第3話 ゴブリン退治
異世界転生してしまった俺、
この村ではゴブリン退治のために討伐隊が組まれ、俺は宿と飯のためにその討伐隊に参加するのだった。
「ふぁ~……良く寝た……、ここは何処だ?」
見たことのない天井、部屋の中を見てしばし考える。
そうだった、俺は異世界に転生したんだった!
『翔様、おはようございます』
『ふぁ~……おはよ』
頭の中で声がする。
火の精霊エルザと水の精霊シルクだ。
『今日は村長の所で討伐隊についての説明があるのでしたよね』
そうだったな。
俺は宿から出て村長の家に向かうとエルザが話しかけてきた。
『なぁ、なぁ、今日はあたしを召喚してくれよ』
村長の話の後ならまぁ良いけど……、なぁ、魔力が無くなったらどうなるんだ?
『ぶっ倒れる』
え?
『私が説明致しますわ。 魔力は枯渇してしまうと気絶してしまいます。 ですがその前に目眩などがあります。 そうならないように自分の魔力量を知っておく必要がありますわ』
回復はしないのか?
『魔力を回復させるにはいくつか方法があります。 まずは休む事です。 他には回復薬、他の方に魔力を分けてもらう。 とかでしょうか』
なるほど。 魔力は寝ると回復するのか。
村長の家に着くとアミルさんに村長の部屋まで案内してもらい、説明を受ける。
討伐作戦の説明を受けながら途中途中で、アミルは可愛いじゃろとか、料理も上手くての~など、自慢話が入る……。
無駄に長い時間話を聞いたのでちょっと疲れた……。
討伐についてだけ話すとこうなる。
ゴブリン討伐隊は総勢20名、パーティは3つに分ける。
俺はその中の後方支援の隊だ。
作戦決行の日は明日の正午、ゴブリン達が巣から出払っている所を狙う。
巣のヌシを倒せば後は残党を狩るだけと言う事のようだ。
村の中を歩きながら考えていると、ヌシってなんだ?とかパーティを3つに分けた理由は? とか疑問が浮かぶ。
村長の娘自慢でつい聞きそびれてしまった。
明日の討伐に向けて装備を少しでも整えておくようにと、銀貨2枚と銅貨5枚をもらった。
初めて見る銀貨や銅貨にテンションは上がる。
そして初めて入る武器屋に興奮を抑えて、扉をくぐる。
「すげぇ!」
店内には数は少ないが、武器が並べられている。
「いらっしゃい」
武器屋のおやじさんは筋骨隆々、片目にはキズがあり眼帯をしている。
まさに武器屋って感じだ。
「あんたもしかして討伐隊のメンバーか?」
俺を見るなり質問をしてくる。
「そうです」
「そうか……なら武器より防具を揃えな」
「?」
俺は防具より武器が欲しい。
ゲームのRPGでも武器優先派だ。
「防具より武器が欲しいのですけど」
「そうかい……」
残念だと言う顔をして、武器屋のおやじは店の入り口にあるタルの中に乱雑に入った武器を指差す。
「そこの武器なら銀貨1枚でかまわねぇ」
手に取ると重い。
剣ってこんなに重いのか。
でも男子なら憧れる剣。
俺は見栄えの良さそうな剣を手に取り、買って腰に着ける。
「くぅ~……、最高!」
テンションが高い俺の頭の中でエルザがため息をついていた。
残ったお金で昼ご飯を屋台で買って済ませ、村はずれの誰もいない場所で早速剣を抜いて振り回してみる。
剣なんて使った事ないから使い方はわからないけど兎に角いい感じだ。
一しきり振り回してポーズを決めていると、何やら話声が聞こえる。
この声は村長か?
「……高い金払っているのじゃから討伐は頼むぞ」
「お任せください。 私の作戦は完璧です」
「おお、頼もしいの」
もう1人誰かいるな。
俺はチラッと覗いてみたが顔が見えず、鎧を着ている事しかわからなかった。
さて、宿に戻るか。
村長ともう1人が去った後、俺は宿まで戻ると食事を済ませ部屋に戻る。
ベッドに横になり立てかけた剣を見ると明日の事が不安になってきた。
『あたしに任せとけば大丈夫だって』
エルザはそう言うが、やはり不安はある。
そして討伐の日がやってきた。
あまり良く眠れず少し寝不足だが、今日はゴブリン討伐の日。
俺は後方支援だから戦う事は少ないはず。
3つに分けられたパーティの1つに入り、隊の1番後ろで森の中を進む。
隊の編成は1番前を進んでいる屈強な隊が9人、真ん中の弓矢などの隊が6人、1番後ろの俺のいる隊が5人で構成されている。
しばらく進むと突然前の隊が止まり、ゴブリンと遭遇したらしく刃のぶつかる音が聞こえて来た。
その戦いはすぐに終了したようで、また森の中を進む。
1番後ろを歩く俺の後ろからガサガサと音がする。
俺のすぐ横を矢が飛び、一緒の隊の1人を射抜いた。
「ゴブリンだぁー!!」
隊の1人が叫ぶとゴブリンがゾロゾロと出てくる。
それを知っていたかのように先頭を進んでいた隊がもう来ている。
「ここは俺たちに任せて、向こう側へ!」
この討伐隊の隊長役の人、名前を【ヘバリー】と言ってた人が俺たちの隊の前に出る。
「わかりました」
俺達はすぐに反対側に向かうと、どうやら隊長もゴブリン達に押されているようで、俺達の隊は巣に近づいてしまっている。
『あたしがやってやろうか?』
エルザに頼むとこの森事なくなりそうだが、今はそんな事を考えている暇はなさそうだ。
頼むぞエルザ。
「赤き紅より……うわっ!」
俺の足元に矢が突き刺さる。
ゴブリンの数が増えて来ていて、避けたり後退するのが精一杯で呪文を唱えられない。
そして俺達は巣の前まで追いやられてしまった。
「君達は巣の中へ!」
隊長は1番弱い俺達の隊を巣の中に逃がす作戦らしい。
「でも巣にはゴブリンが!」
「ここにこれだけいるんだ! 巣の中は空っぽのはずだ! 急げ!!」
隊長に急かされると俺達は巣の中に進む。
薄暗い巣の中を進むと入り口から大量のゴブリンが向かってくる。
「隊長達はどうした!?」
俺の隊の1人が叫ぶがゴブリンのキーキー鳴く声しか聞こえない。
奥まで逃げると少し広い場所に出る。
そこには更に大勢のゴブリンが待ち構えていた。
「もう……だめだ……」
1人は諦めゴブリンに倒され、1人はゴブリンの矢で射抜かれ、1人はゴブリンに突撃して行った。
「うおおおおー!!」
今しか無い。
「赤き紅より真紅に燃えし心なる火種 盟約に基づきその姿をみせよ!」
俺の前に赤い魔法陣が現れると赤い髪の毛のエルザが召喚された。
「行くぜ!雑魚ども!!」
エルザの放つ火はゴブリンをまとめて吹き飛ばし、飛んでくる矢も燃やし尽くす。
「あーはっはっはっ!!」
楽しそうにゴブリン達を吹き飛ばしている姿を見るとどっちが敵かわからなくなりそうだ。
それよりさっき突撃した人の元へ駆けつける。
「大丈夫ですか?」
「す、すまない……、アリサに……娘を頼むと……」
それだけ言うとその人は力なく崩れ落ちた。
くそっ!!
『まだ助かりますわ』
「それは本当か!?」
『さぁ、早くわたくしも召喚してください』
わかった。
「青く澄んだ清流の流れよ 盟約に基づきその姿を見せよ!」
目の前に青い魔法陣が現れ、青い髪の水の精霊シルクが召喚される。
シルクは傷ついて倒れている人を水の泡で包むと傷が消え、顔色も良くなってきた。
「これで大丈夫ですわ。 翔様はこの方の側に」
「シルクは?」
「わたくしはエルザの手助けに行って参ります」
手助けがいるのかわからないが、シルクはエルザのもとに行くと、火と水の魔法が合わさりゴブリンを火の玉で燃やし、水の刃で切り刻む。
ゴブリン達から見たら地獄絵図となっているであろう。
あれだけいたゴブリンはものの数十分のうちに綺麗さっぱり倒されていた。
ゴブリンの巣から出て来た俺達の前に現れた隊長の部隊、真ん中の部隊が俺達を見て驚いている。
「ゴブリン達はどうした?」
「あたしが倒してやったよ」
エルザは胸を張って答える。
「馬鹿な!あの数を倒したのか!?」
「そうですわ。 貴方の作戦も失敗ですわね」
シルクは冷たい目で隊長を睨む。
「作戦?」
「おそらくその方はゴブリン達と協力して村長を騙し、翔様達を生け贄にしようとしたのでしょう」
「な、なんのことだ!?」
「まず、森に出たゴブリン達の数が少なすぎます。 後ろから奇襲をかけているはずですのに貴方の隊が来るのが早すぎますわ。 そしてあの数なら貴方達なら負けるはずがないでしょう。 なのに押されるふりをして翔様達の隊を巣に近づけましたわ」
「そして、翔達を巣の中に入れて逃げられないようにゴブリンを入り口から入れた」
エルザが横から口を挟む。
「おそらくはゴブリンと手を組んで、村を襲うゴブリンを退治するフリをして村長様からお金を騙し取り、しばらくしたらまたゴブリンが増えたと言って生け贄を差し出し、村長様からお金を奪うおつもりだったのでしょう?」
「何を言っている! どこにそんな証拠がある!? それにお前らは一体だれなんだ!」
「「私達は翔(様)の僕だ(ですわ)」」
「はぁ?」
「成程ねー、人の良い村長を騙して俺達をゴブリンの生贄にするとはね。 証拠とか言ってるけど、あんた達が生きてここにいる事が証拠だろ? おおかた村には1人で戻ってゴブリンは倒したけど、自分以外は死んだとか抜かすんだろう?」
証拠は無いが、ハッタリをかましてみる。
「ふ、ふふふ……ハァーハッハッ! そこまでわかっているなら話が早い。 ここで死ね!」
あ、自分からバラしたよ。
ヘバリーは剣を抜いて向かって来た。
はずだった……が。
エルザの火の玉で顔を吹き飛ばされてその場に崩れ落ちた。
他の者はそれを見るなり武器を捨て降参し、俺達は村に戻った。
ゴブリン討伐に成功したお礼として村の広場で宴が開かれた。
「いやー! 良くやってくれたよ!」
背中を叩いてくる村長は上機嫌。
あのヘバリーの仲間達は全員罰を受ける事になった。
エルザはやっとお酒が飲めると大騒ぎ。
でもその飲みっぷりは村の人に気に入られ、勝負している。
シルクさんは村の女性や女の子達と楽しそうにおしゃべりしている。
2人共馴染むの早いな。
「あの、カケルさん」
俺は疲れて隅っこでジュースを飲んでいるとアミルさんが声をかけて来た。
「今回は私のお父様がご迷惑をおかけしました」
申し訳なさそうに深々と頭を下げてくるアミルさん。
「俺は大丈夫です。 亡くなった方もいますが、無事だった方もいますから。 それに村長さんだって騙されていた被害者ですからね」
「翔~一緒に飲もうぜ~!」
「エルザ!」
エルザが首に腕を回してくる。
「ほらほら、グイーッといこう!」
「だいぶ酔ってるな」
「私がこんくらいで酔っ払う……ヒック! わけないらろ~」
「あーもう、アミルさんちょっとエルザに水飲まして来ます」
「はい」
俺とエルザが水をもらいに向かっている背中から「カケルさん、ありがとうございます」とそんな声が聞こえてきた。
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