24話「一難去ってまた一難」
「はぁー……。除霊を終えたとしても護符の回収やらなんやらで、直ぐに帰ることすら許されないとはな」
京一が除霊を終えた事を市の職員である野村に報告しに神社へと戻っていくと、優司は小言を漏らしながら木や地面に貼った護符を一枚一枚手作業で回収し始めた。
「仕方ないさ。一般人に護符やら除霊など言っても頭のおかしいカルト教団みたいな目を向けられるだけだし」
奥の方から幽香の声が聞こえてくるが披露に見舞われているのか若干声色が低いように優司には感じられた。
「そ、そうなのか……。一応悪霊対策省という国の機関があるぐらいなのに除霊師ってのは肩身が狭いものなんだな」
護符を剥がして左手に持つとそれは段々と束になっていき、彼は調子に乗って至る所に貼り過ぎた事を後悔していた。次回からはもう少し考えて限度というものを考慮して貼るべきだと。
「まあ非公式扱いだしね。……さ、無駄話はこれぐらいにして先輩が戻ってくるまでに回収作業は終わらせておくよ」
幽香はそう言って話を終わらせると奥の方での回収を終えたのか、段々と木々が生い茂っている場所へと入っていくと姿が見えなくなった。
「ああ、そうだな」
彼女にこの言葉が届いているのか分からないが、優司は回収作業が面倒だと思いながらも短く返事をして残りの護符を無心で集めていくのであった。
――――それから暫くして優司達が護符を全て残さず回収し終えると同時に、京一が小走りで戻ってきて野村に悪霊を払った事を電話で伝える事が出来たらしい。
あとは明日の朝になれば野村が仕事を終えてそのまま来るらしく、その時に京一は白装束が殺ったと思われる男性の生首や死体の事を報告する予定であるらしい。事前に彼女にそのことを報告しなかったのは、あれが白装束が見せた幻覚の可能性があったからだ。
「生首については白装束が茂みの中に投げ捨てたから今から探すのは困難だね。ご遺体には悪いが日が昇ったら捜索しよう」
明かりも無しに草木が生い茂っている中に入って生首を見つけるのは難しい事を京一は言うと、明日の朝に再びこの場所へと来て捜索する気でいるらしい。
恐らく野村が来てから探す事で仮に生首が見つかったら、彼女を証言人として警察に通報する気でいるのだろうと今の優司は何となくだが理解出来た。学生の身分である自分達が通報したとしても信じては貰えないだろうと言う可能性を考慮しているものだと。
「「はい」」
彼の言葉に二人は同時に返事をすると、京一は静かに頷いて三人は神社へと戻るべく足を進めた。白装束を払うという当初の目的は達成出来たのだが、優司は如何せん胸騒ぎのような何処か心のざわめきを感じていて落ち着く事が出来なかった。
それは偏に白装束に例の悪霊について訊ねた時に見せた反応が気になるからである。
悪霊が怯えるというのもおかしな話ではあるが優司はあの怯えが一体何を意味しているのか……それがずっと気になってしまい護符を剥がしている時もそのことで頭がいっぱいであった。
「さあ、到着だ。本来ならば除霊後は親睦を深める為に全員で風呂へと入って裸の付き合いをしたい所なのだが……予想以上に霊力を消耗してしまってもう眠気が限界だ。すまないが俺は寝る」
優司が考え事をしている間に神社へと到着していたらしく、引き戸を開けて中へと入ると早々に京一が眠気を堪えた様子の声色でとんでもない事を言い出したが、どうやら本人が限界を迎えたらしく最悪の危機は逃れられることが出来た。
「「…………」」
その際に優司は咄嗟に幽香と顔を見合わせていたのだが、彼女は口を一の字にして僅かに開けると目を丸くしていたのだが、京一が寝るために靴を脱いで上がっていくと胸を撫で下ろすように安堵の溜息を漏らしていた。
「あ、危なかったな……」
安心して気が抜けた声が優司の口から出て行く。
「そ、そうだね……。僕は優司以外の男に裸姿を見られなくないから……っ」
幽香は自分自身を抱きしめるような仕草を見せてから彼から視線を外して照れくさそうに呟いていた。
「……えっ、そこなの?」
彼女の言葉を聞いて数秒の沈黙が訪れると優司は連続でまばたきをしたあと聞き返す。
「ん? 何か間違ったこと言った?」
幽香は不思議そうに首を傾げているだけであった。
「あ、いや……まあ良いか。俺達も今日は寝るとしよう。そして朝一で風呂に入れば問題はないだろうしな」
頭を左右に振って考えることを辞めると彼は京一と同じく早々に寝ることを選んで彼女に提案する。
「うん、そうだね」
そして幽香もそれに賛同らしく小さく頷くと二人は靴を脱いでから部屋へと向かって残りの体力を消費しながら布団を敷くと倒れるように眠るのであった。
◆◆◆◆◆◆◆◆
それから何時間かが経過すると玄関の方から忙しない足音が聞こえてきて、優司はその音によって起床を余儀なくされると重たい瞼を擦りながら起き上がった。
「んあぁ……。一体なんの騒ぎだぁ?」
そのまま部屋の出入り口をぼやけた視界のまま優司は見つめていると、障子が大きく音を立てながら開けられた。
「はぁはぁ……。あ、おはようございます」
開けられた障子の向こうには息を切らした野村が立っていて、彼女は優司と目が合うと挨拶をして周囲を見渡していた。
しかも野村は如何にも今仕事を終えて来たのだろうという見た目をしていて、髪は所々が跳ねていたり披露が伺える顔色や服装が乱れていたりと全体的に疲れていそうであった。
「お、おはようございます……?」
優司はそんな彼女を見て多少疑問口調になりながらも返事をする。
「あ、あの! 古本さんは何処に居ますか!?」
すると野村は急に大きな声で京一の居場所を聞いてくる。
「先輩ですか? でしたら向こうの部屋かと……」
彼はこんな朝から何事かと思いながらも指を隣の部屋に向けて教えた。
「ありがとうございます!」
野村は感謝の言葉を言い放つと慌てて京一が寝ているであろう部屋へと突撃して行った。
「……あれは本当に野村さんかぁ? 最初に会った時はもっとほんわかしていたようなぁ?」
徐に両腕を組みながら優司は初めて野村と対面した時のことを思い起こすが、口調や雰囲気がまるで違う事に違和感を覚えた。けれど彼女が朝一でここに来た事から風呂にすら入れなかったが、取り敢えず横で寝ている幽香を起こすことにした。
――――そして京一と幽香も起きて全員が居間の真ん中に揃うと、昨日の夜の出来事を野村に話し始めて白装束に関してはやはりと言う反応を見せていた。だがしかし京一が生首の件について話し出すと、彼女は途端に表情を強張らせて強く反応を示していた。
そんな彼女の様子が気になったのか幽香が事情を訊ねると、なんとその男性の生首は野村の弟である可能性が高いらしいのだ。というのも彼女の弟はかなりの心霊好きであるらしく、一週間前ぐらいに家を出てから行方が分からなくなっているとのこと。
そして野村は弟が家を出る間際に何処に行くのかと訊ねると、地元の心霊スポットとだけ言い残していたらしいのだ。
「でしたら、急いで探しましょう。仮に弟さんじゃなくても、このまま見過ごすことは出来ませんからね」
野村から一通りの事情を聞くと元々この依頼を頼もうと思ったのも弟の失踪が少なからず関わっているらしく、京一は手を顎に当てながら眉を顰めると男性の首を探しに行くと言って二人へと視線を向ける。
「わ、私も探します……! じゃないと気持ちが……収まりません……」
だが二人が返事をするよりも先に野村が気合の篭った様子で名乗りを上げた。
「……分かりました。ほら、二人とも行くよ。ここからは除霊とは関係なしに人助けだ」
彼女の言葉に京一は間を空けてから同行することの許可を出すと次に優司達に声を掛ける。
「「はいっ!」」
二人は真剣な声色で言葉を返すと準備を整えてから外へと向かうのであった。
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