第2話 見守り主さま

 僕はクリケット。クリケット・カラアリ・ペピット。

 クリケットはちいさいいきもののことで、カラアリっていうのはそのなかでも真っ黒な体をしていて、口先がとがっている。あと、短いけれどしっぽがある。クリケットはいろんな種類がいるけれど、誰もがみんな素敵な帽子トップハットを被っている。

 そして僕の友人も、カラアリ。




 図書森の木の下、たくさんの本が詰まっている本棚の前に僕らはいた。頭の上では葉っぱのように枝にぶら下がっている本のページが擦れて、ぱらぱらと音をたてている。

 友人のカラアリ・ピパッコが劇物であるニョグニョグの食べ方を調べようとしているのを知って、なんだか僕は不安になってきた。


「ねえ、君。危ないことはしないでね」

「ええ? 急にどうしたの?」


 大きな分厚い本を棚に戻していた友人は僕に向き直る。


「だってニョグニョグなんて、そんなものの食べ方知ってどうするのさ」

「言っただろう。単に興味だって」


 笑いながら、友人は言う。


「それに大丈夫だよ。すべてのクリケットの見守り主さまがいるからね」

「なにそれ」

「え、君だって先生に習っただろう」


 そうだったっけ? ピパッコはまるで先生になったように教えてくれる。


「危ない目に合っても必ず助かるように、ひとりひとりの帽子の中でクリケットたちを守ってくれるんだよ」

「ふーん」


 僕は自分の帽子を取って、中を覗いてみる。真っ黒の帽子の中は真っ暗で、本の隙間から射す日差しやあちこちにあるランプの光を受けて時折底の方が見える。けれど……。


「なにもいないよ?」

「そうじゃなくってね」


 ピパッコはちょっと考えてから口を開く。


「そういう何があっても助けてくれる存在っていうのは、心の支えになるんだよ」

「僕も助けるよ」

「もちろん君がいることも十分な支えになるけれど、なんていうのかなあ……。それがいるからって危ないことをしていいわけじゃないんだけど、見守られているからこそ危ないことをしそうになったときにその存在に気がつくことによって、えーっと……」


 頭を抱えてうにゃうにゃし始めた彼を見ながら、見守り主さまとやらについて考える。

 僕が見守り主さまについて覚えていないのは、君という何でも教えてくれる存在がいるからで。つまり僕には君がいて、君には僕がいる。それだけでは駄目なのだろうか。

 なんだか僕の頭もうにゃうにゃしてきた。




 終

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