第5話 ちょっと大人の味
僕はクリケット。クリケット・カラアリ・ペピット。そして僕の友人も、カラアリ。
クリケットはちいさいいきもののことで、“クリケディア”って言う場所に住んでいる。クリケディアにはおいしいものがたくさんある。満月酒、うさぎの搗き屋のお餅、わたあめの実。おいしすぎて、食べきれない。
ぽかぽかと温かくなりはじめたけれど、少し風の冷たい日が続く。僕と友人のカラアリ・ピパッコは今日、僕の家でのんびりとお茶を飲んで過ごしていた。
「あ~」
湯呑に入った温かい緑色のお茶を飲み込んで、ほっと一息。この時間が、たまらなく好きだ。
「お茶がおいしいことの幸せ」
「わかる」
また一口飲めば、やっぱり思わず声が出る。
「でも最近はコーヒーにもはまってるんだ」
「それもまたよしだね」
「僕、小さい頃はコーヒーをドロ水だと思ってた」
思い出すのはまだ先生のところにいた頃のこと。小さな僕は先生のコーヒーがあんまりおいしそうに見えたので、駄々をこねて飲ませてもらったのだ。
そのコーヒーの苦いことと言ったら! 思わず吹き出してマズイマズイと叫んでしまったのだ。こんなものをおいしそうに飲むなんて! 先生は嘘をついている! って。先生はそれを見て笑っていたような気がする。なんにしろ、いまではいい思い出だ。
「これって大人になったってことかな?」
「うん、ちょっとだけね」
友人はゆっくりお茶を飲みながら笑っていた。そんな友人を見て、しみじみ僕らは大きくなったものだと思った。
「僕もピパッコも、本当に小さい頃は甘いジュースしか飲めなかったよね」
「そうだったね。星の歌のジュースとか」
「あれは思い出の味だよね」
「飲みすぎて歌が止まらなくなったことあったね」
らーららら、ららーららー。なんて。先生に叱られたなあ。そうだねえ。
窓の外では蝶々が飛んでいる。
「温かいお茶も今の内かな」
「お茶は冷たくてもいいものだよ」
「そうだねえ」
二人並んでお茶を飲む。あ~、なんて言って。
小さい頃に比べたら、いまは少し大人で、でもまだ少しずつ大人になっていく。
「変なの」
終
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