第三十八話 斜陽
高層ビルが立ち並ぶ一角に美しい庭園があった。
その男はメロンズ教授であった。この日はいつも着ているメロンのような
ヘリコプターから
「パーティー中にすまない!」
「かまわん! この件は最も重要度が高い! この国のどんなVIPよりもな! ヤツを放って置くことはできん! もはやこの国の
「さすがにこの国でも危機感を持つかもな!」
メガネの男は話をしながら、さっそく縄梯子を回収し始めていた。
「その通りだ! もう少しで法案が通るというところだったが、ヤツの登場は想定外だった! 世論が
操縦席にいたパイロットが、たった今乗りこんできたメロンズ教授に目配せして助手席に移ると、なんと、教授が操縦席に座ったのだ。
「ヤツはスーパーマーケットにいる!」
メロンズ教授は地図が映し出されたモニターに目を移した。
「そう遠くないな!」
「ああ! ただそこは
「よし! まずは近くまで向かうぞ!」
目的地となるスーパーマーケットでは、警官隊を
「うあっはははははああああ!」
「効かねえ! 効かねえなあ!」
「くそ! ダメだ! ぜんぜん効かねえぞ!」
「どうなってんだ? アイツらは!」
「おらぁ! さっさと道をあけろよ!」
「くそ! やむを得ん!
「ああ? おとなしく投降しろだって?
そういうと青柱は重力を出した!
ドスゥン!
警官たちは地面に
「だ、ダメだあ! 手も足も出ねえ!」
「ああ? 今なんつった? 『手も足も出ねえ』っつったのか? あっはははははは! コイツは
「くっそお!
すると、警官隊が
「あははははははは!」
しかし、
「無敵だ! 無敵すぎる!
「くっそお! 撃て! 撃て! 撃てえ!」
「効かねえなあ!
警官隊がどれだけ射撃したところで、弾丸が青柱を
しかし、それた弾丸の何発かが後ろにいた
「ぐほ!」
ヤツは超撥水効果で液体のスライムをはじくことはできたものの、弾丸をはじくことはできなかったのだ!
「や、ヤッベえ……、食らっちまった!」
超撥水男はその場にうずくまる!
「ぐぉおおおおお、くっそ痛え! ダメだ! やられちまった!」
超撥水男は
「助けてくれえ!」
「オメェ、何やってんだよ!」
「よし! ヤツには当たったぞ! 確保! 確保!」
「うるせえなあ!」
ドスゥン!
青柱はさらに重力を強めた! そのせいで警官隊たちは近づくことができない! 青柱は超撥水男に声をかける!
「おい!
「ムリだ! 動けねえ! 助けてくれえ!」
「バカかよ!
「いや、マジでヤベえ! 痛くて動けねえんだ!」
「早くしねえとヘリも来ちまう! 行くぞ!」
「ムリだ! 助けてくれ!」
「くっそ! 何やってんだ! 足手まといになりやがって! おら! おら! おらあ!」
「
しかし、青柱は止まらない!
「ちょっと、ちょっとお! どこ行くの? 助けてっていってんじゃん!
超撥水男が助けを求めても青柱は止まらない! それどころか、通りを
「なんだ? 仲間割れか?」
「よし! こっちの男はもう
「くっそ! マジかよ! テメエらこっちくんな!」
「くそ! なんてパワーだ!」
「スライムが効かねえからパワーが落ちねえ!」
「
手負いの光合成人間とはいえ、そのパワーは
「くっそお! くっそお! くっそおおお!」
「ヤツが動き出したぞ!」
ヘリコプターに乗っているメロンズ教授たちの方でも青柱の動きを
「ヤツがこのまま進めば大きな公園に行き当たるな! よし! そこで始末する!」
「日本の警察もヘリを向かわせているぞ! あまり時間はなさそうだ! 自衛隊への
「私が降下する! お前たちはヘリですぐに立ち去れ!」
「わかった! 車を手配する! 終わったら北門に行ってくれ!」
「よし!
メロンズ教授が操縦するヘリコプターは高度を上げてスピードを出した。
あれほど高い位置にあった太陽が今ではすっかり低い位置にあって、たそがれの黄味や赤味が空模様を染め始めていた。ヘリコプターから見える景色ははるか
「まさに働きアリだな」
美しい玉虫色の景色を背に、夕日を浴びたタキシード姿のメロンズ教授はそう独りごちた。
この公園では都会の雑路と
青柱は
「くっそお、あのヤロウ。まるで
「
ヘリコプターの音がどんどん大きくなり、ついには青柱の真上でホバリングをし始めて、高度を下げてくるではないか! するとヘリコプターからロープが垂れ下げられたかと思うと、黒服の男がスルスルと降りてくる! それはタキシードを着た男だった!
「な、なんだあ? 警察じゃなさそうだが、アイツは何者だあ?」
タキシードの男が暴風を受けながら地上へ降り立つと、ヘリコプターは高度を上げて立ち去り始めた。そんなことにはお構いなしに、タキシードの男は迷いなく青柱に向かって来る。
「貴様が
男は青柱を名指しした。
「見事に
「なんだテメェは! 人をバカにすんじゃねえ!
「貴様のことはよく知っている! ATP能力についてもな! 近づかなければ貴様には何もできないことも承知している!」
タキシードの男は左手をピストルみたいな指の形にして青柱に向けた。それは中学校の教科書でも見たことのある、フレミング左手の法則であった。
青柱は
「なんだ? そのポーズは? まあ、ピストルを持ってたところで
青柱が重力の
「イテッ」
「なんだ? なんだこれは?」
「貴様にはまだ二分三十秒ある!」
そういわれて青柱はタキシードの男を見た。ヤツは相変わらずフレミング左手の法則をやっている。
まるでタキシードを着たマネキン人形のようであった。
「なんだこれは? テメェがやってんのかあ?」
青柱は何が起きているのか理解できていない。
なにがなんだかわからない!
本能的に身の危険を察した青柱は、身をひるがえして歩道から外れた
「なんだ? なんなんだあ今のは!」
「なんだこれは? マジで痛え……、どうやったらこんな穴があけられんだ? ヤベえ、マジでヤベえ!」
青柱はヤツが近づいてくる気配に集中した。しかし、ヤツは重力を
「それでかくれたつもりかね! さあ、どうした? 私が
ヤツは回りこんでくるつもりなのに
「ぐあああああ! 痛え! 痛えぞ! なんだこれは!」
「
なにがなんだかわからない! とにかくここは危険だ! 動くしかない! 青柱は太ももの激痛をこらえ、ほとんど片足で
「ぐあああああああああ!」
青柱が
大空は美しいワインレッドで染められつつあったものの、青柱がいる歩道から外れた林では、生い
この時、すでに青柱の全身はズタズタにされ、激しい痛みの中、もはや体を動かすこともできなくなっていた。
「も、もうダメだ……、アイツは
「残念だったな! こう暗くなってしまっては
「くそお! こっち来んじゃねえ!」
青柱はありったけの力を
「貴様の能力は近づかなければ無力化できるのだよ! 観念したまえ!」
そういって、またあのフレミング左手の法則をするのだった!
「ちくしょう! ちくしょう! ちっくしょう!」
青柱は思った。俺はあのサザレさんを
俺が泳げなかったのは、知らずに発動させてたATP能力が原因だった。それがわかったのは光合成スイマーとたたかったあの時だ。あの時、俺はうれしかった。だってそうだろう? ATP能力者ってのは、なろうとしてなれるもんじゃねえ。それが、実のところ俺はATP能力者だったんだから。うれしかった。
俺はATP能力を開花させた。重力の中でも身軽に動けるように光合成パワーも強化した! そして、あのサザレさんをブッ
それがなんだ? こんなにもいろんなことがあったってのに、結局全部
俺はこんなヤツに殺されちまうのか?
マジかよ! ホントにマジなのかよ!
いやだ! 死にたくねえ!
こんなところで死にたくねえ!
「こんなはずじゃなかった! なあ! こんなはずじゃなかったよなあ!」
「いいや! こんなはずだったのだ! 貴様は初めから負け犬だったのだ! そういうことも知らんのか! 学校で教わらなかったのか! 貧富の差、持つ者と持たざる者というものは、古くから農業が発明された時点で生まれていたものなのだ! 土地を持った
メロンズ教授はそういって
「さあ! 時間だ! 死んでもらうぞ!」
「ぐああああああああ!
青柱は下草の生い
「こんなはずじゃなかった! こんなはずじゃなかったよなあ!」
青柱は
「太門さん! 助けて! 太門さん!」
我を忘れた
ショッピングモールでもそうだった!
「太門さん! あんた鋼鉄みてえにやさしいんだろ! 確かにあんたは鋼鉄みてえだった! やさしさってそういうことだったんだなあ! だったら助けてよ! 太門さん!」
しかし、太門が助けに来るはずもなかった。なぜなら、太門は青柱の手によって殺されていたのだから!
「助けて! 太門さん! 太門さん!」
こうして世間を
太門が生前見立てていた通り、
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