37話。なんか今章は高身長多めです
「他の飛竜達が逃げていく……あと数分ほど何もなければ、戦闘は終了になりそうか」
巨大な大剣を大地に突き刺した女性が、周囲を見回しながら息を吐く。まだ警戒は緩められないのか、声にはしっかりとした硬さを感じる。
一方、刀を鞘に納めた男の方はのんびりとした足取りで戻ってきた。乱れた金髪をかき上げながら、一仕事終えたような表情で肩を回している。
「もう戦意は残っておるまいよ。音に乗せられ暴れただけさ。ほら、最後の竜も逃げていく」
「周囲に敵影……───……なし。戦闘は終了したと見ていいでしょう」
「いやぁ助かった。
……そういうわけだ、もう気を抜いてもよいのでは?」
「………………よかったぁ~! ぐでわぁ~」
男の言葉でようやく警戒を解いたらしく、女性はそのまま草原に倒れるように寝転がった。
先ほどまでの凛とした声は何処へ行ったのか、気の抜けたゆるふわボイスで大の字になっている。
「おい寝るな。せめて名乗りを終えてからだ」
「あ、そういえば自己紹介がまだかぁ。いきなりのことだったし、そんな中で協力してくれて嬉しいよ~」
「いえいえぜんぜ……わぉ」
ピンク色の髪をした女性が頭を掻きながらのっそりと起き上がる。
手を振って笑うエマが驚いたように目を見開いたのは、その姿を目にしたからだ。
身長190cmはあろう身長で、腰まで届くゆるいツインテール。自身の身長より少しだけ大きな大剣を片手で難なく持ち上げながらも、表情はおっとりとしていて無害そうな印象を受ける。
確かに特徴的だ。しかし、エマの視線が向かう先はそこではなく。大きく実った二つの───
「ていっ」
「いで。何するのさイヴちゃん!」
「あえて言いはしませんが、失礼にあたるのでやめた方がいいでしょう」
「あっはい。ごもっともでございます」
「?」
「……こほん。その、自己紹介をしても構わぬか?」
金髪をポニーテールのように結んだ男が、不思議そうに首を傾げてる女性から気まずそうな顔で目を逸らし、二人へ話しかける。
慌ててエマが頷いたのを見て、男は改めて二人へ向き直った。
「
「私は『ニケ・ヴィオレンティアム』。同じく探検家4級~」
サムは軽くお辞儀を行いながら、ニケは軽く手を振りながら各々自己紹介をする。
二人が並ぶと一瞬サムが小柄なように見えるが、それでもよく見れば180cm近くはありそうだ。エマは自分以外の三人が軒並み高身長であることに危機感を感じつつも、百蟲のことを思い出し失礼な形で安心した。
「……あれ? ニケって名前、どこかで……?」
「あ~! 誰かと思えばその双剣とオレンジ色の髪、エマだね?」
「えっ!?」
「なんだ、知り合いか?」
「いや、私が一方的に知ってるだけ。けれど同期ではあるかな」
「ど、同期……? ───あ~!」
「ん、もしかして知っててくれた~?」
ニケの言葉でピースが揃い、エマは聞き覚えがある理由を思い出す。
そう、ニケと言えば───
「───
「破壊って……お前、そんなことを?」
「だいぶ語弊があると思う。全員一撃で葬り去っただけだよ」
「あぁ、そういう……」
巨大な大剣を振り回し、Cグループの試験の結果を無茶苦茶にした張本人。あの梓睿にとっても少し予想外の事態を引き起こした力の化身。
それが『ニケ・ヴィオレンティアム』である。
「それにしても、同期なのはともかくなんで私のことを知ってたんですか?」
「ん~? 普通に最後まで他の人の映像を見てたからだよ。そっちだって私の映像は見れたでしょ?」
「あ、そういうことか」
「名前まで知ってたのは単純に噂になってたから。怪物殺しの四人組で、あの『天才』を師匠に持つ女の子だからね~。
けど……そっちの人は知らないかな。貴女、名前は?」
「イヴと言います。エマの装備品扱いで同行している……アンドロイドになります。以後お見知りおきを」
「イヴって言うんだ。さっきはありがとね~」
少し自分の区分に困って咄嗟に答えたイヴ。
帰ったら自分の正式な区分について調べた方がいいかもしれないと、記憶ストレージに軽く記録しておく。
「さて、自己紹介が終わったところで……貴殿らは何故ここに?」
「イヴちゃんの改良に使う部品、の、材料を探してやってきたんです。どうもこの世界にしかない素材らしくて」
「ふむ……どういう内容の物か聞いても?」
「えーっと……」
「半径3~4kmほどの火山内部に生成される青色の結晶、とのことでした。人伝に聞いたものなので、知っている情報は以上になってしまいますが───」
「ん~。大体わかったかも?」
「えっほんと!?」
「うん。多分だけどね。ただアレ、探すの面倒なんだよね~」
ニケが地図を展開しながら唇を尖らせる。
個人でマッピングしているはずの地図はエマとイヴのものとは比較にならないほど広い範囲が登録されているが、どうやらそれでもなお見つけるのは難しいらしい。
これは思っていた以上に長丁場になりそうだと、エマとイヴの二人が覚悟を決める。するとそんな二人を見て、サムが右手を上げて口を開いた。
「貴殿らが良ければだが、その素材探し、
「ふぇ? いいんですか?」
「あぁ、先ほどのお礼も兼ねてな。
「こんな可愛くて強い二人と一緒に居れるならむしろ‟うぇるかむ”だよ」
「ほらな。
思わぬ提案に、エマとイヴはお互いに顔を合わせる。
たしかに、自分たちはこの世界についての知識はほとんど持ち合わせていない。それらについて知れるだけでもかなり楽になる上、探検家としての階級や先ほどの戦いを見る限り知識だけでなく実力面でも頼りになってくれそうだ。
「そう言ってくれるなら、是非お願いします!」
メリットだらけのこの提案、特に断る理由もない。せっかくなので、二人はその提案に乗ることにした。
♢♦♢♦♢
「よし、では早速目的の火山を探しに行きたいところだが……その前に、貴殿らは昼食は既に食べたか?」
「え~っと、朝ごはんなら食べました」
「ふむ。では腹は空いているか?」
「えぇっと……そう言われたら、なにか食べたくなってきたかもです」
現在、太陽は南中に位置しており、時間帯としては丁度正午にあたる。
そう考えると、ちょうど今は昼飯時となるだろう。それを自覚した途端、エマは自分のお腹に空腹感を感じ始めた。
「であれば、ここで一旦昼食としようか。一応聞いておくが、貴殿らは専機械食ではないな?」
「専機械食?」
「内臓を機械化していると腸内細菌などが存在せず消化できないことがあるからな。その場合は消化を補助する機械食しか食べれないことになる。そういった食生活を行うことを専機械食と言うのだが、その反応なら大丈夫そうだ」
「へぇ~そうなんですね。なんでそんなことを?」
「そら、今から食べるのはこれだからな。専機械食では食べられんだろう?」
「これって……えぇ!?」
サムはそう言うと、先ほど戦ったワイバーンの死体を指さした。
エマとイヴが驚いている横で、ニケが大剣を使ってその巨体を部位ごとに切り分けていく。叩き潰すように骨ごと分断しているが、よく見れば可食部になりそうな部分はしっかりと避けていた。
「───……た、食べることができるのですか?この生物は」
「もちろん生では食えぬ。
「いや、えぇ……?」
「だいじょうぶだいじょうぶ。おいし~よ」
「……私、ちょっと気になるかも」
「本当ですか!? ……───……エマがそう言うなら、私も少し気になりますが」
始めて見る生物を食材として戴く感覚。未知の生物、未知の食材。
こういったものに興味を示すのは、やはり探検家と言うべきか。
「へへへっ、興味を持ってくれたみたいで嬉しいよ。それじゃサム、テキトーに切り分けておくから、後はよろしくね」
「心得た。では、ここは基本型の丸焼きといこう。……《
サムはそう言って刀を抜くと、部位ごとに切り分けられた肉の鱗だけを綺麗に斬り落としていく。
たった数秒ほどで全て斬り落としたサムはそのまま
キャンプファイヤーの焚火のようになった薪の上で肉と葉を回転させ続け数分後、次第に美味しそうな匂いが漂い始める。
「美味しそうな匂い……え、肉を焼いているだけですよね?」
「あぁ。肉ってやつは上手く焼けば美味そうな香りがするものだからな」
「葉っぱを巻いてるのはなんか下処理だったり?」
「そうそう。こうしないと結構臭いがキツくて食べづらいから。要は臭み消し」
「いわゆる“獣臭い”ってやつだな。まぁ普通想像する哺乳類系のアレとは少し香りが異なるが……よし、そろそろいいだろう。念のため───《
雑談しながら肉を焼いていたサムはもう一度刀を鞘から抜き、肉を真っ二つに断ち切る。火がちゃんと内側まで通っているか、ニケの一撃と違って綺麗に分断された断面から確認したサムは、そのまま二つの丸焼け肉をエマとイヴに渡す。
「ほら、食っていいぞ」
「え、あの……この肉、明らかに私の胴体より太いんですけど」
「そら元は二十メートル超えの巨体だからな。この部位は脚だが、それでも小柄な貴殿よりは大きくて当然だ」
「あの……え、絶対に食べきれる気がしないんですけど!?」
「残しても構わん。余った分はこの地の超生物が勝手に食らうだろう」
「それ道徳的に大丈夫なやつですか!?」
「命に感謝し戴くことも大事だが、同時に生態系のことも考えれば、食えぬ分はこの場に残すことも重要だ。
「そ、そういうことなら……い、いただきます!」
覚悟は決まったのか、エマが巨大な肉に勢いよく齧り付いた。
そのまま口に入れらるだけの量を嚙み千切り、もっちもっちと咀嚼する。
人生で初めて食べる未知の食材。その味は───
「……なんか、食感とかは初めて食べる感じがして結構面白いんですけどそれはそれとして普通に硬いし、味の方はなんか思ってたより普通に肉の味で新鮮味もなければその癖ちょっとクセが強いし……そんな美味しくないですね……」
「はははっ! そら、味付けしていない飛竜の肉なぞそんなものよ!」
───できれば、あんまり食べたくない類のものだった。
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