたし」

と見栄を張り出す梶谷。

「え〜、その割にはあの時身体震えてたよね?」

とからかいの口調で梶谷に言った。すると、梶谷は顔を真っ赤にして寺坂の口を塞ごうとした。

「ね、冨樫くん!石川くんって何か好きなものあるの?」

と勝手に話を進める寺坂。颯も梶谷も思わず声が出る。

「そうだなー、陵大の好きなものといえばやっぱロボットかな」

と上を見ながら答える颯。

「ロボットってフィギュアのこと?」

と寺坂が颯に聞くと颯は軽くうなづいた。そして、陵大の部屋に大量のロボットが並べられていることを颯は2人に話した。

「ロボットですか〜、何を買ったらいいのかよくわかりませんね」

と買う気満々の梶谷。寺坂はその様子を見てかわいいなと思いながらある提案をする。

「じゃーこの後みんなで買いに行こうか!冨樫くんは石川くんの好みのロボットとか知ってるんでしょ?」

と寺坂に聞かれ、まぁーと答える颯。

「そうと決まればある程度のところまでパッパッっと終わらせちゃおう」

とそういうと寺坂は団旗制作の作業に戻った。颯もつられるように作業に取り掛かる。梶谷は少し心もモヤモヤが晴れたようなそんな表情を浮かべていた。


作業をひと段落終え、颯たちは目的地に向かっていた。

「ナビは冨樫くんに任せていいんだよね?」

と寺坂が颯に聞く。

「うん、たまに陵大に連れてこられてたから道は覚えてるよ」

と何も見ずに先頭を歩き続ける颯。すると、ふと気になっていたことを寺坂が颯に聞き出した。

「そういえばさ、石川くんのお兄さんって厳しい人なの?」

すると、颯はそんなことないよと答える。そして、そのままなんでそう思ったか聞いた。

「いやだって、石川くんは梶谷さんが寒いと思って親切心で貸してあげたのに、全額払えーなんて。少しはまけてくれてもいいのに」

と寺坂がちょっと口気味でいうと、颯がそれを聞いて訂正する。

「あーそれは、陵大がお兄さんにはカーディガンは海に流されたって事にしてるからなんですよ」

と颯が本当のことを言うと2人とも驚きと疑問の感情が生まれた。

「え、どうしてそんな嘘を?」

と梶谷が心配そうに颯に聞いた。

「あいつ他の人を巻き込んだ言い訳が好きじゃないんですよ。だから今回も自分のせいということで話をつけんたんだと思います。」

と颯が言うと2人はなんともいえない表情で颯を見続けていた。そして、そうこうしているうちに颯らは目的地に辿り着いた。

「着きましたよ。ここです!」

と言ってたどり着いた先はショッピングモールだった。意外そうにそのショッピングモールを見上げる寺坂と梶谷。

「この中にあるんだね、私専門の店がポツンと一軒だけあるのを想像してたよ」

と寺坂が言うと、梶谷もそれに賛同する。

「あー、確かにそういうところもあるけど、今回はここでいいんだ」

というと颯はそのショッピングモールに入っていく。よくわからないが寺坂と梶谷もなんとなくついていく事にした。入ってみると、そこにはいろいろな店が立ち並んでいた。目を輝かせる女子2人を見て颯はふと聞いてみた。

「もしかして2人ともここに来るの初めて?」

すると、2人ともほぼ同時にうなづいた。2人の顔を見た後に颯はスマホの画面の時間を確認した。

「じゃー、1時間後に3階の『ロボットショップ』っていうところに集合で」

と颯が2人にいうと2人は揃っていいの⁈と喜びながら確認してくる。颯は妹たちの買い物に付き合わされることがあったため、女子はこういったところが好きなことやこういう時は1時間が丁度いいことも知っていた。そして、颯の思い通り2人はすぐにショッピングへと向かった。颯はというと、ここは妹たちと嫌ってほど来ているため特に見るところがない。しかし、颯には待ち合わせ時間までに行くところがあった。


1時間後、颯が集合場所に行くともうすでに梶谷が店の中でロボットを見ていた。おそらく少し前から陵大に何をあげるか考えていたのだろう。

「お待たせ〜、また遅れちゃった」

とほんの1分ほどだが、遅れて寺坂が待ち合わせ場所に辿り着いた。寺坂はどこかのメーカーのマークが入った紙袋を持っていた。

「何買ったの?」

と颯は何気なく寺坂に聞いた。すると、寺坂は少し動揺した仕草を見せた後にただの服だよと言った。そして、2人して熱心に陵大へのプレゼントを選ぶ梶谷の方を見る。寺坂は梶谷さんかわいいと呟き、颯と一緒に梶谷のいるところに近づいた。

「何買うか決まった?」

と寺坂が梶谷に近づきながら聞いた。驚いた梶谷はすぐに颯達の方を見た。ほんの少し顔が赤い気もする。

「いえ、それがやはり何を買ったら良いか全くわからなくて」

とロボット選びに苦戦している梶谷。それを見かねた颯が梶谷をある場所に案内した。寺坂もそれについていく。案内した場所は、『KS-P2Z』と書かれたロボットの売り場だった。これはと不思議そうに颯に聞く梶谷。

「これは、陵大が次に買おうかなとぼやいていたこの店限定モデルのロボットだ。」

と自信満々に答える颯。梶谷はそれを踏まえた上でもう一度そのロボットに目をやる。

「だから、この店に来たのね」

と納得した寺坂。颯は鼻からこれが目当てだった。しかし、店舗限定ということもあり、値段は4万9800円とカーディガンとほぼ同じ値段であった。この金額にはさすがに梶谷もドン引きしていた。

「こんな金額、私の貯金全部合わせても足りませんよ。」

と落ち込む梶谷。

「大丈夫、足りない分は俺が出すから」

と颯は前からそのつもりだったかのように梶谷に言った。

「え、でも私今1万円しか持っていないのですが」

と驚きながら自分の所持金をいう梶谷。

「おー、思ったより持ってるじゃん。大丈夫想定内だから」

というと颯はそのロボットの箱を1つ掴み、レジに向かった。そして、梶谷は持っていた1万円を出すと、颯は残りの分を払うために1万円札を4枚取り出した。颯の財布にはもう1枚残っていた。おそらく梶谷が一銭も持っていなかった時のためだろう。そのために颯は梶谷と寺坂が店を見ている間に銀行に行ってきたのだ。

「ありがとうございました。けれど本当に良いのですか?ほとんどお支払いして頂いて」

と申し訳なさそうに聞く梶谷。

「大丈夫、俺もちょっと陵大に謝罪の気持ちを込めた一品をプレゼントしたいと思ってたから。」

颯はここのところ何かと陵大を怒らせてきており、ここで怒りを一気に沈めたいと思っていたのである。しかし、そんなことは知らない梶谷はポカンとしている。

「でも、よく冨樫くんこんな大金すぐ用意できたね」

と寺坂が聞いてくる。颯はたまに男性のイラストの依頼を受けることがあったため、バイトせずとも多少は銀行にお金が貯っていた。しかし、颯はこのことは話さず誤魔化す事にした。そして、颯たちはショッピングモールを後にした。すると、帰り道を歩いている最中に寺坂がある提案をしだす。

「ねぇ、どうせならこのまま石川くんのバイト先に行ってプレゼント渡しちゃおうよ」

すると、名案だったのか梶谷がすぐに賛同する。初めはあまり乗り気じゃなかった颯もサプライズっていうのも面白そうだなと思い、その提案に乗っかる事にした。陵大のバイト先に行く途中で颯は丁度陵大の家の前を通ったので、それとなく寺坂と梶谷に陵大の家を教えた。

「ここが石川さんの・・・」

と何か考え事をしているように見える梶谷。しかし、それに気づかず、颯と寺坂はどんどん進んでいく。だいぶ進んだあたりで梶谷はやっと決心を固め、行動に移す事にした。

「あの、すみません!買うべき物を忘れてしまったのでお先に向かっててください」

と梶谷が少し離れたところから叫ぶと、寺坂は何かを感じ取り梶谷に聞く。

「連絡手段もないのにどうやって石川くんのバイト先に来るつもり?」

すると、そこのところはあまり考えずに喋り出したため何も言えずに梶谷はためらっていた。

「待ってるから・・・行ってきなよ」

とその様子を見て梶谷に優しく寺坂はそう言った。すると、梶谷は深くお辞儀をして走り出した。

「でも、大丈夫か?ここからさっきのショッピングモールまで結構距離あるし、一緒に行った方がよかったんじゃ・・・」

と颯が寺坂に確認した。

「大丈夫。多分向かった先はショッピングモールじゃないから」

と笑みを浮かべながら寺坂は答えた。颯はよく意味がわからなかったが、寺坂のこの表情を見てなんだか安心した。

「それに、冨樫くんにこれ渡したかったし」

すると寺坂は、紙袋を颯に差し出した。

「え、これって寺坂さんがさっきショッピングモールで買った服なんじゃ・・・」

と颯が寺坂に聞いた。

「うん、だから冨樫くんの服だよ」

と少し恥ずかしそうに話す寺坂。颯は家族以外の女子から初めてプレゼントをもらい、かなりドキッとした。しかし、すぐに我にかえり、なんで俺にプレゼントを?と寺坂に聞いた。

「あの時助けてくれたお礼、その、私も少し・・怖かったから」

と照れながら答える寺坂。その様子に再び颯はドキッとした。そして、そのまま渡された袋の中身を見ると、そこには紺色の夏用のアウターが入っていた。颯はすぐに寺坂にお礼を言う。寺坂も颯の喜んでる姿を見て満足そうである。

「でも、よかった喜んでくれて、別の機会に今度はTシャツとズボンも選んであげるね」

と言い出す寺坂。寺坂にとって颯の服装といえば、あの日の全身青コーデしか頭に無かった。そのため、あの日以来寺坂は颯の服装を心配していたのだ。そんなことも知らず、寺坂からのプレゼントにただただ喜ぶ颯であった。すると、そこに走って梶谷がどこからか戻ってきた。

「あ、あの・・お待たせ、しました・・。」

と息を切らしながら話す梶谷。すると、寺坂は悔いはないかと梶谷に尋ねると、梶谷は晴れやかな笑顔でうなづいた。颯にはなんのことだか全くわからなかった。梶谷の体力が回復したのを確認して再び歩き出す3人。そして、やっと陵大のバイト先に着いた。店の窓から店内を覗く3人。しかし、そこには陵大の姿はない。3人が困惑していると、スタッフ用出入り口からお疲れ様ですと言いながら出てくる陵大を見つけた。3人は思わず声をあげてしまい、その声で陵大は3人の存在に気づいた。

「え、なんで、ここに・・・?」

思い通りの反応に満足する3人。寺坂が梶谷の背中を押しエールを送る。すると、梶谷勇気を振り絞り一歩前に踏み出す。陵大は梶谷に注目した。

「えっと、この度はご迷惑をお掛けしてすみませんでした。」

梶谷からこの言葉を聞いた時、陵大は全てを理解し、颯を睨んだ。颯は目を逸らす。

「なので、こちらを受け取ってください!」

と紙袋を差し出す梶谷。陵大はすぐ目線を颯から梶谷に移す。紙袋を受け取り中を覗くとそこには次に買おうと思っていたロボットが入っていた。

「え、これ!本当にもらっていいのか⁈」

と思わず歓喜の声が溢れてしまった陵大。梶谷も満足そうにうなづく。

「でも、それほとんど冨樫さんに払って頂いたので」

と梶谷は陵大に言った。陵大は少し驚いた後に颯の方を見る。

「お前のために梶谷さん一生懸命選んでたよ」

と金額の事には触れず、事実を述べた颯。すると、陵大は梶谷の方を見て、

「そっかー、俺のために・・ありがとな」

と恥ずかしそうにお礼を言った。梶谷は嬉しさと恥ずかしさで顔が赤くなる。そして、その後は軽く雑談しているうちに暗くなってきたため各々自宅に帰る事にした。

「ただいま〜」

と言いながらいつものように陵大が家に入ると兄がにがまえていた。陵大はお金のことだと思い、お金ならまだ少し待ってといい自分の部屋に行こうとした。すると、幸助からも紙袋を渡された。陵大が困惑していると幸助が話し出す。

「1時間くらい前にな、名前は知らんがおそらくお前の同級生ぐらいの女の子がきてな。すごい丁寧な口調で謝ってきたんだよ。カーディガンはお前のせいじゃなくて私のせいなんですって」

陵大はその特徴から察するに梶谷だろうと思った。

「だから、ほれこれ。お前つまらない嘘つくんじゃねーよ。あと、これで少しはおしゃれになれ」

と言って渡されたのは、高そうなジャケットだった。

「ありがとう、にいちゃん」

と思わず陵大はお礼を言った。

「お前、彼女のこと大切にしろよ」

と幸助はそれだけ言い残し自分の部屋に戻った。そして、陵大の頭には10秒ほど梶谷の顔が浮かんでいた。


「おはよー!」

と元気よく挨拶をしながら教室に入ってきたのは今日初参加の陵大だった。今日も団旗制作のために土曜日にも関わらず、颯たちは学校に来ていた。

「もうお金は返せたのか?」

と颯は意地悪そうに陵大に聞いた。陵大はバッチリだぜと答える。そして、ふと団旗の方に目をやる。

「おいおい、もうほぼできてんじゃねーか」

と驚く陵大。

「うん、あとは1年6組って文字を表の布に書くだけだよ」

と寺坂が筆に墨をつけながら陵大に言った。

「最後だし、石川くんやる?」

と筆を陵大の方に差し出す寺坂。しかし、陵大はその誘いを断り、梶谷を推薦した。

「梶谷、小学生の頃書道で日本一になってるんだろ、頼むわ」

すると、初めて聞いた颯と寺坂は思わず梶谷の方を振り向く。梶谷は少しためらったが寺坂から筆を受け取ると迷いなく書き始めた。書き終えると、そこには一斎迷いの無い力強い字が書かれていた。みんながこぞって感心する。梶谷はまた顔を赤くする。すると、そこに担任の小藤先生が入ってきた。

「おーい、お前たち差し入れだぞー」

と言いながらシュークリームを一番に近くにいた寺坂に渡す。

「わー、先生ありがとうございます」

と寺坂が言うと続いて颯たちもお礼をいう。

「お、いい感じじゃないか」

と完成した団旗を見ながら先生は珍しく生徒を褒めた。あまりにも珍しいことにみんな照れ始める。次回はいよいよ体育祭。どんな体育祭を迎えるのかお楽しみに!

                 続























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