第28話

 背後で大爆発が起きた気配を感じたヨウは、一瞬、走る足が鈍った。


 ――おやっさん!


 イーグルとフォートレス・エンペラーの激突によるものに違いない。


 しかもHMDに表示が出てくる。



 ――DEAD.



 イーグルが戦闘不能になった事を示すメッセージだ。


「足を止めないで」


 立ち止まりそうになっていたヨウの腕を、セコが引っ張った。


「ここで3死したら、それこそおやっさんの行動が無駄になるでしょ」


 無駄死にという言葉は使わない。死んではいないし、鎧竜に倒されたヨウと同様にイーグルもリスポーン地点へ戻されているだけであっても、冷めさせるような言動は禁句だ。


 そしてヨウを元気づけようとする者には、モモもいる。


「お兄ちゃん、走りましょう。おじ様は必ず一矢報いる人です。ジョッシュと合流できたら、まだ戦える手があるかも知れません」


「わかった!」


 ヨウも走る。


 スタミナが尽きないのは、モモの魔法だ。そんなモモに心配させては……。


 ――小僧、男がすたるというもんじゃぞ。


 イーグルならば、そういうだろう。


 坑道の入り口から光が見え始める。


「ミンナ!」


 坑道を出た所で、ジョシュアが出迎えてくれるが、セコは立ち止まっての挨拶はしない――できない。


「話てる時間も惜しいんだ」


 セコは戦闘はまだ終わっていない、と鉱山の方へ顔を向ける。


「ジョッシュ、おやっさんの戦車から――」


「持ってきてるサ」


 セコにいわれるまでもなく、ジョシュアが用意してきたもの。



 イーグルの戦車に装備されていた砲塔だ。



「砲塔……だけ?」


 面食らってしまうヨウだが、ジョシュアは「ソウ」と頷き、


「砲座になっていた車体を省いて、ボク、オカシラ、サンボーイの三人に置き換える。そういれば、機動性や速射性は飛躍的に向上すル!」


 ジョシュアが説明している途中から、鉱山を破壊して遂にフォートレス・エンペラーが姿を見せる。


 その巨体にセコは思わず口笛を吹いていた。


「陸上戦艦だね、これは」


 砲塔を大量に積んだ戦車――多砲塔戦車の巨大版というのは、セコばかりでなくジョッシュやモモも思っている。


「不条理なものさ」


 セコはいう。


「いっちゃえば、ライフル一挺持ってたのを、十挺の拳銃に持ち替えた様なものでしょ? 物理的限界の中で複数の武器系統を持つ事は、火力の分散や指揮系統の混乱を呼んじゃう。それだけじゃない。肥大化して、総重量の雪だるま式の増加なんて事になったら、攻撃、防御、機動の全てに悪影響が出て、戦車としての総合力を著しく落とす事になる」


 セコの言う通り、現実に存在した多砲塔戦車は、そういった理由で歴史の舞台から降りた。


 しかし、ここはゲームの世界。



 コボルトの技術力は、現実世界では闇に消えた多砲塔戦車を、陸上戦艦というレベルにまで巨大化させたのだ。



 その装甲は、果たして鎧竜の甲殻から貫くといったイーグルの12.2センチ砲をであっても通用するのか? ――その隙を、モモが指差す。


「お姉様、見て下さい!」


 モモが指差す先には、多砲塔戦車の中央、主砲の基部だった。



「急所が露出しています!」



 イーグルが放った最後の一撃は、急所を露出させる事に成功していたのだ。


「よーし!」


 ジョシュアが気合いの声を上げ、12.2センチ砲を支える。


 ヨウが先頭に立って砲身を支え、セコがトリガに張り付く。


 ジョシュアは最後尾につき、管制を司るつもりだ。


「おじ様特製の12.2センチ砲は、初速が秒速820メートル。上空へ垂直発射したとしても、1キロを超えて直進するというものですわ」


 モモが三人へと向ける視線に、信じる以外の光はない。


「ホッパー射出」


 モモの横で、綾音は有線発射式のタコを飛ばした。有線の距離と角度から、三角関数で敵との距離を割り出すつもりだ。


「距離から算出する砲身の角度は……0!」



 水平発射ゼロ距離射撃だ。



「ここからは、戦車砲の発射シークエンスを全て手動でやる必要があるんだ。HMDに手順が出るから、皆、確実に」


 セコの言葉通り、三人のHMDにはずらりと文字が並ぶ。


 まずヨウの操作。


「オートバランサー、射撃体勢へ切り換え!」


 固定する事で発射時に砲身のブレを抑える。


「ショックアブソーバ、レベルMAX!」


 それも発射時に転倒しないための操作で、完了と同時にジョシュアへ引き継がれる。


「セーフティ、1番、2番、3番、4番……全解除!」


 全てが整い、射手であるセコへ回された。


「発射準備、全て良し! 目標、フォートレス・エンペラー! 露出している急所!」


 三人は三人とも、歯を食い縛った。銃座を三人のプレーヤーに置き換え、機動性と速射性に飛躍的進歩を遂げたとはいうが、本来、戦車の載せている大砲である。


 ――持ってるだけで、スタミナが減ってるぞ!


 ヨウの弱音は、モモの魔法が拭う。坑道を走ってきていた時以来、モモはスタミナ回復の魔法を使い続けていた。HPが1でも唯一、使える魔法であるから、もうモモに余裕はない。


 余力がないままで、セコはトリガを引いた。


「撃てーッ!」


 誰といわず、全員が叫んでいた。

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