第3話・呼ばれた先は


「おお! 成功したぞ!」


「ついに勇者召喚が……!

 って、え?」


目が覚めると、そこはダンジョン―――

ではなく。


どこか天井の高い建物、そこの大きな広間にいた。

俺以外にも複数いるみたいだが……


すぐ近くに、俺と同じく召喚されたであろう、

アジア系の黒髪黒目の若い男女が―――

そしてそれを取り囲むように、神官だか何だかの

宗教系っぽい連中がいる。


「なぜだ? なぜ子供がいる?」


「わ、わかりません。

 条件が合って巻き込まれてしまったのかも」


そこで、身分が高そうな女性が―――

金髪のウェービーヘアーを揺らしながら、

神官らしき連中に問い質している。


しかし、言うほど子供か?

周りは全員、一番年齢が低くても十代半ばから

後半、上は二十代そこそこに見えるけど……

と思っていると、兵士であろう一人が俺に近付き、


「え?」


俺の腕をいきなりグイッ、と引っ張った。

何するんだよ、と抗議しようとした時、

自分の腕の違和感に気付く。


「え? えっ?

 ど、どうして」


見ると、俺の腕はめちゃくちゃ小さくなっていた。

そして軽々と兵士に連れて行かれる。


「ちょっと!?

 あの子をどうするつもりですか?」


「お、落ち着いてください。

 これから説明いたしますので―――」


召喚されたであろう一人が何やら抗議して

くれるが、それに構わず俺は兵士に引っ張られて

いった。




「お前……

 どうしてここへ来たか、わかるか?」


十分ほどして―――

俺は別室で、あの身分の高そうな女性に

尋問じんもんされるように相対していた。


その女性の象徴である胸は形よく盛り上がり、

しかも大きく、思わず目が釘付けになる。


「え、ええと……」


恐らく自分は子供の姿なので、さほど手荒くは

扱われなかったが……

質問からするに、どうも自分がここに来たのは

イレギュラー、想定外の事らしい。


しかし、自分はメルダ―――

魔物の長・魔王に呼ばれたのだ。

バカ正直に答える事は出来ない。

なるべく子供らしく……

首を振ったりうなずいたりして、質問に応じた。


「公園で友達と遊んでいたら……

 遠くで何かが光り始めて、まぶしくて

 目を閉じたらここにいて―――」


多分、王族かどこかの令嬢と思われる女性は、

その答えに納得したのか、いったん視線を外へと

向けて、


「……チッ」


あれ?

今この人、舌打ちしなかったか?


「そこで待っていろ」


そう言うと―――

きびすを返して、離れた場所で複数の神官と

話し始めた。




「どうしますか?」


「幼くても勇者だ。

 不測の事態を引き起こしかねない。


 早急さっきゅうに処分しろ」


「で、ですがカミュ王女様……

 他の勇者様たちにはどのように説明を」


「召喚に巻き込まれただけなので、

 元の世界に送還したと言えばいい。


 そう言えば、元の世界に帰る事が出来ると

 思い込んで―――

 勇者どもも協力的になるだろう」




と、こちらには聞こえないように話している

つもりだろうが……

俺の耳はバッチリ内容をとらえていた。


再構築とやらをされた際、魔物向けになったのか、

耳はどんな小声も漏らさず拾う。

しかしぶっそうな事を話してんな。


そして五分もすると、カミュ王女とやらだけが

俺の方へ来て、




「待たせたな、ヒロト」


「い、いえ。

 それであの、ボク、お家に帰れるの?」


なるべく子供っぽさをアピールして、

相手に警戒させないようにする。


生かして帰す気はないのはすでに知っているが、

逃げるチャンスがあるまで待たないと。


「ああ、すまぬな。

 どうやら君は巻き込まれてしまったらしい。


 すぐに元の世界に帰してやるゆえ、安心しろ。

 馬車を手配してやるから……

 まずそれに乗るといい」


あー、うん。アレだな。

どこか遠いところへ運んでから『処分』するって

ワケね。


「あ、ありがとうございますっ!」


頭を下げる俺を見る事もせず、王女はそのまま

立ち去った。


『顔はそこそこだからペットにして、生かして

 やっても良かったのだがな』

という捨て台詞を、しっかり俺の耳に残して―――


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