第8話 編集記者、小野寺涼子 モデルデビュー? 上



「なんで今になって!? 撮影明日だよ!?」


出版社『Elegance+(エレガンスプラス)』の編集者、小野寺涼子は、デスクに座りながらスマホを握りしめていた。電話の相手は、明日撮影予定だった男性モデルのマネージャーだ。


「申し訳ありません……体調不良ということで、出演キャンセルさせていただきたく……。」


「いやいやいや! あり得ないでしょ!?

早く言ってくれれば代役の手配もできたのに!」


電話が切れた。


涼子は深いため息をついた。


「どうするの? 男性モデルなしで、撮影にならない。」


「落ち着いた大人の男性の魅力を特集する」という今回の企画。どうしても男性が必要だったのに、突然のキャンセルで代役すら立てられない状況になってしまった。






涼はデスクに突っ伏した。このままでは、雑誌の締め切りに間に合わない。


(まずい……どうにかしないと……。)


考えすぎて頭が熱くなってきた涼は、思わずオフィスを飛び出した。





外に出ると、いつの間にか夕方になっていた。空腹と疲労が重なり、涼は少しフラフラする。


「はぁ……とりあえず、落ち着ける場所を……。」


歩いていると、ふと「カフェ アンリミテッド」という看板が目に入った。


(こんなところにカフェなんてあったっけ……?)


無意識のうちに、涼子はその店のドアを開けた。



「……この店、雰囲気いいな。」


カフェの中は、昭和レトロな落ち着いた雰囲気。どこか懐かしさを感じさせる店内に、涼は思わず心がほぐれるのを感じた。


「いらっしゃいませ。」


カウンターの奥から、落ち着いた声が聞こえる。視線を向けると、そこには若い男性店主がいた。


(え……男性?)


この社会では、男性が働いているのはかなり珍しい。


(……ちょっとカッコいいかも。)


涼は内心驚きつつも、カウンター席に腰を下ろした。


「コーヒーでいいですか?」


「はい……お願いします。」


男性店主――悠馬は、手際よくコーヒーを淹れ始める。


(なんか、すごく様になってるな……。)


カフェに漂う香ばしい香りに、涼は少しだけ気を取り直した。



「どうぞ。」


悠馬が淹れたコーヒーを目の前に置く。涼は一口飲み、思わず目を見開いた。


「……美味しい。」


「ありがとうございます。」


彼は淡々と答え、その落ち着いた態度が良印象だった。


(これってもしかして……。)


涼にあるアイデアが閃く。


「落ち着いた大人の男性の魅力を特集する」


(この人、撮影のコンセプトに!?)


シンプルな白シャツを着こなし、飾らない態度ながらも、

どこか余裕のある雰囲気……。


(モデル代役でいけるんじゃ……?)


涼は、悠馬の姿をじっと見つめた。

何気なくカウンターに寄りかかる仕草すら「絵」になっている。


(……これしかない!!)




「……ねえ、ちょっとお願いがあるんだけど。」

「なんですか?」

「あなた……いや、店長さん! ちょっとモデルやってみない?」

「…………は?」


静かなカフェに、悠馬の間の抜けた声が響いた。

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