第39話

クロエとの初の共同の狩りは全部で270830エソになった。2人で狩ったので折半することにしてひとり135415エソ、金貨13枚と大銀貨1枚と銅貨4枚と鉄貨1枚半となった。鉄貨半分は出来ないのでクロエがあたしにくれた。

あたしはいつも通り金貨分はギルドに預け、残りの大銀貨1枚と銅貨4枚と鉄貨2枚は手元に残した。


ギルマスによると今王都にB級のハンターは居なくて、あたし達が1番B級に近いC級だそうだ。それにも驚いたがラーミアが生息していた事の方が問題だったらしい。

もし、もっとラーミアが居たら食糧不足で山から降りてきてしまうかも知れないのでC級パーティに調査依頼を出すそうだ。そのため、倉庫でギルマスにラーミアが居た場所の詳細を話す羽目になった。ほとんど土地勘の無いあたしでは無く、良く行っているクロエが説明した。


あたしはギルマスを見ててやっと思い出した。

アルマント・ワイト、詰まりミズーリ領のハンターギルドのマスターであるブルマントさんの兄弟だったのだ。アルマントさんが弟でブルマントさんから少しだけあたしの事を聞いていたらしい。あたしの実力は話半分だったらしいが実際を見て信じたそうだ。


後でクロエから聞かれた。

「ミリオネアってなんや?」


ハンターネームと答えたら何故か偉く気に入ったらしい。自分もクロエじゃなくてクロアチアとかクロエネスとか違う名前を名乗ろうかなと呟いて居た。クロエはもうクロエで登録してるから駄目じゃないかなと言ったら凄く驚いて落ち込んだ。


そんな感じでエライザ学園の寮に戻って来た。もう陽も落ちて暗かったが自室に戻るとリリスお姉ちゃんは寝巻きに着替えてのんびりして居た。食事も済ませてしまったらしい。

怒っては居なかったが何処へ行くのかは書き置きくらいしてねと言われてしまった。クロエが気を利かせてマリーちゃんに書き置きをして置いてくれたらしい。今日はクロエ様様だった。


リリスお姉ちゃんに謝った後に食堂に食事をしに行ったらクロエも居た。あたしがリリスお姉ちゃんに叱られた事を話したら何故か羨ましいそうに見られた。マリーちゃんは少しもクロエの事を心配してくれないそうだ。それはそれで詰まらないのかも知れない。


食事の後で風呂に行ったら後からクロエがやって来た。風呂も一緒になったので何故か笑い合う。本当に今日はクロエの日だ。


自室に戻ってから今日あった事をリリスお姉ちゃんに話す。

午前中のバージル先生の『魔力纒』の確認行為が酷い話。

クロエに狩りを誘って話をしたらクロエのお父様が元海賊でお母様にプロポーズした話。何とこの話は物語として本になって出回っているそう、びっくりだ。

『ディンブレス教団』という秘密結社みたいのがスキル『闇』の持ち主を探している事。スキル『影』も関連あるかもと狙われるかも知れないよとクロエから聞いた話。簡単な教義を話すとリリスお姉ちゃんも学園の図書館で調べてくれる事になった。

昨日、リリスお姉ちゃんと一緒に崖上から見た森は沼沢の森と言うらしく、クロエが狩りをしている場所だった事。

沼の前の湿地帯にバルフロッグと言うランクCの泥をかぶった蛙の魔物が居て狩った事。

沼に出たリザードンと言うランクCの鰐の魔物に苦戦して木の上に追い詰められて、何とか狩った話。

水蒸気が凄かったと笑って話したらちゃんとスキル『影』の苦手な事は把握して、危険な事は二度としないと誓わせられた。ちょっと心配させ過ぎたかな、ごめんリリスお姉ちゃん。

ラーミアと言う人頭蛇体のB級の魔物と戦ってクロエと共同で倒した話。クロエが放った炎の魔法が木を燃やして慌ててあたしが水の魔法で消した事を言うとリリスお姉ちゃんは蒼い顔で後でクロエには注意しなくちゃと言い始めてしまった。もう、あたしが言ってあるからと庇ったがリリスお姉ちゃんは不満なようだった。


話が終わると結構遅くなっていて寝ようとなったが、リリスお姉ちゃんに一緒に寝ようと言われて嬉しさ半分恥ずかしさ半分の気持ちでリリスお姉ちゃんのベッドに潜り込んでいった。リリスお姉ちゃんはとっても安心出来る匂いがした。



朝方、影従魔『ルキウス』からミズーリ子爵領の狩人ギルドのギルドマスターのアルメラさんが王都に来ると言う報告を受けた。どうやらお願いしていたポーションのオークションが行われるので今日、到着するらしい。

時間があったら会いに行こうかな。


リリスお姉ちゃんと何時もの朝を迎えて、朝食を食べて、ちょっと多めに失敬して、一緒にエライザ学園に歩く。いつものように入口の中で別れて教室に向かう。


教室の中は何故か騒然としていた。特に男子は何かの話で盛り上がっていて、クルチャさんとナランチャさんが立ち話をしているのを珍しくアビーさんが熱心に聞いている。側に座っているミッチェルさんとマクスウェル様は何故か嘆息していた。


あたしの後から入ってきたクロエと一緒にアビーさんに何の話をしているのかと聞いたら、何と昨日のラーミアの話だった。確かにあの後ギルマスのアルマントさんが動いていたから噂話が昨日のうちに奔ったのかも知れない。

話はラーミアが狩られた話をではなくてラーミアが暴れたら危険が王都に及ぶとか、狩れるハンターが王都に今は居ないとかの話をだった。

あたし達の事で盛り上がって居なくて良かったと内心クロエと一緒に安心してしまった。


ランベック辺境伯令息のクルチャさんは魔物について詳しく、ラーミアの特徴や怖さを話し、クロール男爵令息であるナランチャさんは父親が家宰ならしく、王都の損害の規模などを話して居た。側に居たアビーさんは興奮していて自分もラーミアと戦いたそうに熱心に聞いて間の手を入れていた。


アビーさんによると王都を護る騎士団は3つ。一つは王家を直接護る親衛隊と呼ばれる第一騎士団の200名。一つは王都を護る王都騎士隊と呼ばれる第二騎士団1000名。最後は各貴族との連絡や他国との戦に備えた護国隊と呼ばれる第三騎士団10000名だそうだ。勿論アビーさんはミッチェルさんの護衛騎士を目指して居るのでアンドネス公爵家の騎士になる予定だ。


公爵家と各侯爵家は自衛の騎士団があり、伯爵とかの寄り子の数によって違いが大きいらしい。騎士に任じられると爵位を与えられて貴族の一員となり任じた貴族が給料を払う事になる。

騎士には騎士を目指す平民の従者が複数居て、従者の食い扶持はお金のある騎士様は養うが貧乏騎士様はそれが出来ず、それぞれの従者は伝令したり商家にたかって金を無心したりするそうだ。世知辛いなぁ。


すると誰かが教室に入って来た。バージル先生では無く補助教員のナサニエラを名乗る女性だった。簡単な自己紹介では年齢は20歳の平民で主に教材の調査やバージル先生の補助をするらしい。

「出張していたバージル先生がご都合で2、3日戻るのが遅れるそうです。その間は休講となりますので寮に戻って待機、または自習をするようにとの事です。」


詰まり、休みになりました。バージル先生の出張の内容は分らないけれどもあたしには都合が良い。クロエが早速また一緒に狩りに行こうと誘って来た。

「ごめん、丁度ミズーリ子爵領の知り合いが王都に来るらしいんだ。会っておきたいから今日は付き合えなくてごめんね。」


クロエは不満そうだったが納得して貰う。仕方ないから昨日の沼沢の森では無く、高原の方に行ってみるそうだ。あんまり山の上の方に行かなければ山蜥蜴くらいだろうから危険は無いと思う。

取り敢えず一緒に寮まで帰り、自室にメモを残す。リリスお姉ちゃんに出掛ける事を伝えるためだ。


制服から紺のワンピースに着替えてスキル『影』で影の世界に行くと影従魔『ルキウス』が待っていたのでアルメラさんが泊まっている宿に行ってもらう。スキル『影探索』を使うまでも無く、影従魔『ルキウス』の影の眷属の居るところまで直ぐだった。


ミズーリ子爵領の狩人ギルドのギルド長のアルメラさんは黒狐族の女性だ。休み中にポーション類の売却をオークションでやって貰うように依頼した。恐らくその為にやって来た筈だ。

宿は貴族の屋敷が立ち並ぶ近くの商家が多い地区にあるそれなりに高いところだった。宿の路地の影から現実世界に出て宿の看板を見ると『酔狂亭』とあった。飲み屋か?


中に入ると宿の女将と思われる女性が出てきた。

「うちにお泊りでしょうか?」


ワンピースの小娘に問い掛ける内容じゃないけど答える。

「こちらに宿泊しているアルメラさんの知り合いです。部屋を教えて頂けますか?」


じろじろ見ないでさっとあたしを見て、女将らしき女性が言った。

「お名前を伺っても?」

「ミリオネアと言います。」

「暫くお待ち下さいませ」


丁寧な対応をして女将らしき女性が姿を消した。暫くすると駆けるようにしてアルメラさんが階段の上から降りてきた。

「ミリオネア様!良く此処が分かったのじゃ!」


獣人のアルメラさんが泊まれる程の宿であれば丁寧な対応をしてくれると思っていたが間違いなかったようだ。階段の上の方に居た女将が軽く頭を下げる。

「ええ、知り合いが此処に入って行くアルメラさんを見たと聞いたので、例の件で王都に来たのだろうと思って来ました。」

「なるほどのう、まぁ此処では何ですから部屋まで来るのじゃ」


見られているのを分かって居るのか、アルメラさんがあたしを部屋に連れて行く。アルメラさんの部屋は3階の特別室のようだった。すっごく高そうだ。

部屋の中に入ると鍵を掛け、荷物の中から魔導具を出して起動した。

「これで音は漏れんのじゃ。しかし本当に良く此処が分かったもんじゃ。」

「まぁ、スキルで分かったんです。それで守備はどうです?」


声を潜めるあたしにアルメラさんは苦笑して言った。

「既に保証金を受け取ってポーションは渡してあるんじゃ」

保証金とはオークションに出す時の最低価格でオークション主催者が保証するお金の事だと言う事だった。


ハイポーションが金貨5枚で10本。マナポーションが金貨10枚で1本、キュアポーションは金貨20枚で1本。合計で金貨80枚は堅いと言っていたが全部で金貨100枚の保証金を受け取ったと言う。物を確認したオークション主催者はマナポーションとキュアポーションはもっと上の値が付くと言ったらしい。どうやら今回のオークションの目玉商品として王家にも声を掛けたと言う事で主催者は自信満々だと言うのだ。


アルメラさんにも主催者は誰か知らないが日付と場所の指定だけは受けたのだ。既にこの宿の女将にはアルメラさんの名前が通って居て、着いた途端にこの部屋をあてがわれたらしい。しかも主催者持ちなので気楽だと言われる。

お金は既に狩人ギルドを経してミズーリ子爵領に渡したというので安心だ。後は今夜のオークションに出席して結果を確認して差額を受け取るだけだと言う。


この宿『酔狂』で昼食を取った後に女将直々にオークション会場に案内されるらしい。オークションって秘密の会合みたいに夜に開催するのかと思ったら今日のオークションは午後にあると言う事であたしが来たのは良かったとアルメラさんに言われる。


「ミリオネアは何処までハンターレベルは行ったのじゃ?」

「今はC級に上がったところ、この間は友人と狩りに行ってB級のラーミアを狩ったんだよ」


目を見張り、信じられん、信じられんとアルメラさんは呟く。

「だって、アルメラさんも見たようにスキル『影操作』で魔物を狩れるんだもん、動きが鈍いあたしでも楽勝だよ。」

「そうじゃったな。あれは凄かった。」


納得してくれたが、あたしのスキル『影』のことを誰が知っているのか気になったようで聞かれる。

「お主のスキルの事を知っておるのは誰じゃ。さっき言っておった友人だけか?」


だからあたしは信用の置けるリリスお姉ちゃんとクロエの事を教えた。他の者達はあたしのスキル『影』はあたしが影に隠れるだけのものと思っている筈だ。あっ、そうだ。

「王都のハンターギルドのギルドマスターってミズーリ子爵領のハンターギルドのブルマントさんの弟でアルマントさんって言うの!」

「知っとるわ」


簡単に応えられて転けそうになる。

「だからアルマントさんもあたしのスキル『影』に魔物が収納出来るのは知ってそうよ」


顎に手をやりふむとアルメラさんは言う。

「それくらいなら大丈夫そうじゃ」

「そうそう、これは知らない筈よ。クロエから聞いたけど『ディンブレス教団』という秘密結社が合ってスキル『闇』を探しているんだって。あたしのスキル『影』が関係あるかもと接触して来るかも」

「ぬぬ、それは知らんぞ」

「『魔神ディンの神子を蘇ららせて世界を魔族の元に』って教義らしいわ」

「ヌヌ、魔族じゃとぅ〜!」


いきなりアルメラさんが怒り出した。アルメラさんの顔が怒りで赤くなったのが分かった。教えてはくれなかったが何か因縁があるらしい。

「ミリオネアよ、魔族には気をつけるのじゃ。あ奴らは下級と言えどもハンターランクBはあるからのう。まぁあ奴らは人間世界の闇に紛れて表には滅多に出てくる事は無いはずじゃがな。」


あたしの肩を掴み念を押す。

「あっ、そうじゃ。ミリオネアに伝えて置きたいことがあるのじゃ。今回のオークションに出すに当たって、ミズーリ子爵領の穴(ダンジョン)を埋め戻す事で見つかったと言う情報を流したのじゃ。そうしたら不逞の輩が湧いて来おってのう、良く分からん魔物に襲われる者が出ておる。今度ミズーリ子爵領の森に入る時は穴(ダンジョン)は避けるのじゃぞ」


まぁ、長期の休みに入らなければ帰郷しないだろうから心配要らないと言って置く。


そろそろ時間じゃと言ってアルメラさんが魔導具を解除して、あたしを連れて階下に向かった。無論オークションに出るじゃろと聞かれて元気よく頷いておいた。

昼食はディナー程では無いがちゃんとしたコースだった。ちょっとワンピースじゃ場違いかと思ったが問題ないとアルメラさんに言われた。

気になるならとアルメラさんのアイテム袋からパールのネックレスを渡された。アルメラさんのものとお揃いだった。意外とこの人お金持ちなのかもと有り難く借りておく。


少しアルメラさんと談笑していると宿『酔狂』の女将が声を掛けて来た。オークション会場に案内してくれるようだ。女将の後に続くアルメラさんの後にあたしも付いていく。

宿の外に出るのかと思ったら地下に降りていった。地下室の入り口には屈強な体躯をしたボディーガードと思われる男達が見張っており、女将の姿を見てドアを開けた。

あたし達がドアを開けた先に行くと部屋の中央に大きな魔法陣が描かれて居た。

「その魔法陣の真ん中へどうぞ」


そう言われてアルメラさんとあたしはそこまで歩いて行くと、壁際で待機していた男が何か操作する。魔法陣がが光り始めあたし達を包み込み何処かへ連れて行った。


光が収まると同じような魔法陣のある部屋に出た。そこには老紳士みたいな男性が居て、声を掛けて来た。

「ライアンと申します。分からない事は何なりとお聞き下さいませ。」


とても低音の渋い声だった。どうやらオークションの案内係のようだ。こちらへと誘われて転移してきた部屋を離れ、通路を通って他の部屋に案内された。そこは片面が開放された部屋で立派なソファが置かれテーブルがあった。壁際には様々な飲み物が置かれている。

ライアンと言う老紳士に誘われてアルメラさんと並んでソファに座ると開放された窓から大きな劇場みたいなものが見えた。

うわぁ〜凄い!こんな場所に来たの初めて!

あたしが感激しているとアルメラさんのため息が聞こえた。

「ほう、オークションには来たことがあったが出品者の扱いは破格じゃのう」

「お気に召されて畳帳でございます。」


ライアンと言う老紳士に促されて飲み物を貰う。アルメラさんは年代物のワインだがあたしは薄められたジュースにした。ジュースを飲みながら劇場みたいなオークション会場を見る。中央にはステージみたいな高台があり、それを囲むように座席が幾つかの塊で別れている。良く見ると此処と同じような見下ろす場所があるようだから出品者の席は幾つかあった。あちこちに魔導具らしき投光機があり、薄暗くいが暗すぎない演出を保っている。劇場みたいと思っていたが本当の劇場なのかも知れない。

「ねぇ、ライアンさん。ここって劇場?」

「さようでございます。」


ライアンさんは簡潔に答えた。アルメラさんも聞く。

「転移魔法陣は遺失技術と聞いておったがまだ残っておったのか?」

「・・・高位の方々のみご存知の事でございます。」


なるほど、貴族の身分の高い者だけ知っている事らしい。


オークションが始まるまで時間があるようなのでアルメラさんに触れてアン様を呼び出した。幻影さえ出さなければアルメラさんと話しているようにしか見えないだろう。

「ディンブレス教団の事を教えて」


アン様によればディンブレス教団は魔神ディンの息吹を受けし者、魔族によって構成されスキル『闇』を持つ者を探しているようだ。平民の中や人知未踏の地に潜み、暗躍しているらしい。アン様の時も一人の魔族と諍いがあったがその魔族とは和解したと言った。でもスキル『影』を持つ者を仲間にしようとしてきた魔族も居たらしい。アン様にもその構成数や場所は知らないようだった。

もしかしたら初代『シド』様の頃から仕えている影従魔『ルキウス』や『レリチア』の方が知っているかも知れないと言われた。


陰に控えている影従魔『ルキウス』に聞いたところ、戦った事はあるが知らないし興味も無いと言われてしまった。


まぁ、『ディンブレス教団』は仕掛けて来ない限り放置するしかないだろう。そんな事をアルメラさんと話していると音がして、劇場のカーテンが開き始めて、オークションが始まった。


オークションの最初の物は怪しげな彫刻だった。変な形をしているが遺失物らしい。金貨5枚から始まったが値を上げる者が出ずに流れて仕舞う。ライアンさんに聞くとああいった値が付かなかった物は次のオークションに掛けられるか、損切されて廃棄されるらしい。流れる時は闇市などに行く場合もあると教えてくれた。


次の出展物はきれいな白磁のような羽根を持った美女の像だった。誰かに話し掛けてそのまま固まってしまったような姿がやけにリアルに出来ている。遠目なので細かい部分は分からないが羽根もかなり精巧では無いだろうか。天人の女神と名付けられた像は金貨5枚から始まりあっという間に10枚を越え、14枚で落札された。あたしも必要無いのに何故か欲しいと思ってしまったくらいだ。


その後は遺失物の魔導具が幾つか纏めて出展されて落札されて行く。オークションで値段が競られて付けられて行くのが意外と楽しく感じられた。中にはこんな物を誰がこんな値段で欲しがったのだろうと思う物もあった。実に興味深い。


その中で特に目を引いたのはエルフのオークションだった。人身売買や奴隷の売買はこの国では昔から禁止されて居るので該当しては居ないのだろう。

シェールと呼ばれたエルフもきれいな赤色のドレスを着ていたし、隷属の首輪などと言われる遺失物での拘束もされて居なかった。チョーカーと呼ばれる幅広の赤の布は巻いて居るが不自然さは無かった。メイドとして優秀な為に高額で仕えたいとの希望でオークションに自らを出展したと司会が説明する。更には要求があれば夜の勤めも応じると話が進むと会場が湧いた。

隣のアルメラさんから舌打ちが聞こえた。

「あれは体の良い人身売買にはならないの?」


と聞くと不機嫌にアルメラさんは答えてくれた。

「見た目は自由契約じゃが見えん場所に逃走防止の魔法は掛けられておろうよ。咎められる筋は無いのじゃ」


結局エルフのシェールは夜のお勤め付きで月に金貨25枚で落札された。契約期間の説明が無かったから無期限なのかも知れない。


次に出てきたのは厳つい体をした獣人だった。ジアと紹介されたのは有尾猿人の獣人で戦闘に向いた体力と技術を持っていると説明がある。戦闘経験が南部の紛争地帯であり、敵だったが捕虜となってオークションに出されたのだそうだ。あまり金額は上がらず月に金貨15枚で落札された。


その次は大きな水槽が出てきた。説明ではラフェという名前の魚人。種族はサハギンだそうだ。丈夫そうな金属の枠に小さなガラスの小窓が沢山付いていて、上蓋がはずされている。中に居ると思われる魚人が動くと水が揺れ、水槽全体が揺れる。司会が水槽の角を叩くと中から魚人が頭を出した。大きく瞼のない目、耳の代わりの大きな鰭、見えてる所には鱗が鈍く光る。何と言っても特徴的なのはその臭いだ。信じられない位生臭い。こんなに離れているのに臭う。


司会者がオークションの出された経緯を説明するが間の手を入れるかのようにゲェーッゲェーッと声を上げる。共通語が話せないのか意味が不明だ。

臭いが我慢出来なくなったのか説明の途中でオークションを始めた。金貨1枚からなのに名乗りてが出ない。結局流れてしまった。あのラフェというサハギンの魚人はどうなってしまうのだろう。逃したりしないんだろうなと思って居るとアルメラさんが涙を流していた。

「どうしたんです、アルメラさん」

「いや、何。あの魚人の行末を考えたら同情してしまったのじゃ」


どうやらアルメラさんもあたしと同じように始末される事を予想したようだった。


生臭さが立ち込めた会場の臭いを追い出すように風の魔法が使われる。大分我慢が出来そうなくらいになったところで司会者が声を張り上げた。

「紳士淑女のみなさん。さぁ今日のオークションの最大の山場です。みなさんもお待ちかね、あの品がお披露目です!」


司会者の声に合わせてバニーガールのお姉さんがワゴンを押してきた。その周りを厳重な装備を身に包んだ4人の警備が現れた。バニーガールのお姉さんが運んで来たのは色のない10本の硝子瓶と薄い緑色の硝子瓶1本と薄い青色をした硝子瓶1本だ。無色の硝子瓶はハイポーション、薄い緑色の硝子瓶はマナポーション、薄い青色の硝子瓶はキュアポーションだ。

司会者がおもむろに無色の硝子瓶を手に取って説明を始める。

「このポーションはハイポーションです。」


会場にどよめきが響き渡る。

「簡単な傷ならポーションで済みますが、内蔵にまで達した傷は致命傷!しかぁーし!このハイポーションさえあれば問題ありませんっ!バラバラにさえされなければこの1本ですっかり元通り!さぁ金貨5枚からどうぞ!」


すぐさまあちこちから声が掛かり、あっと言う間に金貨8枚まで値が上がる。小瓶の大きさは香水の瓶とあまり変わらない大きさなのだ。中身も微々たるものだから金額も上がり辛かった。

「さぁこのハイポーションは金貨8枚の値が付きました。全部で10本ですので全部手に入れるなら金貨80枚ですが、如何でしょう。落札されたあなた、何本をご要望でしょうか?」


集まっていた客は声が出ない。10本全部を買ったのだと思って居たからだ。落札した男が苦しそうに答える。

「・・・5本まで出そう。」


言い終わるや否や司会者が再度オークションを始めた。

「さぁさぁ、残り5本〜どなたが手に入れるのでしょう?」


すぐさまあちこちから入札の札が上がるがその内の一人がとんでもない事を言った。

「残り5本に41!!」


落札価格を上げたのだ。司会者はニンマリとする。

「さぁさぁ他に声はありませんか!」


結局司会者の思惑通りに釣り上げられた残り5本に金貨45枚の値段が付いた。だがこれは始まりに過ぎない。

司会者は薄い緑色の硝子瓶を指し示す。

「こちらの小瓶はマナポーション。マナです。ご存知のように人の魔法はマナを必要とします。マナを使い切った魔法使いはただの人に過ぎません。

先程まで大規模魔法で敵を蹂躙していた魔法使いが使えぬ唯の人に成り果てるのです。・・・ですがこのマナポーションさえあれば、再び立ち上がることが出来ます。使い切ってしまったマナを全て取り戻せるのです。あなたはこれにどれ程の価値を見出しますか?さぁ初めは金貨10枚から始めましょう。」
















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