第17話 配信中② 《藤枝トモ》

 VTuber甘露ケイがいつもの可愛らしさのまま、すっとんきょうな奇声をあげた。


『ふぬわっ! ぬぅわんでなの!?』


 よほど結果に納得できなかったらしいが、『第一回 性別不詳組No.1イケメン対決』の視聴者投票は、甘露ケイが圧倒的最下位で終わった。


『ケイもがんばったけど、相手が悪かったかな。このオレがいるんじゃ、仕方ないよ』

「ミィ君、フォローしてもケイちゃん最下位だよ? 僕やアマネっちにも負けてるんだから、相手どうこうじゃないじゃん」


 耳にささやくようなミドルボイスは、ぶっちぎり一位だった三宅猫ミィのものだ。普段からキザなイケメンキャラのVTuberである三宅猫ミィが勝つのはわかりきっていたことだけれど、VTuber藤枝トモ――あるいは、女子高生の志藤留衣からすれば、自分が二位であったことにはおどろいた。


(まぁでもケイちゃんが、視聴者からイケメンって言われている図も浮かばなかったけどね……)


○ミィ様のイケボいっぱいで最高配信でした

○王子に嫁ぐ姫たちがまた増えてしまった

○うちのミィが一位だなんて、光栄! 他の三人も個性的でよかったですよ

○ミィママ来てるなww 俺はケイのパパになりたいよぉ


 とはいえ、流れるコメントから見れば、彼女の二位は単なる消去法なのだろう。

 エロガキキャラとまで評される自分のキャラがイケメンから遠いことは、自分でもわかっている。もちろん、リアルでの彼女も、イケメン的な要素はない。女子校で、整った容姿と文武両道ぶりから、同性からの人気もあるけれど、それは決して女子校の王子様のようなものではなかった。


(そういえば、うちの学校って中学に王子って呼ばれている子いるんだよね。興味なくて顔も知らないけど)


 おそらく彼女自身は、学校で誰もが知る有名な生徒だ。けれど彼女本人の交友範囲はとてもせまく、顔見知りの生徒はクラスメイト程度で、その中で親しく話すのはほんの数人、友人とまで言えるのはせいぜい――。


(千世もけっこう素顔は王子っぽいんだけどね)


 と思い浮かべる友人の百瀬千世くらいだった。

 百瀬千世はきれいな顔立ちだが、普段は地味な装いであまり学校内でもそのことは知られていない。変に目立って面倒事も多い彼女からすれば、友人の要領のよさはうらやましい対象だった。


『おかしいよ。なにかが間違っているって! だって、ミィさんが一位なのは、ギリギリわかるとしても。……トモが二位で、アマネさんが三位!?』

『ふふふっ、アマネ、ケイよりイケメンですよぉー。うれしいですー、投票してくれたみんなありがとぉー』

『ぐぬぬっ! アマネさんに負けたのは特に納得できないんだけど!?』


 アマネ・エーデライトは、ふわふわとしたやわらかい声としゃべり方で、もともと性別不詳と言っても男性としてはほとんど見られていない。


○アマネ様に票を入れるのは、我らにとっては当然のこと

○今日も声にいやされるんじゃぁ

○つつまれるような幸せ。これはイケメン

○まあアマネがイケメンかはさておいても、ケイとどっちがイケメンかってなると、アマネになる


 流れから分析するなら単純なアマネの人気なのだろう。企画趣旨にあまり関係なくとも、推しているVTuberに投票してしまうファンもいる。

 藤枝トモというキャラクターのエロガキさが消去法でイケメンの枠になんとか入って、アマネ・エーデライトはファンの数である程度の票が集まり、圧倒的な女子人気の三宅猫ミィが優勝する中で――。


○ケイは逆に自分が何位になると思ってたんだ

○かわいそうに、身も心も美少女なのに設定だけはまだ男なのかwww

○ケイは性別不詳VTuberだぞ。設定は不詳だぞ

○なおその設定は本人以外から軽視されている模様


 惨敗した甘露ケイがいる。

 美少女キャラが完全に定着してしまっていて、それにいじられやすいキャラでもある以上、もはや本人のがんばりではどうにもならないだろう。

 VTuberとしての甘露ケイはアバターが美少女で、女声で、キャラも男らしいわけではないのだから、がんばりようもないのだけど。


(ケイ……かわいそうだけど、でもケイが魅力的な男性だってのは私だけが思っていればいいからねっ。うんっ、漫画家のお姉さんとか警戒しないと)


 彼女にとっても、大好きな甘露ケイが不憫な目にあうことは悲しいのだけれど、誰からもとられたくないという気持ちが、内心では勝ってしまっていた。

 それもこれも、先日の飲み会から始まった一連のできごとが大きな原因だ。


 彼女は自分と甘露ケイの間には、他の何者にも邪魔されない特別な関係があると信じていた一方で、やはりまだ自分に自信を持ちきれない部分もある。

 甘露ケイの言葉一つに一喜一憂し、彼が女性ばかりの飲み会へ参加したとなれば不安で心を惑わしてしまう。


(勘違いでいろいろあって、すっごく恥ずかしかった。……でもケイが私のことエロいってほめてくれたし、家に来てって言われたら、絶対そうだってなるよね!? やっぱりケイがちょっと思わせぶりな態度すぎるのも問題だよね?)


 誤解もあったけれど、彼が向ける好意自体には、嘘偽りはなかったはずだ。

 それでも、どうしてか不安は消えない。


『そうだよ! 正当なイケメン票は……悔しいけどミィさんに流れてたわけだから、あとのエロガキ票とかアマネさんの票とかは、なんかこうイケメンかどうかって以外の要素で順位決まってたよっ! だって俺、この中ならミィさんの次にイケメンだもんっ』

『そんなに不満なら、アマネとケイで再戦してもいいですよぉー?』

『本当に!? よしっ、じゃあ来週にでも……』

『オレ不在でイケメンを決めさせるなんて、視聴者のみんなにも酷なんじゃない? ま、オレ以外は全員大差ないってことで、ここは』


 三宅猫ミィが素なのか、来週も同じ企画をするなんて論外だという合理的な判断なのか、止めに入った。


(よかった。ケイが私以外の人と、二人だけでなんかするなんて、相手がアマネっちでもいやだし)


 相手がアマネ・エーデライトでも――というのは、彼女にとって、アマネ・エーデライトもまた大事な友人であり、他の女性に対して向けるような敵対心がないということだった。

 けれど、心の奥ではむしろ、二人の距離感が近づいていることを勘づいて、アマネ・エーデライトだからこそ、いやだ――と赤信号を出していた。


(ケイがモデルになっているあの漫画……ケイの相手の、もう一人の女の子……きのせいかもしれないけど、ちょっとだけアマネっちに似ている気がするんだよね……)


 描いている人間がアマネ・エーデライトなのであるのだから、作者本人にキャラクターが似てしまうのは、ある意味自然なことなのかもしれない。甘露ケイをモデルにしたキャラだって、完全に甘露ケイというわけではなかった。

 だから漫画というフィクションの世界で、二人の女の子が恋愛をすることは、リアルではなんの意味もないことであるはずだ。

 そう言い聞かせても、彼女の気持ちは穏やかにならない。


『くぅ、いつかミィさんよりも俺がイケメンになるよ! リベンジはアマネさんじゃないな……アマネさん倒しても仕方ないし、ミィさんを倒すっ!』

『はははっ、アリと象の戦いばかりでみんながあきないか心配だよ』


○ケイちゃんが踏みつぶされるところは見たい

○即負け確定だし罰ゲーム決めとこwww

○俺っ子もいいけど、一日だけ「あたし」とかにしてパーフェクト美少女モードで配信させよう

○それより前回の裸リボンはまだなの?


 コメントの流れに、彼女はあわてて我に返った。


「ケイちゃんーっ、まず僕という敵を倒してからじゃないの? すぐ返り討ちにして、ケイちゃんの可愛いところみんなに見せてあげようねーっ」


 彼女は、この不安を消し去るには、もっと甘露ケイとの距離を近づけるしかない理解した。


(もうこれ以上待てない。すぐにでもケイとちゃんと恋人になるっ)


 しかし、彼女の焦る気持ちに、また水を差す問題が起きてしまう。



 ―――――――――――――――

 最後まで読んでいただきありがとうございます。

 次章以降の公開はしばらくお待ちください。

 コミカライズ版の書籍発売に合わせてになりますが、1巻の本編最後まで公開させていただければと予定しています。


 また別作品の宣伝になりますが、2年ぶりにファンタジア文庫より書籍発売予定となっております。


**11/20発売**

『担当アイドルの熱愛がバレたけど、ノーダメだよね!(※お相手は男装したマネージャーの私だし)』

https://fantasiabunko.jp/special/202511tantouidol/


 アイドルとマネージャーのガールズラブコメ作品となっております。

 本作でも散々勘違いで事件が起きてきましたが、本新作では女性同士と言うことでもっとストッパーを外していろいろ勘違いを起こしています。


 ラブコメ作品でも大人気のイラストレーター緋月ひぐれ先生にイラストを担当していただいておりますので、よければ特設サイトで表紙だけでも見ていただけますと嬉しいです!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

性別不詳VTuberたちがオフ会したら俺以外全員女子だった 最宮みはや @mihayasaimiya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ