第8話 パレードの訓練

 パレードの訓練が始まった。

 紅百合騎士団は若い女の子限定のため団員の入れ替わりが激しいのだ。

 だいたい十八歳になる前には婚約を決めて辞めていく。

 ここにはベテラン団員というものがなかった。


「一、二、三、四。一、二、三、四」

「「「一、二、三、四。一、二、三、四」」」


 二列に並んで、手足の動きを合わせて歩いていく。

 ただし軍隊のように手足をピンと伸ばして歩く方法ではなく、もう少し緩くて、ちょうどマーチングバンドみたいな感じだった。

 胸部の専用の丸く膨らんだブレストプレートを除けば、服装もなんとなくマーチングバンドにも似ている。


 ミニスカートから生える綺麗な足が並んで歩いていく。

 当たり前だけど、はしたないとされる馬はパレードの時は使わない。

 あれは緊急時に限るのだ。

 予算も出ていて馬も正式装備なのだが、はしたないものははしたいないのだ。

 ただ背に腹は代えられないというだけで。


 今年入隊の若い隊員もいる。

 王都でのパレードは年に一回だから今年の春入隊の子ははじめての王都パレードだった。

 普通の騎士団や正規軍も合わせてかなりの人数のパレードで、これがこの国最大のパレードだからやる気も十分だ。


「ほら、そこ、ずれてる」

「はいっ」

「誰だか自覚があるなら直す」

「はいいっ」


 ふふっと笑いが漏れる。

 みんな真剣ではあるが、スポーツ少年たちみたいに根性論ではやってない。

 みんなでちょっと笑ったりするくらいの余裕はあるのだ。

 私が副隊長になって六か月くらいだろうか。私もこのパレードは初参加だ。

 新人ちゃんたちと同じように去年経験した人から意見を貰ったりして、訓練を重ねていく。


「よし、休憩」

「「「やったーーぁぁ」」」

「もうっ」


 私が号令をかけると、みんな一気に元気になって日陰に走っていく。

 井戸から水を汲んでみんなで順番に飲む。

 お茶会といきたいところだが、さすがに休憩だけではちょっと時間も足りないので井戸で済ます。


 冷たい水が喉にしみる。うまい。


「ふぱぁああ」

「お水、おいしーい」


 マナイス隊長が美味しそうにお水を飲んだ。

 隊長は激務だ。隊員は班に分かれて休憩したりするが、隊長は先頭に立って先導し、ペースを決める重要人物なので、全体休憩でしか休めなかった。

 私が代わりにやってもいいのだが、責任感が強いマナ姫は譲ろうとしなかった。


 赤いドレスアーマーが彼女たちを引き立てる。

 みんな美少女で汗で濡れ火照った顔はなんだか艶めかしい。

 私がマナを女の子を好きだからそう思うのか、世の中の人はみな同じように思うのかにはちょっと興味がある。

 少なくとも男性なら彼女たちをちょっとエッチだな、とは思うはずだ。

 さらに胸の膨らみに合わせて曲面加工されたブレストプレートと、ミニスカートが女の子であることをなおさら強調している。


「ふぅ、ただ歩くだけなのに、なかなか難しい」

「副隊長。でも普段は馬でぴゅーんですからねぇ。パレードも馬に乗れば自分たちは乗ってるだけで済むんですけど」

「そんなことを言ってはいけないメルシー。はしたないだろうに。ミニスカートなんだから馬に乗っていれば下から見たら丸見えだぞ」

「そうなんですよねぇ。あと十センチでも長ければいいんですけどね、なんったって昔の王様直々に長さを指定したという逸話のあるミニスカートですもんね」

「そうそう。笑っちゃうよね、たかがスカート丈に王様だよ王様」

「エルミラまで、そんなこと言って」


 隊員たちが楽しそうに笑っている。

 まったく。まあこのスカート丈は自分たちの中でも自虐ネタの代表だ。こんな破廉恥な正式衣装なんて笑ってしまう以外ない。

 でないと、恥ずかしくて無理ですって真面目に話さなくてはならなくなる。

 もはや笑い飛ばすしか選択肢はないのだ。どう考えても。

 伝統を重んじる騎士団ともあろうものが王命に背くわけにはいかないし。


「ぐへへへ、どんなおパンツ穿いてるかな?」

「ちょっとエルミラさんってば、やめてよぉ~」

「お、メルシーは白いおパンツだぁ」


 エルミラがメルシーのスカートをめくりあげて観察している。まったく、はしたない。


「エルミラだって白でしょうに。白って決まってるんですよね?」

「そうなんですか? 確かにみんな普通は白ですけど」


 みんながこっちを注目している。


「ごほん、ごほん、下に白のペチコートを穿いてるだろう。極力目立たないようにパンツも白にする伝統があるだけで、見られても平気な痴女になるつもりなら赤でもピンクでもブルーでも好きなの穿けばいいぞ」

「そうだったんだぁ。最初、黒いの穿いてきて先輩にスカートめくられて白のほうがいいよって言われたの今でも覚えてるんだよねぇ。今度私はピンクにしようかなぁ、きゃっきゃっ」

「もーエルミラってば、やめてよぅ、隊の信頼が落ちちゃうよ」

「パンツ見られて落ちる信頼なんて最初からないようなものだわ」

「そりゃそうだ、あはは」


 まったく。男がいないので際どい会話なんかも平気ですることがある。

 本来なら下着の色とか青空の下で話すことではない。

 私たちは気にしたことはないけれど、よく考えたら一種の異常ではないだろうか。

 うむ。どうしたものか。

 まあ男がいなければ大丈夫と思うことにしよう、うん。

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