ANTAGONISM-FIRST LIGHT-
マシロカネミツ
CHAPTER 0 「始まる理由-BEGINNING-」
《地球は、青かった。》―――
とある宇宙飛行士が、その瞳に映った
星の美しさに感嘆し、そう呟いてから
いくつもの時が過ぎた。
2125年──。世界は様々な形で発展を
遂げ、なおも進化を続けていた。
人でさえも……
全ての始まりは100年前、遠い
隕石が地球に降り注いだあの日からだった。
当時のニュースではこう伝えられていた。
『新たなパンデミックの再来か?!』
隕石衝突の直後、ニューヨークを始め、
全世界で原因不明の
不調を訴える声が出始めた。
至るところで死者が相次ぎ、
世界の人口は100年前の約90%減少。
生き残った約8億人は、自らの祖国や家族
を失った混沌の中で、ひとつの都市国家を作り上げた。
その国の名は、かつてのニューヨークの
愛称『ビッグアップル』からとって、
《アップルシティ》と名付けられた。
人種、貧富の差、障害の有無、全ての
差別や区別に囚われる事無く
世界は1つになった。
そして地上に降り注いだ光は、
人々に新たな《
もたらす事になる。
国民の中に特殊能力を持つ者が現れたのだ。
その多種多様な能力から
「バリアント」と名付けられた。
(その力にも差があり、中でもわずかな力を
持つ者は「ベーシック」と呼ばれた。)
彼らの中には、
その名は──《シルバーフェイス》。
黒いフードに身を包み、
鏡の様に凹凸の無い、銀色の仮面を被った
その者に立ち向かったのは、
同じ時期に現れた1人の若者だった。
彼は目と口が露出したグレーの
ヘルメットに、腕がむき出した
ハーフタイプのアーマー、
グレーのハーフフィンガーグローブを
身に付けていた。
各地で繰り広げられていた両者の戦いは
二ヶ月にも及んだ。
そして戻ったのは、ただ一人……
若者だけだった。
《シチズンガード》と名付けられた彼は
その名の通り、この国を守る者となる事を固く誓うのだった。
自らの能力を活かしつつ、互いと調和を保ちながら、
国は発展を続けた。
自己変形性を持つ物質 《フレキテル》も、そのひとつである。
高い柔軟性を持ち、様々な加工が可能な
金属であるフレキテルは、家電製品から
建築資材に至るまでその用途は多岐に渡る。
考古学者であるジョージ・ライサンダーは
祖先から受け継いだ資産を全て、考古学研究に
それまで、伝説とされてきた古代都市
《ナルトゥア》の調査の
それを見つけた。
新たな金属を発見した事で国に多大な貢献をしたとして、
彼はその名を広く知られることとなった。
そして長年に渡り探し続けた結果、
400キロほど本国から離れた森の奥深くに
その手がかりを見つけた。
「博士、ナルトゥアというのは本当に存するのでしょうか?」
まるで、冒険映画から飛び出してきたかの
ような服装に身を包み、絹糸の様な黒髪を
束ねてLEDのヘッドライトを頼りに道無き
道を進みながら調査団のひとりであり、
ジョージの助手でもあるアデラ・ゴドフリーが尋ねた。
「私には……確信がある。伝説に
彼は手元の地図に目を通しながら、不安と
期待が残る彼女の問いに、自信に満ちた声でそう答えた。
彼のブラウンの瞳は、まっすぐ光り輝いていた。
罠が仕掛けられていないかと、周囲に気を
配りながら、調査団は木々が
生い茂る森の中を
進んで行き、自分の身長よりも高い草花を
かき分けながら辿り着いた洞窟の前で、
その歩みを止めた。
一行は意を決して、さらに数歩、その奥へ
進んでいった。
彼らは、永遠とも思われた暗闇の中に
一筋の光を見た。
導かれる様に進んでいくと彼の腰くらい
まで大小、様々な石がバランスよく
積まれているのを発見した。
そしてその真上に積まれていた青く光る石を見つけた。
彼はアデラに地図を渡して、
石の積まれている場所へと手を伸ばし、
その手に掴んだ。石は強い光を放ち、彼は
その中へ消えていった。
「博士!」
残されたアデラの叫び、調査団の動揺を
よそに、あたりはまた、静まり返った。
どこからか聞こえた、赤子の泣き声を残して………
そして 20年後……
「我が親愛なるアップルシティの皆様、
おはようございます。
《ACTV NEWS》
キャスターのリサ・ヘイズです。」
輝く笑顔に艶やかなショートボブスタイルの金髪、
きっちりとしたブラウンのスーツ、
鮮やかな紅いルージュが目を引くこの女性は
アップルシティの放送局
花形キャスターのリサ・ヘイズ。
「さて、今年は街であり一つの国でもある
《アップルシティ》建国100年を迎えます。
記念すべき今日は、この後15時よりこちら
ミドルガーデンにある、アップルシティ
国立公園にて式典が行われます。
式典にはバリアント、ベーシックを問わず、
生活に苦しむ人への支援を行う
《グラハム・ハート慈善財団》
代表、グラハム・ハート氏が登壇されます。」
ニュース映像にはハート氏の過去の映像が流れていた。
2年前にアップルシティ国立医療センター
への訪問を行った際に撮影されたものだ。
白いシャツに黒いベスト、黒いジャケット
黒いスラックスというスタイルだ。
ワインレッドのネクタイがチラリと写る。
この特大ニュースは、リサ・ヘイズの
「お会い出来るのが、とても楽しみです。」
という一言で締めくくられた。
そのニュースを、アップルシティ国立公園から少し離れた
空軍士官学校のラウンジにあるテレビで
下級生と共に見ていた一人の青年、アルフレッド・ライサンダー。
その澄んだ青い瞳は、静かに画面を見つめている。
彼の眼差しは、これから起こる《何か》
を確実に感じ取っていた。
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