騎士と魔術師 -死神よ、運命を愛せ-

Kirishima Works

序章

 雷光が城を照らしつける夜半すぎ、王国騎士ライリー・ウィストンは死神を見た。


 黒衣の陰から髑髏どくろかおをのぞかせる、その姿はまさしく数多あまたの絵画に描かれてきた死神そのものの姿で、は隣で「ひっ」と声をあげたカロン・ブラウンに気づくやいなや、手にしていた大鎌を稲妻の勢いで振り下ろした。


 大鎌がひゅっと空を切る音を、そのときライリーは聞いた。確かに、聞いた。


 しかしいくら時がすぎても鮮血が飛び散ることはなく、またカロンの首が床を転がることもなかった。


 死神は幻影だったのである。


 黒衣も髑髏どくろも大鎌も、その白刃が放つ禍々まがまがしい輝きも、目には見えても触れられない。


 ただ、の足元に落ちた分厚い本だけが、ライリーの手にずしりとした重さを持って実体が存在することを知らせた。


 それは、幻書げんしょ


 幻を封じこめた特殊な書物。


 魔術師たちが造りだす、世にも不思議な本である。

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