第19話
街から出ようとすると、もう一つ、ヨウの装備に加わるものがある。
セコが手綱を引いてきたのは、
「これは、私から」
騎乗して移動手段にできる、とヨウへと手綱を渡した。
「いいんですか?」
目を丸くするヨウに、セコは「もちろん」と頷く。
「私の趣味を押し付けるようで悪いけどね。乗り物があると便利だから。それに、鳥は上下が少ないから、騎乗射撃もしやすい」
丁度、イーグルが短小銃を用意しているのを見て思いついたのだ、というセコへ、ヨウは「ありがとうございます」と一際、大きな声で礼をいった。騎乗射撃といわれ、ヨウが気に入らない訳がない。
そして藍色の甲冑と、クリーム色の鳥は、よく合う組み合わせである。
「騎乗射撃、格好いいですわ」
モモがパチパチと拍手していた。
「乗り物は、あった方がいいですの。飛竜を追い掛ける事になるかも知れませんから」
いわれるまでもなく、飛竜を見た事のないヨウでも、鎧竜と飛竜が同じ飛び方をするとは思えない。鎧竜は飛ぶ事はできたが、あの姿を「飛翔」というかと問われれば、ヨウは首を横に振る。
――もし逃げ出したら、ボクが撃ち落とすヨ。
そのメッセージは、上空を飛ぶジョシュアから送られてきた。
皆が一様に見上げた先には、セコの愛機とは全く違う印象を残して逝く航空機が飛翔していた。
軽金属を思わせる光沢を持つ外装はグレー。
機首から尾翼へ続く流線は、正しく戦闘機とイメージさせる流麗さを備え、二枚の主翼は速度によって角度を変える可変後退翼だ。
そして何より目を引くのは、尾翼のみ黒く塗り、そこに描かれているウサギのマークだろう。
ヨウが気恥ずかしくなるタイプのマークだ。
「あれ、グラビア誌か何かのマークだっけ?」
買った事はないが見た事はある雑誌は、青年男性向けの雑誌。
「現実の空軍に、ああいうのをする部隊があるそうだよ。それを真似てるんだろ」
セコも苦笑いしているが、この程度の事、モモや綾音を見ていたら、大した事ではないと感じてしまうだろう、とヨウへ向ける苦笑いだった。
同種の苦笑いはモモにもある。
「でも、海軍の戦闘機をモデルにしてるっていってたから、……どうなんでしょうね?」
しかし雑談が始まりそうな雰囲気は、
「そんな事より――」
ジョシュアの航空機は、白い尾を引いて飛んで行ってしまうところだ。
「先に行かせすぎ。先に行くわよ」
綾音はグライダーを上昇させた。
***
飛竜が住むのは、林の中。
「木なんか、飛び立つ時に邪魔になりそうだけど……」
ヨウが呟くと、セコは「そうだよ」といった。
「昔は……、まだ誰も飛行機に乗ってない時代は、木の根元なんかに追い込んで。上に逃げられなくして狩ってた」
セコのいう「昔の話」がノスタルジックに感じられる程、今の飛竜は狩るというよりも潰すといった方がいいような扱いになっている。
「鎧竜と同じで、上から爆弾を振らせて?」
ヨウに対し、セコは「そ」と一言ですらない、1文字の返答。
「飛んできたら無視する。兎に角、爆弾を落として、逃げられなかった間抜けを倒していく。そして地上部隊が素材回収に来るわ。飛竜だけは、上がってきた大きい飛竜より、下で逃げ遅れた小さい飛竜を倒す方が早いから」
果たして狩りといえるのだろうか、とセコは言外に告げているようだった。
「何か……空襲みたいで嫌いですわ、私」
モモの意見に、綾音も同感だ。
しかし今日は違う。
セコ、モモ、ヨウは陸上。
上空にいるジョシュアは、爆撃するためではなく、飛竜が逃げようとした時、追撃するためにいる。
イーグルは持ち帰ってきた素材で課すぐに航空機を作れるよう、戦闘には不参加だ。
「見つけた。いますね」
木々の間に、ゆっくりと歩いている飛竜の姿を見つけたヨウは、まず武器を――と伸ばした手を、モモにトントンと叩かれた。
「騎乗射撃、狙ってみます?」
ヨウは槍を取ろうとしていたが、短小銃を持てほしいとモモは告げる。
「あァ、やってみようか」
ヨウが銃を取る。
――サンボーイ、ガンを使うのかイ?
上空からでも見えたのか、ジョシュアのメッセージが来た。
――ああ。騎乗射撃を試してみたいんだ。
――ならひとつ、アドバイスがあるヨ。
銃も引き金を引けば、回避困難な必殺の一撃が出せる訳ではない。
――引き金を引く時、人差し指だけでなく、拳に意識を集中させるんだ。何も考えずに人差し指だけ曲げていこうとすると、中指も一緒に動いて、握り込んでしまうことになル。そしたら、左に逸れてしまウ。
人間の身体の構造は、このArms Worldでも再現されている。
――わかった。
銃を構える。
ストックを右胸に軽く当て、脇は締めて。
頬も銃に着けて、照星と照門が重なる点に飛竜を捉える。
そして引き金を――、
「うッ!」
思わず
銃声は何より明確に警告音になる。
「ギャアアアア!」
絶叫しながら翼を広げた飛竜は、鎧竜より小さいはずなのに、ずっと大きく見えてしまう。
「逃げますわよ!」
モモがヨウが駆る鳥の腹を蹴った。
「いいや!」
その鳥の上でヨウは体勢を整え、もう一度、銃を構えた。鳥は馬よりも身体を上下させて走らない。
「もう一回!」
ジョシュアの言葉をできる限り反芻して絞り込んだ引き金は……。
「おお!」
短小銃は、本当に銃口から火を噴いた。
そして銃弾の行方は、小癪な不意打ちを仕掛けたヨウを狙っている飛竜の頭に命中!
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