第7話 初めてのキャンプ

  パラキ村で魔物退治をし、いざディメールへ! と旅立って半日、俺は昨日一睡も出来なかったので、体がダルい……。


「翔様、顔色優れないようですわね?」

「なんだ翔、体調悪いのか?」

「兄ちゃん具合悪いの?」

 

 誰のせいだと……。

 いや、でも悪くは無かったけどな! ちくしょう!!


「カケルさん体調優れないんですか?」

 

 パラキ村からディメールまで一緒に行く事になったメルさん。


「カケルさん、僕良いポーション持ってますけど、使いますか?」

 

 メルさんの兄であり、冒険者のテイルさん。


「いや……、大丈夫です」


 寝不足でポーション使うなんて勿体無いからな……。

 てか、ポーション持っていたならキャタピラスに襲われて怪我した時に使えば良かったのでは……?


「少し休んで行きましょう」

 

 メルさんの提案で、街道の隅で休憩する事にした……が、休んでもイマイチダルさが取れない。


「これはもしかして……」


 シルクは何か思う所があるらしく、魔法陣の中に戻って行った。

 テイルさん、メルさんには3人が精霊と前もって伝えておいた。

 めちゃめちゃびっくりされたけどね。

 ただ2人共精霊には詳しく無いとの事で、「そんな事も出来るんですね」 「だから強いのかぁ」 と割と軽く流してくれた。


『やっぱり思った通りですわ』

 魔法陣に戻ったシルクから声が聞こえる。

 何か原因がわかったのか?

『はい、前にも申し上げましたように、わたくし達を召喚したままだと魔力が減り続けるとお伝えしたと思います』

 そう言えばそうだったな。

『3人もの精霊を召喚したままで、翔様は昨日寝ていないと仰っていましたから魔力が枯れそうになってます。 急いでエルザとマリスを魔法陣へ戻して下さいませ』

 だからダルさが抜けないのか。


「エルザ、マリス、魔力が枯れそうなんだ……魔法陣へ戻ってくれ」

「しゃーねーな」

 

 エルザはすんなりと魔法陣に戻るが、マリスは……。


「えー! 僕まだ召喚されたばかりだよー! 兄ちゃんともっといたいよ〜!」

「マリスごめんな、魔力が戻ったらまた召喚してやるから」

「絶対だよーー」

 

 そしてマリスも魔法陣へ戻ると、ダルさが少し無くなった感じがした。


 しばらく休憩し、体調も良くなってきたので出発する事にした。

 パラキ村からディメールまでは約3日程かかる。 あまりゆっくりもしていられない。


 順調に進み、日も暮れてくると野営をする事になった。

 パラキ村で買い込んだ食料でメルさんが温かいシチューのようなスープを作ってくれる。

 昼間は暖かいけど、夜は少し冷え込む。 メルさんの作ってくれたスープは体にしみる……。


「はぁ〜……、美味い……」

「本当ですか!? 良かった!」

 

 俺が本音で誉めたのでメルさん超笑顔。


「そうだろう! メルは冒険者の腕はまだまだだけど、料理は上手いんだよ」

 

 テイルさん……、上から言うなぁ……。


「兄さんも冒険者の腕はまだまだでしょ!」

「タハハ……」


 テイルさんは参ったなと頭をかいている。


 テイルさんはE級の冒険者、メルさんは冒険者になりたてのF級とのこと。

 2人共まだまだ新人という事みたいだ。

 テイルさん達の説明によれば、冒険者ランクはS〜Fまであり、更に冒険者を超えたランクGと言うものがあるようだ。

 G級を持つ者は世界に3人しかいないと言われているらしい。


『翔もそのG級とやらを目指そうぜ!』

『翔様ならきっとなれますわ』

『兄ちゃんならなれるよ!』

 食事と休憩で魔力が回復してきた事で、頭の中で3人が喋り出す。

 G級かぁ……、なってみたいもんだな。

 その前に魔法の一つでも使えないとな。

 と、2人に魔法の事を聞いてみる。


「2人は魔法使える?」

「僕は使えないけど、メルは使えるよね」

「初級魔法だけですけどね……」

「凄い!」

 

 魔法が使えない俺にとっては初級だろうが関係無く、魔法が使える事が凄く羨ましく思う。


「ディメールに着くまでで良いから教えてくれない?」

「それは……良いですけど……、カケルさんが私に教わる事は無いと思いますよ」

「え? でも俺魔法使え無いよ?」

「「え!?」」

 

 2人共キョトンとした顔で俺を見る。


「カケルさん、精霊様を3人も召喚しているじゃないですか?」

「召喚魔法なんて使える人は少ないですよ」


 …………。

 そうだったのか! あの召喚って魔法だったのか!

『だから使えますと言いましたわよ』

『気づいて無かったのかよ!』

『さすがマリスの兄ちゃんだね』

『お前の(あなたの)では(無いですわ)ねーよ』

『えーー!』

 頭の中が騒がしい……。


「さて、そろそろ眠りますか、僕とメルで交代して見張るので、カケルさんは寝てて良いですよ」

「俺も交代しますよ」

「良いんですよ。 私達慣れてますから。 それにカケルさんはまだ体調が万全ではないでしょう?」


 だいぶ回復した気もするが、まだ3人を召喚出来るほどの魔力は回復していないようだ。


『翔、あたしが見張ってやるから2人も寝かせとけ』

 エルザが!?

『1人位なら召喚出来る魔力は回復してるぜ』

『それならわたくしだって出来ますわよ』

『僕がやるよ!』

『おめーは寝ちまうだろうが!』

『寝ないよー』

 騒がしくなってきたが、ここは最初に言ってくれたエルザに任せる事にした。

 エルザ頼むよ。

『任せときな』

『仕方ないですわね』

『次は僕だからね!』

 わかったわかった。


 さて、エルザ頼むぞ。


「赤き紅より真紅に燃えし心なる火種 盟約に基づきその姿を見せよ!」


 魔法陣より出てきたエルザに夜間の見張りは任せる事になり、俺達は簡易テントで寝る事にした。

 俺、キャンプするの初めてなんだよね。

 ちょっとワクワクする。


 テントの中で寝袋に入るが、エルザが気になって眠れない。

 テイルさんとメルさんも眠ったようで、焚き火のわずかに燃える淡い光と薪がはぜる音、微かに聞こえる虫の声しか聞こえなくなる。

 エルザは焚き火の番でもしているのだろうか?


 俺はテントから抜け出してエルザの元に向かう。


「なんだ翔、寝れねぇの?」

「ああ、ちょっとね」


 キャンプと言うワクワク感、エルザの事も気になって眠れない。

 俺はエルザの横に座り、小声で話す。


「エルザ達をなんで俺が召喚なんて出来るんだ?」

「そりゃ、翔が……っといけね、話せなかった」

 

 やっぱりエルザでも話せないのか。


「俺の過去とかに関係でもあるのか?」


 俺の過去とは、地球で暮らしていた時のことを指す。


「ん〜……、まぁ、そんな感じだ」

 

 そうか、まだわからないけどそう考えておこう。


 俺は死ぬ時トラックによって撥ねられた。

 生前の俺は兎に角運の悪いことが多く、トラックに撥ねられる一月前に他のトラックに撥ねられ松葉杖で大学へ通っていた。

 やっと治った日に死ぬと言う……。

 まぁ、この世界に転生出来て、精霊達と冒険出来るし、魔法だって使えるかも知れないなら悪くは無いよね。


「翔はもう寝ろ。 魔力が回復しないとマリスがうるせぇぞ」

「わかった、あ、でも一つ聞いて良いか?」

「なんだ?」

「エルザ達を召喚している時、魔力枯れになったらどうなるんだ?」

「おそらくだけど、多分魔法陣に強制的に戻されると思うぜ」

「そうか」

 

 そうならないように魔力だけはキチンと回復しておかないとな。


「エルザ、見張り宜しく頼む。 おやすみ」

「ああ」


 エルザは軽く手を振り、焚き火に薪を焚べる。


 俺はテントに戻ると安心と疲れですぐに寝てしまった。

 焚き火の燃えている音、虫の音だけが僅かに聞こえていた。

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