11話「学園到着!だがしかし……」

 敬明が運転する車に乗って優司と幽香は愛知県の名古屋市にある除霊師育成の学校、通称【名古屋第一高等十字神道学園】を目指していたのだが……。


 気が付くと二人を乗せた車は何故か青森空港の駐車場へと着ていた。

 優司と幽香は当然ここに連れてこられた意味が分からず、車窓から外とを見ては呆然としている。


「……すみませんね。結構格好良い事言ってましたけど実はここから名古屋までって十二時間ぐらい掛かりますので普通に車で向かっていたら到着は夕方頃になってしまいます。だから我々悪霊対策省が保有している”専用の飛行機”で名古屋まで送ります!」


 二人が外を眺めてじわじわと焦りを募らせていると、敬明が車のエンジンを切りながら言ってくる。すると優司の隣では幽香がスマホを取り出して何かを検索し始めると、


「み、見て優司! いまアプリで経路出したんだけど本当に十二時間ぐらい掛かってる……」


 スマホの画面を彼の目の前に突き出してきた。優司はまじまじとその画面に視線を向けると、確かにそこには青森から名古屋までの大雑把な予測ルートと到着予定時間が表示されていた。


「ま、まじなのか。……と言うことは本当に俺達は今から飛行機に?」

「ええそうですよ。さあ早くいきましょう。時間は有限ですからね」


 敬明がそう言って車から降りると二人は依然として事態を把握できていないが急いで車から降りてトランクルームから自分達の荷物を取り出した。


「ではこのまま政府専用のゲートから入場して一気に飛行機が止まっている場所まで向かいます。ちなみに青森県から学園に向かう人達は全員この飛行機に乗っていますよ」


 車から一通りの荷物を取り出すと敬明は脂汗を滲ませた顔をハンカチで拭いていた。

 その様子から見るに彼も多少の焦りがあるのだろう。

 恐らく優司達が学園に遅刻しないかどうかの問題が。

 

「ちょっと優司! 何をぼさっとしているんだ! はやく沼さんに付いて行かないと遅れるぞ!」

「あっ……すまない!」


 優司が考え事をしていると敬明と幽香はいつの間にか空港の中へと向かっていて、彼は急いで荷物を両脇に抱えながら走って追いかけた。


◆◆◆◆


「ふぅー。何とかぎりぎり間に合ったな」

「本当にぎりぎりだよ。あと数分遅れていたらこの学園行きの飛行機も出発していて完全に遅刻が確定していたよ……」


 優司の隣で幽香が溜息混じりの声を出しながら背を椅子にあずけている。

 見て分かる通り今優司達は悪霊対策省保有の政府専用機の中に居るのだ。

 勿論だが既に青森空港から飛び立って今は日本の上空を優雅にフライト中だ。


 この飛行機の中は一般的な飛行機の内装と変わりはなく全体的に普通の印象だ。そして優司自身は飛行機なんて生まれて初めて乗ったものだから、妙にぎこちない感覚を受けている。

 

「……にしても意外と人が乗っていて驚きだな」


 彼が視線を周りに向けると自分と同じぐらいの年齢の人達が数十人ぐらい座っていて、敬明の言っていた通り同じく青森から学園に向かう人達だと言う事が何となくだが分かった。


「そりゃそうだよ。幽霊が見えたり干渉出来る人は貴重だからね。政府も血眼になってそういった人を全国から探しているよ。……って前にお父さんが言ってたけどね」


 幽香が彼の独り言に反応して鳳二からのうけうりを話す。


「なるほどなぁ」


 それに対して優司は数回頷いて納得していた。


「って事はこの飛行機に乗っている奴らは俺達と同じ第一高等学園に行くんだよな?」

「いや、それはそうとは限らないんじゃないかな? 第一の他にも第二、第三と言った具合で学園はまだあるし。……あーでも、だったら既に別の空港に向かっている筈か……態々全員で名古屋まで行って他の学園に向かうなんて面倒なだけだし」

「えっ! そうなのか!?」


 優司は幽香が唐突に放った他の学園の存在に思わず大きな声が出てしまった。

 すると周りからは無言ながらも五月蝿い静かにしろと言った意味をはらんでいるであろう視線が優司の元へと注がれていた。


「す、すみませんでした……」


 彼は小声で皆に謝るが、きっとこの声は幽香にしか届いていないだろう。

 だがそれで今の優司は他の学園の存在の方が気になってしょうがない。


「なあ、その第一の他にも学園あるって言う話の続きを――」


 幽香に他の学園について再び聞こうとすると機内に短く軽やかな曲が流れ始めた。

 そして次に無線のようなノイズらしき音が一瞬聞こえると、


『まもなく当機は着陸体制に入ります。座席の背とテーブルを元の位置にお戻しになり、シートベルトをしっかりとおしめ下さい』

 

 と言った言葉が聞こえて周りが一斉に動き始めた。

 それは幽香も例外ではなく機内アナウンスに従って手を動かしているようだ。


 優司は取り敢えずこの話は一旦陸に着いてからにしようと思うとシートベルトに手を伸ばして固定する。

 ――暫くして、そのまま優司達を乗せた飛行機は無事に名古屋飛行場という場所に到着した。

 

 それから続々と飛行機から皆が降りていき優司と幽香も外へと出ると、彼らの目の前には敬明を含め多数の黒服を来た人達が待機していた。

 実は敬明も優司達と同じ飛行機に乗っていて後ろの方の席に居たのだ。


「それでは皆さん! 今からバスに乗って学園へと向かいますのでこちらにお願いします」


 黒服姿の女性がそう言うと先頭から順にバスへと入って行く。

 荷物は黒服を来た人達がバスのトランクルームへと運び入れてくれるらしいので、そのままでいいらしい。


 全くもってサービス精神の高い行政機関だと優司はつくづく思うが、逆にここまで優しくしてくれると何か裏でもあるんじゃないかと勘ぐってしまう部分も否めなかった。


「それでは出発致します」


 車内の椅子に座りながら優司が外を眺めていると、敬明のアナウンスが聞こえてくると同時にバスは出発した。名古屋飛行場から出ると直ぐに車が大量に走っている道路へと出たのだが……、


「うぉ!? なんだこの人と車の交通量の多さは……」


 優司は普段そんなに車も走っていない田舎方で過ごしていた事から、歩道に沢山のスーツを来た人達や髪色が虹色をしている人を見ては驚きの連鎖であった。あんな奇抜な髪型の人が地元を歩いていたら、一夜で噂が広がるだろうと優司は確信を持って言える。


◆◆◆◆


 ――そしてバスは二十分ほど都会の道を走ると優司の目の前には学園の校門らしき物が見えてきた。彼はそれを確認するかのようにじっと目を凝らすと、やはり学園の校門で間違いはなかった。


「ついに俺達は来たのか……。名古屋第一高等十字神道学園にっ!」


 彼がそう呟くと同時に周りに座っていた男子や女子達もそわそわしだしている様子だ。

 だがその気持ちは優司にも分かった。


 何せ初めて田舎から都会の、しかも学園に来ているのだ。

 色々と気になる部分があるのだろう。特に学園の設備や学園周りの店とかに。


 きっと都会の人達は自分達の知らない食べ物や知識をいっぱい持っているに違いない。

 ここで名古屋の友達が出来たら色々と案内して貰おう。優司はそう心に誓った。


「ではバスを降りたら直ぐに”手荷物検査”がありますので学園の職員に従って行動してください! それと……私達のサポートはここまでとなりますが、皆様が無事に学園を卒業することを悪霊対策省職員一同心から願っております」


 バスが学園の校門を潜って敷地に入っていくと敬明のアナウンスが流れ始めた。

 だがしかし、優司はその言葉の意味を理解するのに二分ほど時間を要した。

 

 ……いや、実際意味は直ぐ理解出来たのだ。

 だけど彼が最も恐れていた手荷物検査と言う言葉を聞いた瞬間に、全ての思考回路が一時停止したのだ。


 しかし無情にもバスはそのまま敷地に入って停車すると、周りの人達は続々と降り始めて預けた手荷物を黒服の人達から受け取っている様子だ。


「お、おい幽香どうなってるんだよ! 手荷物検査なんて聞いてないぞ!」


 優司はその光景を見て直ぐに隣に座っている彼に文句を言おうとする。


「僕だって今初めて知ったよ! ど、どうしよう……」


 だがしかし幽香はすっかり弱りきった表情を見せていた。


「ぐっ……! その仕草は反則だろ……!」


 幽香はそこら辺の女子よりも普通に可愛い幼馴染だ。

 そんな幽香が子犬のように可愛らしい瞳で尚且つ上目遣いでどうしようと弱々しく言ってくるのだ。……ならば彼の答えはこれしか言えないだろう。


「はぁ……。まあ、まったく予測していなかった訳でもないしな。多分だが何とかなるだろ」

「ほ、本当か!? もしあの下着が見つかったら優司は立派な変態さんに……」


 幽香は優司が立派な変態さんになってしまうのかと心配している様子だが、何も彼だって無策で検査を受けようとは思ってはいない。だから優司は自分の声に自信を込めてこう言う。


「動じるな幽香! 全て俺に任せておけ! たったいま策を思いついたからな!」

「お、おぉ……!」


 幽香はその自信たっぷりの声を聞くと反応に困ったのか、頷くぐらいの反応しか返してこなかった。しかし優司はそんな事を気にせずに、早速思いついた策を実行する為にバッグを受け取りに外へと向かうのだった。

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