39話。ありえちゃうのが未来なんです
四人が火山を探して歩き出して5時間ほど経った頃。
本来であれば、そろそろ地平線の向こうに火山の頂きが見えてもおかしくはないはずなのだが、遠くに見えるのは雑木林のように雑多に生えている巨大な木々だけだった。
道中軽い雑談も交わしながら仲を深めていた四人だったが、これには流石の彼女らも残念そうに項垂れる。
「これは……まだ頂きすら見えぬということは、既に移動していそうだな。不運を引き当ててしまったか」
「そんなぁ……って、ん? ちょっと待ってください。火山が移動するんですか?」
「そら休眠から覚めたら移動するであろうよ」
「休眠……えっ? 活火山とかそういう話ですか?」
「活火山?」
「ちょっと待ってください。おそらく、互いに認識の齟齬があります。会話が微妙にズレている気がしてなりません」
絶妙に噛み合わない会話を感じ取ったイヴが、二人の間に割って入る。
彼女は無自覚に人間観察を行っており、そのためか、こういった意思疎通のズレに気付きやすかった。気付いた上で方向性を修正しようと、一度すり合わせを行おうとするのは彼女の偉いところだろう。
「まず整理しましょう。私たちの目的地は直径4km程度の火山、その内部にある青い結晶。そうですね?」
「そうだな」「そうだね」
「はい。では、その火山について、私たちは“内部に洞窟があり入ることができる火山”という認識でした。それが移動すると言われたので、いくら超災害によって常識外の災害が頻発する世界とはいえ、火山が移動するなんてことがありえるのかと困惑したわけです」
「あー……あぁ、なるほど。そうか、既に知っているものだと思っていたが、そういえば人伝に聞いたとのことだったな。てっきり既に教えられているものだと思っていたが、すっかり確認を取ることを失念していた」
イヴの言葉からサムは当初協力することを決めた時の会話を思い出す。
数時間も前の会話の内容などハッキリとは覚えていなかったが、それでも一部思い出した部分から、なんとなく認識の齟齬に気付くことができたらしい。
「その反応だと、やはり普通の火山ではないのですね?」
「そうだね。というか、呼びやすいのと区分がややこしいから火山って呼んでるだけで、厳密には学術的に用いられる‟火山”とは違うものなんだ」
「へ? どういうことなんです?」
「そうさなぁ……信じられんかもしれんが、アレは生物なのよ」
「「……ん???」」
エマとイヴは同時に聞き返す。
言っていることがわからなかったのだ。いや、言葉の意味は分かる。ただあまりにも想像のできない内容だったからか、上手く理解できなかったのだ。
その様子に笑いながら、サムは説明を続ける。
「全長約3~4km程度。体重はハッキリと計測されたことはない、というか並の装置では測定不能。百数年程度の休眠期間と1年程の活動期間を繰り返す生態を持つ巨大な蟹。“ガイアクラブ”とも呼ばれるソレが、貴殿らの探している火山の正体だ」
「は? ……え?は? いやいやいや……え?
そんな巨大な生物があり得るんですか……?」
「まぁ、信じられないよね。だからこそ既に聞いてるものだと思ってたんだけど」
「いやいやいや全く聞いてないです……というか、あえて黙ってたっぽいので、自分たちで調べてみろみたいなことだったのかもですけど」
「おっと、それなら悪いことしちゃったかな?」
「いや、調べ方の指定がないのなら構わんだろう。既知の人間から聞くというのも立派な一つの手段だ」
「なるほど。じゃあまぁ、そういうことで」
思わぬ形で正体を知ってしまったことについてエマは少し不安だったが、サムの発言に安心して少し気が楽になる。
実際のところ、美来やキャサリンはそういう形で情報を手に入れることもしっかりと想定していた。情報通を含む多くの人間と関わるコミュニケーション能力だって、立派な一つの能力なのだ。
だがそう認めて安心したところで、それが‟ガイアクラブ”への衝撃を薄めてくれるわけではなかった。
「4kmもある巨体が、動く……?」
「それだけ巨大な物体が通常通りに動けばあまりのエネルギーに耐え切れずに自壊するかと思うのですが」
「だからこそ一歩の移動速度は非常に遅い。まぁ、遅いとはいえ音速に迫るほどはあるがな。
もし移動中の脚に触れれば、それだけで軽く三度は死ねる衝撃であろうよ」
「そ、そんなバケモノに会いに行くんですか……?」
「そうだよ~。けどまぁ、移動したっていう子は探しに行けないかな。仮に見つけたとして活動中だろうし、近づけないと思う」
「となると……地図に記録できている火山の中で最も近いものでも二日はかかるな。道中が危険だが、それ以外はもはや遠いなんて距離じゃなくなってしまう。つまるところ危険地帯を抜けねばならないというわけだが、それでも目指すか?」
サムはその質問が愚問だとわかっていた。
探索が楽しくて探検家をしているこの二人が、困難を理由に諦めることはないだろう。それでもこの質問をしたのは、どうせ再スタートになるのなら気持ちよく区切りをつけたかったからだ。
エマとイヴの二人は勿論、その問いに力強く頷く。
「よしわかった! であれば、進むとしよう。
本来ならば避けていきたい場所だが……あえて突っ切るのもまた乙なものよ!」
「ちなみにあの、その危険地帯ってのがどんなところなのか聞いても?」
「ある意味すごく単純だな。超災害頻発地帯。高頻度の地震、落石、隕石、突風などが数多く発生する巨大な渓谷よ」
「うわ、あそこか……覚悟しててね二人とも。本当にとんでもない場所だから」
「な、なるほど……頑張ろうね、イヴちゃん」
「えぇ、エマ。気を引き締めていきましょう」
二人は顔を見合わせて、互いに拳をぐっと握りしめる。
イヴの表情は相変わらず変化が乏しいが、それでも唇を結んで力を込めたのはエマにもよくわかった。
「……おそらく
「……───……」
杞憂であればいいが。その呟きを唯一聞いていたイヴは、内心でもう一度、気を引き締め直した。
未来探検家 〜閉鎖都市TOKYO〜 どこんじょう @dokonjou
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