第288話 悪魔の取引
『──』
「……あ、はい。じゃあそういうことで。分かりました。こっちの方からも伝えておきます。では失礼します」
通話を切って一息。ついでにながらで書いたメモの確認。……とりあえず、内容は問題なさそう。後から読んでもちゃんと理解できる。
「ふぅ……」
いやー、肩凝った。今日の配信の準備してたら、いきなり事務所の方から電話掛かってくるんだもん。しかも結構重要な話。
まあ、半分以上身から出た錆ではあるのだが。それに内容としては好ましい感じなので、特に文句などはない。
とりあえず、スケジュールの調整かな。MTGの予定が結構入ってしまったので、そのへんを込みで配信スケジュールを組み直さなければ。
ああいや、その前に雷火さんに連絡しなきゃ。ちょっとやってもらいたいことがあるし。
「えーと、まずチャットで……」
メッセージ。『連絡したいことがあるんだけど、いま大丈夫ですか? 可能なら通話でお願いしたいです』と。
すると素早い返信。端的にOKと返ってきたので、早速通話を繋ぐことに。
「もしもーし」
『はいはーい。あなたの同期の雷火さんですよー。一体何のご用でしょうか?』
「実は雷火さんにお願いしたいことがありまして」
『ほう。お願いとな?』
「ちなみに結構真面目なやつです」
『え』
「あとかなり大切な内容です」
『え』
途端に嫌そうな声音になった。どうしてそんな反応をするの……?
『ボタンからの、大切で真面目なお願い……? なに? また世界を混乱させるの?』
「キミは同期のことを何だと思ってるんだ」
『自分の胸に手を当てて考えてみなよ?』
「お? 良いのかな? そんなこと言って良いのかな? この通話中に、心臓の上に直接手を当てるASMRを展開してあげても良いんだよ?」
『それやったらボタンのこと一生ブロックするから』
「ぬーん」
声がマジだった。冗談なのに。
「まあ、話を戻すけど。……とりあえず、変なことではないよ。事務所公認の内容だし」
『あ、そうなの?』
「うん。なんならこの後、事務所からも雷火さんの方に連絡来ると思う」
『なんだ。じゃあ安心か』
事務所公認となると一気に声が軽くなった。この信用の差よ……。
『で、何なの?』
「ほら、今度バレンタインの企画で、先輩たちとコラボするじゃん? その時にちょっと告知をやってほしくて」
『あー、告知か。なるほど、そういう感じのお願いね』
そういう感じのお願いです。
『それは全然構わないけど。でも、告知の内容は? 私たちのコラボでするってことは、こっちにも関係ある内容なんでしょ?』
「そうね。めっちゃ関係あるよ。しかもメンバー全員に」
『おおう。本当に重大告知じゃん』
「ちなみに、これは枠主である雷火さんにしか伝えないので。他の先輩たちにはまだ秘密ね?」
『なんと。しかもサプライズですか』
そうなんです。サプライズなんです。
『うーん。そう言われるとワクワクしてきたな。……告知の内容は?』
「3Dライブ」
『ん?』
「だから、デンジラスの女性陣による3Dライブ。配信じゃなくて、ライブパフォーマンスする方のあれね。小さめだけど、現地の箱も押さえてあるよ」
『ん!?』
ちなみに俺はMC担当です。特に歌ったり踊ったりはしません。
『待って待って待って!? 私何も聞いてないよ!? マネさんからも何も聞いてない!』
「この後聞かされるよ」
『そうじゃないんだよ!! 何でそれをボタンが当たり前のように知ってんのって話!!』
ああ、それか。それについては簡単です。
「その3Dライブ、俺の作った会社との共同プロジェクトだから」
『はぁ!?』
「いやほら、前に俺が会社作ってるって言ったじゃん。それがほぼほぼ形になったからさ、一回試しに動かしてみようってなったわけ。で、その結果が3Dライブ」
結局のところ、実践に勝る経験はないからね。だからとりあえず『やってみよう』の精神で提案して、GOサインをいただいた感じです。
「ちなみに開催は三カ月後を予定しております」
『馬鹿じゃないの!? 本当に馬鹿じゃないの!?』
「いや、いけるいける」
『いけないよ!! レッスンとかいろいろあるでしょうが! それを告知してから始めろってか!? そんなのできるわけないでしょうが!!』
「大丈夫だよー。機材はもちろん、レッスンのためのスタジオも全部俺の会社が抱えてるから。専門のスタッフたちによる全面協力で、皆さんをサポートいたします」
『それにしたってだよぉ!!』
「あと、あくまでお試しだからね。ぶっちゃけ、今後のための公開リハーサルみたいなもんだから、そこまで気負う必要はないよ」
『……どういうこと?』
普段の歌枠とかの延長で良いってこと。
「今回のライブの目的は、そっち方面の経験を俺のところの人員に積ませることが第一。一応、スタッフのほとんどがアメリカで活動してたプロだけど……ちょっと分野が違うところもあって、どこまでできるか未知数なわけ」
とりあえず、映像制作やら音楽関係者やら、ドラゴンの一件で職に溢れていた人材の大半は抱え込めたわけだけど。彼らからしても、VTuberのライブなんて未知の領域だからなぁ。
スキルはあっても、それを上手く適応させられるかは不明。だから実際に試してやってみる必要がある。
「だから演出とかは控えめだし、進行もゴタつく可能性あり。なのでトークの割合も多めにする予定。現地組用にスタジオも押さえてあるけれど、そっちの値段も控え目。採算度外視のサービス価格」
ま、元々採算なんて考えてないけどな。所詮は俺の趣味みたいなもんだし。
「だから本当にゆるっとやってほしい。ぶっちゃけトークイベントの延長だよ」
『いや、それにしてもじゃない? 3Dライブだよ?』
「うん。今後の宣伝のためのね。デンジラスはそういう方面にも力を入れていきますよってのと、俺の会社が動き出しましたよーって。……これはどっちかと言うと、身内向けだけどね」
『身内向け?』
「そ。こんぐらい気楽に動かせますよーって、関わりのあるライバーさんへのアピール。もちろん、雷火さんたちがその筆頭」
『私たち……』
「そ。VTuberの人たちって、結構ソロライブに力を入れてるというかさ。目標に掲げてる人いるじゃん? 俺は知り合いのそういう夢を手助けしたいから、それを実例付きで示してたいわけ」
まあ、正直俺には良く分かんない部分ではあるんだけどね。俺は沙界さんに接触するのが第一目標で、それ以降はただただ楽しいから続けてるだけだし。
ぶっちゃけ、ライブとかをやりたいと思ったことはない。俺はただただVTuberとして騒いでたいだけで、やりたい表現とかは特にないからな。だから歌枠とかも滅多にやらんのだし。
ただ、人によってはライブ、特にソロライブは大きな目標だったりする。まあ、原動力は人それぞれって話しでしかないので、そこについては多くは語らない。
全部同じだ。『推しに会いたい』も、『自分を表現したい』も、『好きなものを広めたい』も。他のいろんなアレコレも、全部同じ。
ただ俺には、その夢を手伝えるための手段と力があった。だからとりあえず、それができるようにいろいろと整えた。
で、整えたのなら使ってほしいのが人情ってものであるからして。
「雷火さんや、他の先輩たちが気軽に利用できるように。そのための業務紹介兼、人員の顔合わせ。それも目的の一つってわけ」
『……なる、ほど』
「だからまあ、そんな気にしないでもろて。大型企画の一つ程度に考えていて。なんなら任意参加だしね、このライブ」
『おいここで追加の情報出すな。……じゃあどういう告知内容なの?』
「デンジラス、3Dライブ開催決定。詳細は公式サイトで」
そんで公式サイトに『お手軽ライブですよー』みたいな説明文を載っけて、出演者は『???』で統一。
それから裏で参加の確認取って、出揃った段階で掲載みたいな?
『徹頭徹尾ゆるくて草も生えない』
「練習なんてそんなもんでしょ。もちろん、多少なりともお金取るから、相応のクオリティには仕上げてもらうつもりだけど」
『……まあ、分からないけど、分かったって言っておく。事務所もOK出してるんだもんね』
「そうね。なんなら乗り気だったよ」
費用の大部分はこっち持ちだし、今後本格的に利用するための準備みたいなもんだからね。そりゃあ乗るよ。ぶっちゃけバーター案件だしコレ。
『……はぁ。まあ、了解。じゃあ、告知の資料後で送ってね』
「それは事務所の方から送ってもらう予定」
『あいあい。……コラボの後に追及されそうだなぁ、これ』
「俺は多分その十倍責められると思う」
『それに関しては自業自得』
それはそう。
「ちなみにだけど、雷火さんは参加する? この3Dライブ」
『……参加しない選択肢なんかないでしょ。棚ボタとはいえ、折角の3Dライブなんだから。全力でやってやるっての』
「おー」
良いね。その精神、嫌いじゃないよ。
ーーー
あとがき
一流の人材が大量にいて、資金も潤沢で、採算とかどうでもよくて、仕事もほぼほぼ取ってないから捧げられるリソースも有り余ってる。しかもしっかりやったら、会社のお金で好き勝手できるためモチベーションも高い。
その結果、多少のスケジュールの無茶はぶち抜ける。なお巻き込まれたデンジラスメンバー
にしても、あっちを書き始めたせいで、こっちの投稿スピードも上がるバグよ。あっちを書きたいからこそ、先にタスクを処理したいの精神です。
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