山での暮らし。

親と子(ミチトとメロ)。

第17話 カラーガを消し去ると言い出すミチト。

メロはため息混じりにナイワとお茶をしている。

「メロ嬢、調子が悪いのですか?……お父様との事ですね?」

「はい。縁はないとはいえ実母があんな人間だとは思いませんでした。それなのに優しく大切に育ててくれるパパ達に甘えては良くないのではと思ってしまいます」


メロは目に涙を浮かべてため息交じりで話し、すぐにナイワの前だった事に気付くと涙を拭って作り笑顔を見せる。メロの作り笑顔に輝きはなかった。


「ではカラーガに住みますか?私達は大歓迎ですよ?」

「ナイワ様」

突然の申し出に目を丸くするメロにナイワは「ふふ。でもきっと誰も許さないわ」と言って視線をずらす。


ナイワの視線の先でロゼとマアルに指導しているイブがジト目でメロを見ていた。

その目は出て行くなんて以ての外だと言っている。


目を見ただけで何を言いたいか理解したメロは「イブお姉ちゃん…」と言うが、そこで終わらずにナイワは「それに、きっと闘神様は今もメロ嬢を見てくれていますから…」と続けると、ナイワの言葉と共に現れたミチトは必死な顔で「メロ?出て行くなんてダメだよ!」と言ってメロを抱きしめる。


メロは真っ赤な顔で「パパ!?聞いてたの?」と言うとミチトは真剣な顔でメロの顔を覗き込んで「メロが住むならカラーガを消し去るからね!」と言う。


この言葉に表情は崩さないがティーカップを持つナイワの手は震えている。



「ええぇぇぇ?なんで?カラーガ以外は?」

「消すよ、そうすればメロは俺とトウテで暮らすよね?」


もう言っている事は病的に無茶苦茶で普通の人が聞けば何を言っているんだとなる。


メロは恐る恐る「お泊まりは?」と聞くとミチトは横のアクィを見てから「アクィと行くなら良いけど1人だったら自動攻撃と自動防御のアクセサリー作るし一晩中見守っているよ」と言う。


これは誇張ではない。

ミチトは一晩でも二晩でもメロが戻るまで限界突破の更に先を行ってでも見守ろうとしていて、メロはそれを理解していた。


メロの空気が和らいだことを察したナイワが「ふふ。メロ嬢は愛されてますわね」と言うとメロは「…はい。嬉しいです」と言って微笑んだ。その笑顔はまだ暗いが先程の作り笑顔とは全く違っていた。


ミチトの横にはアクィも居て2人でどこに行っていたかを聞くとブレイクポイントの温泉でアクィから教わったリフレッシュ法をやってきた話をする。

その流れでミチトは「次はメロだよ!メロ用に凄いの考えてきたからやろうよ」とメロを誘う。

メロは一瞬風呂に入る事を考えてしまい「パパ?」と聞き返す。

だがミチトは首を横に振って「アクィとメロと俺でやれる事だからわかるよね?」と言った。


「いいの!?」

「ああ、でも本当は第三騎士団を焦土にしたかったんだけど。サンクタさんは許してくれるかな?」

ここでナイワが「訓練場ですね?構いませんわ」と言う。


メロは先程までの暗い顔が嘘みたいに飛び跳ねて「ありがとうございますナイワ様!」と言って喜ぶ。


ミチトはメロの笑顔を見ながら周りを見渡して「で、イブは…、また面白い事を考えるなぁ」と言った。


アクィは訓練の意味を理解できずに「ミチト、アレは何の訓練?」と質問をする。

アクィの目から見てロゼもマアルも遊んでいるようにしか見えない。


「風の術の効率的な訓練さ。アクィには無理かな」

「なんですって!?失礼ね!」


「多分無理だよ。ロゼとマアルが飛ばしているのは紙で作った蝶で、それを本物同様に見せるんだ。

あの訓練のエグいところは花に止まる時や飛び立つ時に花を散らさない事、後はロゼとマアルの風の術が干渉しない様にすることさ。アクィはどうしても攻撃的だから力加減とか難しいだろ?」


ミチトの視線の先ではロゼとマアルが楽しそうに蝶を飛ばして遊んでいる。

だがそれは蝶を飛ばす最小術量での風の術が求められていて、更にお互いを意識して風の術同士が干渉しないように、超高精度の精密な制御が求められている訓練だった。

だが、ロゼもマアルもニコニコと楽しそうにイブに「次はあの赤い花まで飛ばしましょう!」と言われるがままに紙で作った蝶を飛ばしていた。


「後はトゥモにも無理かな?トゥモなら1人で何十匹でも蝶は飛ばせても誰かとは無理なんだよ。アクィもこれが蝶じゃなければ上手くても蝶は難しい。そしてマアルはこれができるなら恐ろしい攻撃ができるよ。禁術授けたくなるな…」


普段なら絶対に言わない禁術を授けたいと言うミチト。そんなスイッチの入ったミチトの顔にメロが「パパ?」と聞くとミチトは「今はメロかな?いや、ロゼにするか、マアルの訓練に付き合わせて…やっぱりメロもだ。頼めるよね?」と聞くと説明が足りなくてもメロは嬉しそうに「うん!」と言った。


ミチトはイブに声をかけてマアルとロゼを呼ぶ。


「ロゼ、遠視術はある?」

「うん。あるよ」


「よし、じゃあ屋敷の裏にマアルと行こう。メロはあっちの木の中に居てね」

ミチトは家の裏手にロゼとマアルを連れて行くと「マアル、イブの訓練で矢の微調整ができる様になったよね?最後の…理想形はこれだよ」と説明しながら風の術で矢を浮かばせる。


重たい矢が浮かぶ事にマアルが「矢が浮いている?」と驚くとミチトは「うん。風の術ならこれくらいの重さのものも持ち上げられる。今はとりあえず放った矢をメロの方に飛ばすんだ」と言った。


「え?でもメロお姉ちゃんが何処にいるかわかりません」

「それはロゼが術で見ながらマアルに見せるから従うんだよ。準備ができたら放って、俺はメロのところで待つよ」


ミチトはメロの所に行くと「メロ、検知術だよ。周囲を警戒、全方位どこから矢がくるかわからないからね?」と指示を出す。


ミチトの指示通り、矢はまさかの方角からやってきた。

ロゼを観測手としてメロの死角を突くことを意識した矢は屋敷の裏側からゆっくりと大回りに飛んでくる。


そして背後から一気に迫ってきた矢だったがメロは限定した超重術で矢のみを落下をさせる。


「お疲れ様メロ、何処ら辺で気がついた?」

「一応ロゼとマアルちゃんの周りには検知術を置かないでこの周りだけにしたよ」


「それでもキチンと矢の周りだけを超重術にしたのは流石だね」

ミチトはメロの頭を撫でて褒めちぎる。


「照れるよパパぁ〜、でも超重術をやめたらこの矢って襲いかかってきそうだけどどうしよう?」

「本当、諦め悪いなぁ。奪術術していいよ」


メロが奪術術を使うと「バレたかー」と言うロゼと「メロお姉ちゃんには届きませんでした」とマアルがやってくる。


「いや、それにしてもうまく出来ていたよ。イブの訓練の賜物だね」

「はい!イブお母様は凄い方です!」

このやり取りを見てイブとナイワはニコニコとしている。

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