Episode The Queen Of Frozen

ロムブック

エピソード 冬の女王

冬になると決まって思い出すことがある。まだ二〇代の若い頃のことだ。高校を無事に卒業してさてどのような仕事が自分に合っているのかとちょうど考えていた頃のことである。まだ人間関係に軋轢を感じていない頃のわりとフリーな言い換えれば世間知らずの時期。それは韓流ドラマ冬のソナタが公開されたあとのこと、まだディズニー映画アナと雪の女王が公開されるまえのこと。


長野県の冬の雪山で四名の男女が遭難して行方不明、地元の警察はその行方を追っていますと女性ニュースキャスターは語る。


氷のように冷たいでしょ

何が

私のこころは

こころ?

そうこころ

そのこころって何だ


ここにあるっしょと言って彼女は手を掴み自分の左胸につけた。


ほら冷たいっしょ

あ、あぁ

シンヤは冬の寒さに打ち勝つ方法を知ってる?

寒くないように厚着をすれば良い

そうね


すると彼女は上着のコートを脱いだ。下はセーターを着ているので冬でもまだ暖かそうだ。体のラインが露骨にでるような窮屈なセーターではなく白くいかにも冬らしい暖かそうなセーター。そしてまた手を胸に。セーターの服の上からでは体温が感じられない。嘘だろと思ってセーターの下に手を潜らせる。


間違いないっしょ、と言って彼女は笑顔を作ってみせた。

漫画、最終兵器彼女を最終巻まで読破して間もない頃。

石油ストーブの燃料もあと僅か。部屋はまだ暖かいがストーブが消えてしまえば寒さは戻ってしまう。彼女はかまわず下着だけの姿になる。人のこころなんて冷たいものさ、彼女に比べたらオレのこころなんて、冷たいどころか空っぽだ。


まだこのほうが暖かい

そんなわけないだろ、早く服を着なおせ

冬の寒さに打ち勝つにはどうすれば良いか知っている?

厚着をすれば良い

そうね


そう言うと彼女は抱きつき抱擁してきた。こうなるともう抵抗はできない。あとはなすがまま。雪の女王とは冬のソナタとは最終兵器彼女とは全て彼女のことを指す。このときの彼女の匂い。温かい季節に咲く花のような匂いは生涯、記憶に残り続けた。


雪山で遭難して行方不明の四名の男女のうち二十一歳の男性橋本新哉君だけ救助され、残りの三名は凍死した遺体で発見されました、、、続いて次のニュースは。


ゆきや こんこ あられや こんこ ふっては ふっては ずんずん つもる

やまも のはらも わたぼうし かぶり かれきのこらず はながさく(作詞者不詳、日本の唱歌、雪より)


冬とは、あのとき雪山で遭難した自分の体を温めてくれた彼女のことである。




Episode The Queen Of Frozen . The End.





















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