メリークリスマス/ハッピーバースデー 06-3


「いいよ。場所変えようか」


 一緒に買い物を──、その台詞の真意に、ようやく彼は得心した。

 そして、二人は書店から出る。

 真魚に気付かれないように、悟られぬように、場所を移動した。

 数多の本棚が死角になり、特定の人の目を避けるのに、書店という場所は都合がよかった。

 少しだけ離れた場所にある椅子のところに、腰かけて、「さて」と会話をはじめる。


「……聞きたいことって?」

「そうですね……。真魚ちゃんを放置してる真っ最中なので手短に聞かせていただきますが……真魚ちゃんが悩んでること、何かご存知だったりしますか?」

「悩み?」

「8月の頭くらいからでしょうか。何かと思いつめてるようで……最近はそうでもないのですが……」

「あぁ……」


 これまた、納得した。

 聞きたかったことというのは、そこか、と。

 夏。夜。海。月。

 少女と初めて逢った日のことは、よく覚えている。何か思いつめているような、悲しみを海にとかすようなあの振る舞いを。


「真魚ちゃんの話だと、あなたと初めて会った時期と、真魚ちゃんの様子がおかしくなり始めた時期が重なっていていまして……。何か知ってたりしないでしょうか」

「……んー」


 時期が重なっている、というのは彼にとって初耳であった。

 だから礼は、千夜が直接関与する何がしかがあって、それで真魚にも何かあったのだろう、とそんなことを思っているのだろう。

 だけどそうではなくて、彼は純然たる部外者で、真魚と出会ったのはただの偶然だった。

 おそらく、根本的な原因は家族で、父親なのだろうと思う。

 これまで真魚と接してきた中で、なんとなく、そこまでは察しがついていた。


「とりあえずぼくは無関係というか、なんか傷心中のあの子に偶然会っただけだから、細かい経緯とか何も知らないんだ。ごめんね」

「そう、ですか……。わかりましたわ。ありがとうございます。わざわざこんな話に付き合っていただいて。ご迷惑でしたでしょうに」

「いやいいよ別に。……心配するのわかるんだよね。結構……なんか、大丈夫なのかなってなる。あんまり他人に泣きついたり甘えたりしないタイプに見えるし……」

「そうなんですよねぇ……。一回直接聞いたんですけど、『大丈夫だから』の一言で終わりましたわ」

「結局何か干渉するにしても、会話の主導権持ってるのは向こうだからなぁ」

「ですよねぇ……」

「うむ……」


 ふぅ、とため息を一つ。

 他人の悩みにふれて、サパッと解決することができるなら、人間関係で悩むことなんてそう多くはない。

 どうにもならないから悩むし、苦しいし、愛おしい。他人というのは、そういうものだから。


「そろそろ戻りましょうか。真魚ちゃんが探してるかもしれませんし」

「そうだね」


 そうして立ち上がって、書店へと戻るために、歩き始める。


「……でも、ちょっと安心した。君くらい真剣に心配してくれる友達がいるなら、まぁ大丈夫な気もするな」

「それはこっちの台詞ですわ。……なんというか、真魚ちゃんの居場所になってくれてありがとうございます。……やっぱり同年代だと頼りないのか、とか色々思うところもありますが……頼れるところが一つあれば、人間強く生きていけるものですしね」

「まぁなんか知らないけど、結構懐かれてる感じはある」

「いいことですわね」

「いいことかなぁ」

「いいことです」


 喧噪の中に声と気配を混ぜ込みつつ、千夜と礼は、書店へと戻った。

 パッと周囲を見渡しても真魚の姿は見えない。おそらくはまだ店内をぶらつくか何かしているのだろうと思われた。


「真魚ちゃん、どこにいるのかしら」

「向こうかな」

「かもですわね」


 店内の端のほう、雑誌類が置いてあるスペース。

 目に映る範囲にはいないので、可能性として色濃く浮かび上がってきたスペース。

 すすす、と二人はそちらのほうへ移動をして──真魚はすぐに見つかった。

 どうやら雑誌を見ているらしい。じーっと、熱を持って、目を落としている。

 彼は足を止めて、礼は『何を見ているのかしら』と後ろから、ひょこりとのぞき込む。


「あら、お料理ですの」

「! ……礼ちゃん、と小池さんも」


 彼の位置からはよく見えないが、真魚が見ていたのは料理についての雑誌であるらしかった。

 真魚はあわてて棚に戻して、二人に向き合う。


「えぇと……二人はもういい感じ、ですか? 私を待ってた、のかな?」

「待つというほど待ってないですが……まぁめぼしい本もなかったのでいいかなと思いました。真魚ちゃんは何か買って帰ります?」

「ううん、いい。……小池さんは?」

「ぼくも別に……」

「映像派ですもんね」

「まぁ……」


 ふふ、と真魚は微笑みつつ、じゃあ次に行こう、と店外へと歩みを進めた。

 結局本を買うと最初に言っていたにも関わらず冷やかすだけで終わってしまったが、元々大した目的があって来たわけではなかったため、自然な流れと言える。

 そんなわけで、よくわからない時間を過ごした三人は、礼の「これからコスメでも見に行こうかと思っていますが、どうしましょう。殿方は興味ないでしょうし……」という遠まわしな『解散しません?』という言葉によって、二人と一人に戻った。

 そしてようやく、当初の目的通りに双方が動きはじめ、──時刻は17時になった。



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