第41話

「ジョッシュ!」


 ジョシュアの特攻を予想した上で導いたという自覚があっても、ヨウは悲鳴をあげさせられた。


「第二甲板貫通、第三甲板半壊したよ!」


 口にした結果は上々だが、ヨウはもう一押しの状態になったのだ、と手放しには喜べるはずがない。助からないなら手っ取り早くぶつけてしまえという判断を、ゲームであって実際に死んでいないと断じられるメンタリティならば、セコのチームにいないのだから。


 迷いは停滞、そして停止を呼んでしまう。


 それをセコの声が打つ。


「緊張感を張り直して! まだ終わってないんだから!」


 仲間の犠牲はフォートレス・エンペラー以来、二度目に過ぎないヨウだ。何度も繰り返して行けば、プレーヤーの死は死亡ではなく、累計戦闘不能の1カウントに過ぎないとショックを受けにくくなるが、今、唐突にその境地へ至れというのは乱暴すぎる話だ。


 しかし今は、魔法の言葉がある。


「ジョッシュの犠牲を、無駄にしないで」


 死を無駄にするな――ゲームに入り込んでいるヨウにとって、これは効く。


「はい!」


 気を取り直したヨウの周囲は、セコが一人で迎撃してくれていた。


「すみません!」


 謝りつつ、ジョシュアが残していった機動を思い出す。仕組みが分かったものは少ないが、ジョシュアはヨウに見せるための機動を取っていた。


 ――今の技術で再現できるんだ!


 それを試そうという気持ちは、押さえ込むが。


 ――コンバットエリアに入って、生死は1分で決まる! そして敵を追うのは10秒以内だ!


 ジョシュアの失敗は、これだ。


「徹底して、一撃離脱を考えます!」


 ヨウが持っている技術は連続攻撃するものではなく、離脱するためのものだ。ジョシュアは余りにも華麗に動き、それに魅せられすぎたからこその失敗だった。


 ――離脱のタイミングを考えるんダよ。


 ジョシュアが自分に教えてくれた事を。ヨウが思い浮かべる。


 ――深追いは絶対にダメ。


 それを破れば、自分の身に降りかかる災厄も想像した。


 ――10秒で決められないなら、もう俺は別の飛竜の獲物になっていると判断する。



 だから結論は、一撃離脱しかない。



「その通りだよ!」


 セコは頷くと、目についた飛竜を撃墜した。


「ひとり一人の割り当てが、増えちゃってね……」


 ジョシュアの離脱は、セコにとっても痛い。今まで4人で対処していたものを、3人でしなければならなくなるのだから。


 しかし負担が増えるという考えは、一度、被りを振って頭から追い出す。


「いいや、今更よね」


 自分自身でいってきた事だ。


 ――私が二人分、頑張りますから。


 ヨウにも、モモにも、綾音にも、ジョシュアにも、イーグルにもいってきた事ではないか。


 目についた飛竜に狙いをつけ、銃撃を見舞う。


 隣にいた飛竜が旋回してこちらに向かおうとするが、その機先を制するべく、セコも機体を減速させる。ただしスロットルでエンジン出力を調整して減速するのではなく、機首上げと水平移動を駆使してきりもみ回転する事で、空気抵抗により無理矢理、スピードを殺す方法で。


 天地が逆さまになり、地面が降ってくる様な感覚に陥りながら、飛竜の姿が照準を横切る一瞬すらも逃がさずトリガを引く。


 ――3匹目だね!


 次だと目を剥くセコは、「二人分」という言葉だけは忘れない。


 ――いや、一度、離脱する!


 ジョシュアがやられた時と同じだ。3匹目を狙うと、4匹目に襲われる。


 そんな状況の中、綾音あやねが動く。


 ――イーグルさん、第三波の装備は通常弾でなく、20トン爆弾をお願い。


 手順の通りであれば、ここからのイーグルはフューラー・マキシマムへの攻撃を主な仕事とするのだが、それを初弾と同じく一撃必殺の爆撃に変えろとメッセージを送った。


 ――どうする気じゃ? 使えるような状況か?


 イーグルからの返信にも、第三波に20トン爆弾を持っていくのは無理があるという雰囲気がにじんでいる。制空権が確保できていなければ20トン爆弾は使えない。初弾が成功したのは、上がってくる飛竜の数が少なく、その上、セコ、ジョシュア、ヨウが活路を拓いてくれたからだ。


 ――ジョッシュの穴は、小さくないじゃろ?


 セコは2倍の働きをするというが、それは額面通りでない。確かにセコの腕も、愛機のスペックも最高で、空戦はプレーヤーの腕が問われる戦闘方法であるが、だからこそArmsWorldでは非効率的とされている。どうしても空戦をしなければならない時は、ロケットを大量に積んで、それを放っては帰るという行動を繰り返す、いわば航空機というよりもとして運用するのが正しいとされる。


 綾音からの返信は短かった。


 ――私に、手がある。


 メッセージの送信と同時に、綾音はグライダーを急降下させる。


たこなら、着陸できるのよ!」


 セコがこじ開けた活路だと、綾音はフューラー・マキシマムへの着陸を強行した。


 甲板へ降り立つと同時に、綾音が弓を構え、


「バッカみたい」


 飛び立とうとしている飛竜は、正に急所である逆鱗を晒している。


 先端に爆弾を仕込んでいる矢は逆鱗に突き刺さり、爆発した。


 間髪入れずに露出した急所へ小太刀を突き立てる綾音。


 ――飛び立つ前に狩る。


 上ではセコとヨウが、下では綾音が飛竜を討つ。


 ――ならば、何とかなるわい! 少し待っておれ!


 装備を変えるというイーグルに、綾音は短く「手早くお願い」と返信しようとしたのだが……、


 ――待ってる。お願いね。


 文面を変えた。


 待つ――ふと自分の両親が浮かんでしまう。


 引き籠もりの自分を待ってくれている両親は、急いでとも早くともいわない。



 待たされる事も、戦いだ。



 セコが「何者かになれる」といったレイドボス戦は、綾音にも閃かせている。


「終わったら、ちゃんといおう」


 両親と一緒に食事を取ろう。話そう――綾音は決めた。

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