第20話 恋人らしいこと



〈春川陽菜side〉


「春川さん、ちょっといい?」


 四時限目の終わったすぐ後、拓人の"親友"と噂されている寺門君が私の所へ何の用があるのか、来た。


 一応私の恋人である拓人がイケメンと言っていたのは一目見て納得する。漂う人が良いオーラと朗らかな笑みに、端正な顔立ち。


 自分の顔がいいことを鼻にかけたりしない様子も普段から見られる。


 入学してからまだ3ヶ月も経っていないが、このクラスにとどまらず、他の学年、クラスの女子から既に何度も告白されてるという噂がたっている。


 けど、私は少し苦手だ。一応、クラスのカースト上位のグループに居るという自覚はあるにはある。が、決して同じカーストの陽キャ男子のようなオラオラ系やひたすらうるさく話すタイプが元々苦手なのもある。


 別に、寺門くんがそういう人とは違うってことは分かる。拓人私の恋人にそういうノリをしているのはよく見るけど。


 それとは別で、なんか、拓人関係だとなにか企んでそうな雰囲気を感じるからだ。たまに観察されてるような気がする。


だから、正直なところ、寺門くんは私は苦手で、逆を言えば、私が一緒に居て安心するのは拓人のような比較的大人しい雰囲気の人だ。


そう考えると、余計に拓人との恋人関係が少し恥ずかしく感じる。


ともかく、そんな彼が、一体私に何の用があるのだろう?


「何?寺門くん」

「おっ。拓人が言った通り、拓人が勘違いしないよう、他の男子には苗字呼びで区別してるようで重畳、重畳」

「……」


なんかすっごい楽しそう。私の反応を見てより面白がりそうだから無反応を貫く。



マッドサイエンティストの実験対象モルモットってこんな気持ちなんだろうか。




「ごめんごめん、ちょっと春川さんに提案があってさ。『拓人関係で』」

「え?」




〈桜庭拓人side〉


〜翌日〜



「今日は雲が多くて外の景色はイマイチだな……」


俺の学校生活は、美玖と登校(もしくは春川と)、授業をうける、遥輝と話す、空や外の景色を眺める、の4つがほとんどだ。


外の景色を見てるの心が穏やかになっていい。


昨日は土砂降りでバイトを早退して急いで美玖と一緒に家に帰って(学校の帰りに傘を届けに来てくれた)、洗濯物を入れた。


俺の分まで傘を常備してくれるなんてなんで偉い子。


それに比べて俺は傘も持たず、可愛い美玖に傘一つ分の荷物を余計に持たせてしまうなんてなんて悪い


次からは常備しよう。


「ね、ねぇ拓人」

「ん?」


声をかけられ、振り向くとそこには春川が立って、手には弁当であろう物が携えられている。


「そ、その……お昼、一緒に食べない…?」

「わかった、ちょっと待っててくれ。机の上整理するから」


俺の机の上はものでいっぱいだ。


授業そっちのけで外眺めてるのになんで汚いかって?


家の家計簿をつけてるに決まってるだろ。


親がいないため、生活費は遠い親戚からの微々たる補助金?支援金?と俺のバイト代でどうにかするしかなく、計画的に節約して使わなければあっという間に火の車になってしまう。


美玖はまだ中学3年だからバイトは出来ない。


高校になったら俺と同じバイト先で働きたいようだ。


「大丈夫!もう内定もらってるから!」


仕事が早い。店長も無類の可愛い美少女好き(店長は女性だ)だから、多分即OK出しただろう。


この前鼻血出して倒れてたのはそのせいだったのか。



「いや、そうじゃなくて……」


おっと、またトリップしていた。


「屋上……ここじゃなく」


なるほど。


たぜ?






「ごめんねわざわざ屋上でなんて」

「別に構わない」

「そう?……ふふっ」


なぜ笑う。


女子はよく分からないな。美玖の気持ちも兄として精一杯分かろうとするのだが分からない時もあって、内心精進が必要だと考える。


あれ?そういえば彼女春川がいる時は他の女子より優先するって約束したな。妹ならセーフか?


「俺購買で買ったパンあるのだが」

「毎日それだと体に悪いよ?」

「人間そうでもない」

「主語がデカいよ!?」


だんだん距離感がわかってきた様で、春川は最初の頃やり思い切りが良くなっている。


他の男子、特に春川自身もいるはずのカースト上位の男子の前では眼光鋭いんだが。


仮にも恋人の前だからか?


「あ、でもそっか。妹さんいるもんね。話し聞く限りちゃんとしてそうだから大丈夫か」

「まあな」

「じゃ、じゃあさ、購買の代わりにこれ……たべる?」


そういって差し出してきたのは先程彼女が持っていた弁当である。


まさか。


「これ俺の傍に分だったのか?」

「う、うん。私のはこっち」


弁当は二重に重なっており、2つ分あった。上が俺ので、下の弁当箱が春川のものらしい。


「素直にありがとうって言っておけばいいか」

「声に出すと失礼だよ?」

「冗談だ。頂いていいのか?」

「そのためにつく……持ってきましたから」


なぜ敬語?と思わんでもなかったが、ここはなんとなくスルー。


最初に食べるのは卵焼き。焼き加減が見た限りちょうどいい。


味付けは────


「うん。うまい」

「ほ、ホント?」

「あぁ。若干甘めの味付けで俺は好みだ」

「甘いの好きなの?」

「どちらかというとな。そこまで甘党って訳でもないが」

「ふぅーん」


意味ありげに笑うな。女子の突然の微笑みって怖いんだよ。


「こちらの野菜は──」


その後も春川の持ってきた弁当を食べ進めた俺だった。その間、春川は俺の一挙手一投足を食い入るかのように観察していた。感想を聞きたいのだろうが、春川も食え、と言いたくなる。


「拓人」

「んぁ?」


変な返事をしてしまった。


思いの外、弁当が上手くて何を食べようか迷っていたら油断していたらしい。


九十度横を向いて春川の方へ向き直ると、ウインナー箸で捕まえ、こちらに向けてくる彼女の姿があった。


「あ、あーん?」

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女子に告白されたが、罰ゲームだと分かっている俺は絶対に騙されない アルカナ @hiro5015

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