第38話 挽回

夜のアンリミテッド。

閉店後のカウンターに、地図と端末が並べられていた。

水城莉緒とその部下三人、藤宮美琴、白石エリカ、そして蓮が一堂に会している。


「……ラグナロクの次の動き、わかるの?」

蓮の問いに、莉緒は端末をスクロールしながら頷く。


「ええ。私が知ってるのは“作戦名”だけ――《創世計画》。」


「創世……?」蓮が小さく呟く。


藤宮が低い声で補足した。

「神話的な名前をつけてるけど、実際は政治的で現実的な計画よ。彼らは、国家を作ろうとしている。」


エリカが眉をひそめる。

「……それって、反政府組織ってこと?」


「半分は正解。でも彼らは、今の政府を敵に回す気はない。むしろ、“中枢を自分たちで上書き”するつもり。」

藤宮の指が地図の一点を叩く。


「そして、その“中枢上書き”に必要なのが――蓮くん、あなたが持つ《鍵》。」


蓮の心臓が跳ねた。

「……やっぱり、あの時も……そのせいで?」


莉緒が頷く。

「《鍵》は、ある古い防衛システムの認証コード。神話の『ラグナロク』では終末を開く笛や剣の役割を持つものね。でも実際には、国防ネットワークの基幹制御にアクセスできる唯一の“生体認証データ”……それが、あなた。」


「俺が……?」


エリカが椅子から身を乗り出す。

「待って。それって国家機密じゃ……なんで彼がそんなものを?」


藤宮が淡々と告げる。

「彼の家系が偶然、“創世計画”の実験データと一致したのよ。しかも今は、彼を守る護衛官は不足気味――格好の標的になる。」


沈黙。

蓮の喉がごくりと鳴る。


悠馬がその空気を切るように、カップを一つ置いた。

「だからこそ、ここに来た人は皆、守る側に立つべきです。」


莉緒が目を細める。

「……本気で、私たちを使うつもり?」


「使うじゃない。あなたはもうこちら側だ。しかも内部情報を持っている。」


部下の一人が手を挙げる。

「……俺たち、ラグナロクの拠点候補地をいくつか知ってます。」


莉緒がうなずき、端末を藤宮へ差し出す。

「この座標。物資搬入ルート、連絡網、暗号の一部……全部持ってきた。」


藤宮は端末を受け取り、低く息を吐いた。

「……これなら、次の行動を先回りできる。」


蓮が意を決したように顔を上げる。

「……俺も、動きます。」


エリカが即座に首を振る。

「駄目だ。あなたは標的なんだから。」


「でも、何も知らないまま狙われる方が、もっと嫌だ。」


悠馬は蓮を見据え、静かに言った。

「なら、条件が一つ。必ず誰かと一緒に動くこと。」


「……わかった。」


莉緒が小さく笑う。

「やるじゃない、“鍵”くん。」


蓮は照れくさそうに目を逸らす。

その横で、地図上の座標が赤く光り始めた。


藤宮が低く告げる。

「……動きが早い。次のターゲット地点は三日後。そこで、ラグナロクの幹部と正面衝突になる。」


カウンターに沈む緊張。

だが、もう誰一人として逃げる気配はなかった。


「――三日後、決着をつける。」


悠馬のその言葉が、全員の胸に静かに刻まれた。

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