中島さんと芹澤さん

 ぼくは中島さんを見る。

「芹澤さんってなんか、とっつきにくくない?」

「えー、ひどい木皿儀くん。そんなことないよ。はーちゃん優しいよ」

「少なくとも、はーちゃんなんてかわいらしい印象はない」

「そんなに怖いかな」

 思い当たるところがないようで、中島さんは首を傾げる。

「ここだけの話、ぼくのことが嫌いだ、とかいってない?」

「木皿儀くんのこと、話題にしたことないけど」

「なんか避けられてる気がするんだけど」

「気にしすぎじゃない? 機会がないだけでしょ」

 これもまったく思い当たらないようだった。納得いかないけれど、これ以上ひっぱると自意識過剰じみてくる気もする。

「中島さんは芹澤さんといつから知りあいなの?」

「もう保育園のころからだよ。家も近所で、なんかずっと一緒」

「美術部には中島さんが?」

「違うよ。はーちゃんが一緒にっていってくれたの。わたし運動できないから美術部がいいでしょって。はーちゃん運動できるのにね」

 中島さんは朴訥ながら、とても生き生きと語る。その表情には素直に好感をもつ。いかにも敵に思えていた芹澤さんの平板なイメージも、すこしだけ崩れていく。ちゃんと身近にいる人なのだ。

「木皿儀くんはなんで美術部に? 誰かに誘われたから?」

「いや、ぼくはちょっと運動部にいたんだけどつづかなくて」

「そういえば入部遅かったよね。どこいたんだっけ」

「バスケ部」

「ああ――まあ、美術部も悪くないでしょう? 男子少ないかもだけど」

「うん。べつになんとも思ってないよ。デッサンとか、最近はやってるんだけど、けっこう楽しい」

 ぼくも中島さんも曖昧に笑う。

 話を戻したい。知りたいのは芹澤さんの動向だ。ぼくの話なんてどうでもいい。

「木皿儀くんって、上野くんと仲よかったよね」

 中島さんが尋ねた。

「え? あ、うん」

「剣崎くんと三人で廊下歩いてるのを見たことあるよ」

「仲よかった、のかな」

「曖昧だね」

「ちょっとびっくりして」

 まさか中島さんから上野の話を出してくるとは。というか、最近いろいろな人からよく訊かれる質問だ。ぼくと上野は、そんなに仲よさそうに見えていたのか。

 中島さんの表情に変化はない。どういう意図か読めない。

 ぼくはお決まりの答えを返す。

「上野は誰とも仲がよかったんだよ」

「そうなの? 木皿儀くん、とても楽しそうに見えたけど」

「彼とはバスケ部で一緒だったんだ。だから、四月のころはつるんだりしてた。けど、あんまりいい感じに退部できなかった」

「仲悪くなったの?」

「そんなところ。もともと仲よくなかったのかも」

 最初からぼくと彼らは違っていたのだ。

「そうなんだ――」

 中島さんは素っ気なくつぶやく。

「上野くんが嘉勢さんとつきあってたのは知ってる?」

「知ってる、けど」

「上野くんと嘉勢さん、うまくいってたのかな」

 なにを訊いてくるんだ、この人は。

「さあ、どうかな。たしか、上野はあんまり自分のこと話さなかったって、嘉勢はいってたけど」

「じゃあ、うまくいってなかったんだ」

「知らないよ。そんなこと、どのみち――」

 どのみち、なんだろう。上野はもうこの世にいない。上野が嘉勢を好きじゃなかったかなんてわからないし、好きじゃなかったとして、どうなるんだ。

 中島さんは視線を宙に向けていう。

「わたしね、上野くんがなんで死んだのか、知りたいの。木皿儀くんなら、わかるかなって思ったんだけど」

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