31話。250年前の吸血鬼vs10000年後のアンドロイド
「───……《code 2-A-09》、《code 6-A-01》」
「っ!」
突如イヴの体が青白く光り、音速の三倍ほどの速度まで加速する。
一瞬で
「(想像以上だ……出力を三段階いや足りんな、五段階上げるか)」
普通の人間であれば肉体のおよそ四分の一が吹き飛んだ時点で既に決着はついている。だがしかし、吸血鬼である彼にとって肉体の欠損程度は大した痛手ではない。イヴに合わせ出力を上げた彼はその傷をわずか2秒で完治させ、即座に反撃の姿勢をとる。
「《code 7-A-01》、《code 9-J-08》」
「ぐっ!? ───ふんッ!」
彼女の蹴りを受け止め、エネルギーの追撃で骨を潰され、溢れ出た血で拘束する。
そのまま血を棘にして食い込ませ、彼女の脚をズタズタに引き裂こうとする梓睿だったが、彼女の攻撃に反応したように梓睿の体が光り、内側からの衝撃で彼の腕が爆発した。
その隙に追撃を入れようとするイヴだが、すんでのところで梓睿は回避する。
置き土産に血の爆弾を残され、イヴも接近できず防御を強制された。
「(なるほど、エネルギーを流し込まれたか。今の動きを見るに、彼女の持つエネルギーに反応して爆発するらしいな。エネルギー自体は周りの地脈から吸い上げ、何かしらのオリジナル要素を加えて己の物としているのか。そうやって加工し流し込んだエネルギーは相手の内側で継続的にダメージを与え、攻撃時には内側から防御無視の追撃を発生させる、と……。私が吸血鬼でなければ今の連携で三回ほど死んでいることになるな)」
数秒程度の僅かな時間で考察を行う。元々戦闘中でも考察は欠かさない梓睿だが、一瞬でも集中できる時間があるだけでその精度・速度は飛躍的に上昇する。
『分析家』の異名は伊達じゃない。彼がそう呼ばれるのには勿論、理由と実績がある。
……とは言え、その思考は外からでは見えやしない。故にこそ、外で観戦している四人は首を傾げながら二人を見ていた。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
「……後で聞かせてくれるんだろうな? 何もわからんぞ、これ」
「頼めば教えてくれるんじゃな〜い?。でも言われてわかるかなぁ〜」
「聞いたところで無駄だってか。だろうな、俺もそんな気がするよ」
イヴと梓睿の戦いを見ながら、ローレンスとキャサリンがため息をつく。
まだ探検家になったばかりのエマはともかく、初段の美来ですら梓睿の思考を読み取ることは難しい。
「わーお。いつの間にか山が更地になってる~」
「更地って言うには混沌すぎるだろ。でっこぼこだぞ」
「青いね。エネルギーの痕跡かな」
「なんのエネルギーなんでしょう。青いってことはまさか、放射能!?」
「それだったら私も被爆してそうだけどな~。あと別に放射能自体は青くないよ~」
「多分だが、エネルギーを周りから補充しているっぽいな。あの周辺だけ空気の純度が高い。梓睿が妨害してないのを見る感じ、そう簡単に邪魔できるものでもなさそうだ」
「地脈かな。初遭遇も地脈異常、地脈由来は色同じ、ラインは繋がるよ」
モニターの情報を元に、各々が解析を進める。
観戦者である四人も解析を行うのは“イヴのことを知る”というのが主目的だが、それ以外にも“イヴを作り上げた世界について考察する”という思惑があってのことだ。
イヴのような知性体が存在する世界はこれまでに見つかっていない。だからこそ『1, 何故イヴは滅びを回避できたのか』『2, 滅びを回避したのは偶然なのかどうか』『3, 偶然じゃないならどうしてイヴ以外は回避できなかったのか』などのような疑問が浮かぶ。
それら重要な疑問について聞くよりも先に
イヴの使用している技術と現在確認されている『
先ほどまでであればまだ議論の余地があったものの、梓睿との戦いが始まり、イヴの技術の方が発展形であることはほぼ確実となった。問題はいくら発展形でも技術差が大きすぎることだが、それについて考えるよりも早く局面は変化していく。
「あっ、梓睿さんが何か……うえぇ!?」
「すごいなぁ。私ですら(あれだけ)かかったのに。一撃で砕いたね」
「《
イヴの片腕が、鮮やかな赤に嚙み砕かれる。
美来の銃撃と梓睿の血撃により両腕を失ったイヴ。純人間であれば死に至るほどのダメージだが機械である彼女はまだ動く。とはいえサイボーグも多い
そして、美来とローレンスも同じ思考に至る。
最大限警戒して注視する二人と一人だったが……最初に異変に気付いたのは、意外にも探検家ではないキャサリンであった。
「あ~。これそういうことかぁ」
「ん? 何か気付いたのか?」
「ん~っとね、多分梓睿さん、ちょっとやらかしたかも。
多分だけど、イヴちゃんは人を守るために作られてるでしょ~? だから相手が人だと本気が出せなくて~、人じゃない梓睿さんには本気を出してる。けどこれさ~、梓睿さんは本気でイヴちゃんを殺そうとしてて、なんなら梓睿さんの方が出力は上じゃん。今ってさぁ、人じゃない上に超強力な存在が明確な殺意を持って襲ってきてる状況だよね。はっきり言って人類に対する脅威みたいなぁ?」
「うん。だね」
「私が開発者だったら、全エネルギー使ってでも止めるようにプログラミングするし、そのエネルギーは周囲のやつ全部吸収して使うように設定するんだけどぉ……多分イヴちゃん作った人、同じこと考えてたっぽいかもぉ」
「……あっ」
言われて気づく。イヴの周囲のエネルギー残量がほぼ0に近い値まで減っている。
エネルギーが失われたことによる影響か、よく目を凝らすと彼女の周囲だけ色褪せており、反対にイヴ自身は異常なまでに鮮やかに輝いていた。
───彼女はそのまま、失われたはずの腕を構える。
♦♦♦♦♦
「───《code 9-E-99》」
青白い光が、彼女の腕を形作る。
彼女が今発動した《code 9-E-99》は、肉体以外の部位(分類:9)を使用した、強化用装備(種類:Enhance)の最後に製造された(番号:99)装備である。膨大なエネルギーを加速・暴走させ、自身の肉体を強化する
非常に強力な装備だが、時間経過と共に肉体は自壊を始めてしまう諸刃の剣だ。それ故この装備は、最後の一撃のための準備として使用された。
「(馬鹿な……半径およそ2.5kmの地脈由来エネルギーを全て吸収しただと!? しかも、まずいな。ただ吸収するだけでなく自身の中で増幅もさせている。具体的な総量は不明だが、彼女の中のエネルギーは今凄まじい量になっている……!)」
珍しく、梓睿の顔に焦りが現れる。同時に、喜笑。
予想外の事態だが、彼女の持つエネルギー量から起きうる被害は即座に算出できた。吸血鬼が持つ情報利用能力と
「(被害予測──────『計測不能』ッ!)」
手のひらを構え何か準備を始めるイヴだが、梓睿はそれを黙って見守る。
被害予測が計測できなかったことなど、彼のこれまでの257年の人生で一度もなかった。それ故に、彼は自身の興奮を抑えられない。
───そして、準備は完了した。
「《code 6-A-99》」
彼女が起動コードを呟く。瞬間、世界から色は消え空気は停止した。
一筋の蒼い光がイヴの手のひらから現れ、同時に周囲の地形は原型を保たないほど木端微塵に破壊される。
光にも等しい速度で放たれるその一撃は吸血鬼の反射神経をもってしても避けられず、山をぶつけられようとも耐えるであろうその体は跡形もなく消し飛んだ。
♦♦♦♦♦
「うわぁ!?」
イヴの手のひらが光ったと同時にモニターが砂嵐を起こす。
改良は現在もされているとはいえ古い施設であるため、圧倒的すぎる衝撃に通信が破壊されたらしい。
「……なぁ、おい。地形マップがとんでもない壊れ方してるんだが……」
「これ、大陸分断の勢いだね」
「どういう技術なんだろ~……こんど是非研究させてほしいなぁ~!」
引き攣って笑う二人と、涎を啜りながら笑う一人。残る一人は、開いた口がふさがらない様子でやはり笑っていた。
彼女の一撃はどうやら、北アメリカ大陸の上から下まで一直線の断崖を作れるほどの威力があったらしく(実際は角度上不可能だが)、その出鱈目な強さにモニターも中々復旧する様子がない。
少しだけ待っていると、生き返ったらしい梓睿が物陰から顔を出してくる。彼もまた、興奮した様子で笑っていた。
「反応できなかったな。痛みすら感じる暇もなかった。最高の気分だ」
「アンタですらそれって信じられんな……」
「あぁ。だが逆に色々と聞きたいことができた。すぐに彼女を呼び戻してくれ。彼女と相談次第、一度話し合いの時間を設けるとしよう」
梓睿が普段以上に早口でまくし立てる。相当に興奮したらしく、イヴに連絡を送るよう指示すると自身の記録したデータや質問したい内容をすごい勢いでメモしていく。
美来が連絡を送ると、少ししてイヴも帰ってきた。
彼女の姿は戦いの激しさを物語るようにボロボロになっており、両腕がない上に髪は乱れ肌も汚れだらけだったが、彼女はこれまでにないほど美しく輝いた顔で何かを噛みしめていた。
とはいえそのままでは色々と不都合なため一度梓睿による死に戻りを挟み、初めて経験する死に驚いた顔のイヴを交えて話し合いという名の感想戦は始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます