36話。オゥ!ライトニングカターナ!
「あ、見えてきた! ……うわ多っでかっ!?」
「中央で二人が戦闘中のようです。割り込む形で着地します。着地直後から戦闘になると思うので、準備をしておいてください」
「おっけぇぅえぁ!?」
急角度で軌道を変更し、
青い流星はソニックブームを発生させ飛竜を蹴散らしつつも、なるべく戦闘中の二人を巻き込まないように着地した。
「───うわっ!? だれ!?」
「ぅえっと、戦ってるの見て、協力しに来ました!」
「
「了解しまし───たッ!」
突進してきた飛竜をイヴが蹴り上げ、戦闘が開始する。
エマも双剣を構え、もう準備万端のようだった。
「《
「■▪■───!」
噛みつこうとしてくる飛竜を避け、すれ違いざまにチェーンソーで斬り抜ける。
並の生物なら真っ二つに分かれて死ぬような一撃だが、どうやらこの世界の生物は相当頑丈らしく、夥しい量の血をまき散らしながらも依然として空を飛んでいた。
「タフすぎるでしょ!?」
「超生物は傷口の治りが異様に早い! そのくせしっかり堅いから、沢山殴って持久勝ちして!」
「なるほど、わかりました!」
「部位の再生は?」
「基本はない! ぐ───っ再生力は高いけど、せいぜいが止血程度! コイツらは部位欠損までは治らない!」
「了解です。エマ、なるべく翼を切り裂くことを意識してください」
「なるほど、おっけー!」
イヴの質問に少し低い女性の声で回答が返ってくる。
必要な情報は得たと、彼女は戦闘の方針を早めに決断した。
イヴのその判断力は美来や
「■▪▪!」
「ふっ───」
突進してくるワイバーンを飛び越えるように避け、エマはその双剣を横に広げる。
「《
そのまま双剣の加速機構を起動し、彼女は腕を引っ込めることで高速回転を始めた。
もはや彼女の得意技となったこの動きは制御が効かないことを無視すれば凄まじい破壊力を誇る必殺技だ。美来曰く、破壊力について「回転だからね」とのこと。
彼女はまるで丸鋸のように、飛竜の片翼をズタズタに斬り裂いて着地する。
ワイバーンは必死に翼を動かしていたが、斬り裂かれて
その隙を、もちろんイヴは見逃さない
「《code 6-A-01》」
右腕にエネルギーが集まり、青く光る。
先ほど蹴った際の手ごたえから考えると、一撃で殺すには相当な威力が必要だ。彼女の機能上それぐらいの威力なら出せるが、あまりにもエネルギーの使用量が大きすぎる。
それならば燃費が良く、たくさんダメージが出せる方法を選ぶ。殺しきれなくとも、せめて気絶させられればいい。
一撃、追撃。一撃、追撃。一撃、追撃……
幾度も殴り続け、並の動物であれば死に至るような攻撃を食らってなお、飛竜は立ち上がる。
翼は相変わらずボロボロだが、それでもある程度は回復したのか、不器用ながら空へ飛び上がっていく。
「ダメですか……!」
「■▪───!」
「まだまだ来るよ!」
先ほどまで殴っていた個体は流石に警戒しているのか遠巻きに旋回するだけだが、残った他の飛竜たちはおかまいなしと言わんばかりに突撃を繰り返してくる。
「数は……───……後ろの二人と分担すると考えてもおよそ5匹になりますね。繰り返すとなると、少し効率が悪いかもしれません。
……仕方ありませんね。少しだけ、本気を出すとしましょう」
いくらイヴが地脈から半永久的にエネルギーを吸収できるとはいえ、勿論その速度には限界がある。肝心な場面でエネルギー補給が間に合わないことを避けるため、彼女はなるべく消費が激しい行動を避けていたのだ。
しかし冷静に判断して、現状がその“肝心な場面”であろう。ならば出し渋る必要はない。
「《code 2-E-07》」
イヴの身体が青く輝きだしたのとほぼ同時、飛竜は彼女に向かって一直線に突撃を繰り出してくる。
真っ直ぐに滑空していたはずの飛竜はその直後、横転しながら大地を転がっていた。
───相手は飛竜。イヴの
「イヴちゃんさっすがぁ!」
「ありがとうございます」
新たに飛竜の翼膜を斬り裂きながら、エマが空中で親指を突き立てサムズアップする。
エマの攻撃によって落下してきた飛竜を先ほどの個体と同じように蹴り飛ばし、イヴは拙い笑顔を返した。
「とはいえ、相当なダメージになっているとは思うのですが……───……まだ生きているようですね。とてつもない頑丈さです」
「超生物と戦うのは初めてか。そら、驚くであろうよ。
しかし案ずるな、ここまで力の差を見せつければ、後は一頭でも斬れば逃げ出すだろう」
「そうは言っても、この数相手に持久勝ちできるだけのダメージはまだ溜まってない! ぅぐ───狙うのは一頭でも、他の無視は難しい!」
「いいや、二頭のうちどちらかなれば、すでに域には届いてる。
充電も十分、
「だから、その一騎打ちを作るのが難しいんだって!」
冷えた鋼のような声で、男は自信あり気にそう言った。
彼の実力は知らないが、横の女性はその発言を否定しなかった。その口ぶりから、“一騎打ちを作れれば斬れる”というのは間違いがないらしい。
───どうせこのままジリ貧なら、乗ってみた方が面白そうだ。
「イヴちゃん、なんか良い感じの装備ない!?」
「……───……あります。本当に良いんですか?」
「うん、どうせなら面白い方に賭けてみる!」
エマの言葉に、イヴは相変わらずの拙い笑顔で反応する。
‟面白そう”という感情は両者にあるが、イヴにはまだその踏ん切りをつけきれない。エマの言葉がその背中を押し、イヴはようやく笑顔と共に踏み出した。
「確認ですが。一騎打ちの状況を作れさえすれば、殺せるんですね?」
「あぁ、そうだ」
「わかりました。では、三秒ほど耳を塞いでおいてください。口を開いて、衝撃を逃す姿勢で、なるべく隙間のないようにお願いします」
「? ……策があるのだな。了解した」
……三人が両耳に手を当てたことを確認する。
……仮説通りなら、上手くいくはずだ。
……ぶっつけ本番になってしまったが、エマは面白い方に賭けると言った。ならば、やれるだけやってみた方が面白いだろう。
そんなことを考えながら、イヴは意を決して口を開く。
「───《code 8-J-02》」
その役割は───音響弾。
彼女の身体を中心にして凄まじい爆音が鳴り響く。
その音量は、先ほど響いた轟音の数十倍にあたる。そのあまりにも大きな音に空気はもはや衝撃波のように震え出し、周囲の砂利や砂埃がイヴを中心にして放射状に吹き飛んでいく。
耳を塞いでいる三人でさえ限界近くを必死に耐えるほどの、非常に強烈な爆音だ。その音に、飛竜たちはパニックを起こしながら墜落していく。
「先ほどの戦闘から察するに、この飛竜達がパニックから立ち直るのは数秒もあれば十分でしょう。しかし、パニックから立ち直ってもすぐには動けないはずです。パニックから立ち直った直後が勝負になります」
「おぅ……一回で耳にタコができそうな音だったが、おかげで舞台は整った。なれば今こそ、
男はふらつく頭を覚ますように両手で頬を叩くと、先ほどイヴが蹴り飛ばした飛竜の元へ走り出す。
少し距離が遠かったためか、その個体は他の飛竜よりも音響兵器の影響が弱い。既にパニックから立ち直っている飛竜が、男に向かって突進を繰り出す。
「やばっ、ちょっとマズいんじゃ?」
「案ずるな───必ず殺すと書いて必殺」
男が腰に差した刀を抜く。
飛竜と男の距離が近づく。
男は刀を握りしめ、それを頭上に掲げた。
「我流にて、御免」
───まずは初めに。右上から左斜め下へ、一撃。
飛竜の動きが停止する。否、飛竜の動きが殺される。
───返す刃で。左下から中央上へ、一撃。
飛竜の身体が停止する。否、飛竜の身体が殺される。
───最後にトドメ。上から右斜め下へ、一撃。
刃の軌跡は、その名の通りに。
「───これにて〆切でございます」
朱き華を咲かせ、飛竜はその場に倒れ伏した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます