9−3 ある民間軍事会社の憂鬱

 串カツ屋『よる』を襲撃した民間軍事会社a.t.aの一人が手りゅう弾を投げ入れて二分が経過してから突入を敢行した。さすがにこの不意打ち、生きていても暫くは動けないだろうから楽にしてやろう。

 必要な物は元々大谷記念美術館に展示していたゴッホの絵、アレ一枚に末端価格で5千万相当の新麻薬が仕込まれている。

 それが七枚。3億5千万円分相当である。成功報酬で5千万、絶対に取り返さなければならない。だが、気性の激しい従業員がパイナップル(手りゅう弾)を放り込みやがった。絵画は大丈夫だろうか?

「こっちだ! 絵画を見つけた。ダミーも両方ある」現場を任されていたジェフは安堵した。そして周りを見渡して中にいた連中がいない。「中にいた連中がいない。隠れてやがるぞ!」

「ボスとブラックは何処行ってるんだ?」

 民間軍事会社のリーダーエリックとその懐刀の姿が見当たらない。それに対してジェフは面倒くさそうに、「雇い主と落ち合う為にもうホテルだよ」

「はぁ、いいご身分だこと」

 夜通し、どんぱちして仲間も数人大けがを被ったというのに、ちゃんとボーナスがでなかったら全員でストライキだと絵画を運び出し店内をくまなく探す。

 日本という国を少しばかり舐めていたとジェフは思った。神戸でも一人仲間がやられ、鉄砲玉のブラックも逃げ帰ってきた。そしてつい先ほどはコンビニに行っている間に車を襲撃されて殆どの実働部隊が潰された。

「結局、まともに仕事をこなせるのは俺と、ポール。お前さんだけだな。結局、戦場を知らない奴は使えない」

 イラク戦争を経験しているジェフとポールは冗談を言いながらも確実にターゲットを見つければゲームをクリアするように処理する冷静さと無情さを兼ね揃えていた。

 どんな状況も相手でも気は抜かない。「血痕だ」

 それにジェフは頷く。「あぁ」

  二階に続く階段に血痕は続いていた。他に窓などはなく上の階に逃げたのだろう。それなりに武器の揃いも悪くはない。

 だが、相手が悪すぎた。本物の元軍人相手に連中は素人が過ぎた。「二階の扉を開いたらとりあえずぶっ放す」

 上の階はどうやら狭い仮眠所のようだ。息遣いが聞こえてくる。

「ブラックみたいに拷問趣味はない。ひと思いに消すぞ。3,2、1で開ける」

 そう言ってジェフは扉を開き、ポールと共にマシンガンのマガジン一つ分叩き込んだ。

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