破滅エンドを望む悪役令嬢の犬に転生しましたが、毎日しあわせです!

本葉かのこ

第1話

 ときどき違和感を覚えていた。

 本当に、これが私の姿なのか、と。


 つぶらな大きな瞳に、美しい蜜色の豊かな御髪。

 心のままに微笑めば、誰からも愛される。


 ひもじい想いをすることも、疲れ果てることもない。

 毎日、美味しいものを食べさせてもらい、ふかふかのベッドで眠り、天気がよければアリア様と遊ぶ。


 アリア様は、ひとりぼっちで彷徨っていた私を拾ってくださった方だ。


 深紅の髪とエメラルドのごとき瞳を持つ侯爵令嬢である。

 美しい所作と屹然とした態度がカッコイイ我が主は、カッコイイだけでなく、とても優しい。

 とてもとても。


 昨日も、私がお皿を割ってしょんぼりしていたら慰めてくれて、今朝は優しく声をかけてくださった。


 私の毎日は、喜びで満たされている。

 だから、不安が忍び寄ってくるのかもしれない。


 本当に、これが私の姿なのか、と。

 こんな幸せな生活が永遠に続くのか、と。


 そして、私はふいに思い出す。


 来客の男に驚いて、ドアにぶつかった瞬間だった。

 強い衝撃とともに、前世の記憶が怒濤のごとく蘇ったのである。

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