第28話 ふわふわ

「はあ…… 凪、紫音がごめんね」


 優良が朝と同じように繋いでいる私の手をギュッと握る。


 あのあと、箱崎さんが帰ってから私たちも学校を出て、一緒に帰り道を歩いていた。


「全然大丈夫!」

「なんか紫音が変なこと言わなかった?」

「変なこと? 特には…… あっ、なんかわたしが世界一可愛いとかなんとか……」

「あああっ……! 変なこと言ってる……! 紫音から凪にそんなこと言われるなんてめっちゃ恥ずかしい……」


 そう言って優良は恥ずかしそうに顔を手で隠す。


「あははっ、それに箱崎さんすごい良い人だなって思ったよ」

「……そうかな? 紫音にはからかわれてばっかりだけど……」


 確かにすごいからかわれてはいたけど……


「でもそういう関係って良いよね。本当に箱崎さんと優良が仲が良いのが伝わってくる」


 冗談が言える仲ってことは本当に信頼してるっていうことの証明だと思う。


 なんだかほっこりする。


「まあ紫音とは高校からの仲だけど昔からずっと一緒にいたんじゃないかってくらい気楽に話せるからね」

「あははっ、やっぱり良い友達だね」


(箱崎さんと友達になったら楽しいんだろうなあ……)


 明るい性格でコミュニケーションが上手で初対面の私とでもあんなに壁がなく話せるってことは本当にすごいことだと思う。


「あっ、でもわたしは凪の方が好きだからね!?」

「え? どうしたの急に?」

「いや、万が一でも凪が勘違いしたら嫌だなって思って……」


 勘違い? 優良ってもしかして私よりも箱崎さんの方が好きなんじゃ……ってこと?


「わたしが世界で一番好きなのは凪だから」


 その言葉がわたしの耳に入ってきた瞬間にわたしの目には全ての動きがゆっくりに映る。


 小さな風が吹き抜けて、周りの木々がわさわさと音をたてているのが妙に大きく聞こえる。


 優良の髪がその風を受けて、ふわっと風に揺れ靡く。


 夕方にさしかかった太陽が優良の笑顔を引き立てるかのように優良を照らす。


 私はそんな優良に今までとは違う感情を覚えた。


(なんだろう、これ。ドキッって感じじゃなくてなんかふわっとした感じ。うん、そうだ。なんかふわふわしてる)


「凪が世界で一番可愛いし、凪のことを世界で一番好きなのは私だから」


 なんだか優良が眩しい。


(これって何? これって恋……なの? それとも別のもの?)


「凪? どうしたの?」


 私は優良に目を覗き込まれて、はっと自分を取り戻す。


「う、ううん! なんでもないよ!」

「そう、良かった。じゃあ私こっちだから。ほんとはもっと一緒にいたいけど……」

「……うん、じゃあね、優良」

「うん、また明日」


 そう言って優良は繋いでいた手を名残惜しそうに離して、わたしたちはお互いの家に帰って行った。


 ☆


「ただいまー……ってまあ誰もいないけど」


 家に到着した私はリビングに入ってソファに全体重を乗っける。


 なんだか音がないのに耐えられなくて、すぐにテレビのリモコンに手を伸ばす。


 はあ…… 何だったんだろうあれ。


 いつもならドキドキするはずなのに、今日はなんかちょっと違った。


 何が違うのか抽象的にしかわからないけど確かに何かが違った。


 これって好きってこと? いや好きなのはもともと好きだから、これが本当の好きって意味なのかな……


 優良とは長い間ずっと一緒にいた。一緒にいたからこそやっぱりわからない。


 好きの区別がつきづらい。私の優良に対するこの好きは今どういう好きなのか。


 前だったらはっきりとこれは友達の好きで恋ではないと言えたのに今は自分でもよくわからない。


(…………はあ)


 いくら悩んでみても答えはでない。


 この一週間の間に答えを見つけられるように、何か前に進みたい。


 いや、進まないとダメなんだ。いつまでもこのままは私よりもずっと優良と恋の方がツラいんだと思う。


 もしも私が二人と同じ立場にいると考えたら、私はきっとツラい、不安というマイナス方面の感情を抱くと思う。


 いつ振り向くかもわからない、本当に付き合えるかどうかもわからないのに不安なわけがない。


 その不安な状態のまま終わらせることだけは絶対にしたくない。


 なんてことを考えているけど、結局のところ私に二人の気持ちはわからない。なんとなく想像することしかできない。


 だからなるべく早く前に進みたいと思うことが、私を含めた全ての人にとって一番良い方法だといいな。


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