第29話 二人の反応
「俺の実家が室屋と同じお寺だってことは知ってるだろう」
「まああの大学はそう謂う関係者が割と多いのは知ってるしそう珍しくもなかったよ。それでも俺やみぎわのように無関係の者も結構いたのは確かだけど、四年も居ると慣れてしまったなあ。だから忘れていたわけじゃあないよ」
「何か取って付けたような言い方だが、要は入学時に比べてそれほど気にしていなかったちゅうことか」
と云われて波多野は申し訳なそそうな顔をしたが、それだけ俺の内面ばかり見ていてくれていたと感謝された。
「それで実家でも寺をどうするか勿論俺は次男坊だから関係ないと思っていたがどうも兄貴の体の調子が
「それは室屋さんは知ってるのか」
「ああ同じ実家がお寺と謂う身の上だから就職については良く話していたよそれで良くそこそこの会社に決まって良かったと大学新卒でバイトじゃあカッコつかないって言われたよ」
二人は四条から
「古い町だから細い道が多くてなんせ応仁の乱以来余り大きな戦災が無くて戦中に急遽道路の拡張工事が各地で始まったがみんな途中までなんだ地元の人に言わすとそこで戦争が終わって中断したままの手付かずの道路が昔のまま今も残っているらしい」
丁度目的の喫茶店を前にして一通りこの町の道路事情を講釈して店に入った。数年にわたって失恋の
入った喫茶店は間口は狭いが奥行きがある
「何だ仕事が終わって真っ直ぐここに来てくれたのか」
と直ぐに出来上がるパスタのような物を頼む二人に、牧野は申し訳なさそうに言った。
「そうよみぎわちゃんと夕食の予定をしていた処にメールが来たんですものね」
と今日は予定がなさそうだから、二人で食べに行こうと相談が
それで何なのと珈琲を飲み出した二人に切り出すと、二人が食べ終わってからと勿体ぶって言われた。深刻そうだから入社早々五月病、まだ桜が咲いたばかりだと嗤われてしまった。そこへまだ湯気の立ち上る二種類のバスタ料理がテーブルに並んだ。こうなると花より団子で何を言っても始まらない。
「そう謂うこと。だから直接予定変更して来たからまだなん〜にも食べてないのよねだからごめんあそばせ」
と室屋は来たばかりのパスタを先に食べ出した。みぎわも先ずは腹に詰めるものを詰めなければ良い考えも浮かばないと室屋に追従した。これにはマクドで腹ごしらえを先に済ませてしまった牧野と波多野には何も言えずに黙って
お待たせ、と室屋は口元を拭き取りながら「それで何なの」と急に呼び出した要件を問い
室屋の歯に
「何よ、そんな難しい顔をされて、まさか一週間で会社を辞めるって云うんじゃないでしょうね」
学生時代のあの牧野ならあり得るが、今の
「いや、仕事は面白いよ、学生時代には及びもつかなかった連中に刺激されて飛躍出来そうだが……」
「だが何なの」
「多美ちゃんはせっかちね大の大人を相手に」
と隣で聞いているみぎわにすれば、子供相手に道理を説く、あのお寺で見た彼女そのままだと言いたげだ。
「先ずは仕事の話からを聞いてあげる、で、いいんじゃないの」
彼に代わって俺が説明しょうと、波多野が牧野の顔色を窺って沈黙の同意を得た。
「此の一週間は先輩の受け持ち区域の一部を廻らされてそこで初めてバイトと違って正社員として会社の名刺を背負って色々な人と出会って社会人の仲間入りの洗礼を受けたんだよ」
何事も始めの一歩は大変だけど皆がやってることでしょう、と軽く聞き流された。
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