第5話
「わーい!ミルキーたん!ブラックたん!」
バシャバシャと焚かれるフラッシュに、ミルキーとブラックは苦虫をつぶしたような顔をする。
「ど、どうするの、これ」
「倒すしかないだろ?」
「そ、そういってもさ」
ミルキーは恐る恐るフラッシュを焚く怪人を見やる。
怪人ユリブター。二足歩行の豚のようなその怪人は、蹄の付いた前足で器用にカメラを持ち、ひたすら喜声を上げ、ミルキーとブラックを撮影している。
ふざけているように見えるが、二人がどんなに攻撃しようとも、すべて回避しているジリ貧状態だった。
その脂肪だらけのたるんだ体の一体どこからその俊敏性が出てくるのか。すでに怪人発生から三十分が経過していた。長時間の変身は推奨されない。二人はそろそろ決着をつけたいと焦っている。
観客をはじめとする人々の避難は終えている。もはや周辺の建築被害はやむをえないか、と二人の最大の技をはなとうとした瞬間。
「とう!」
赤いバイクがユリブターへと突撃し爆発炎上した。
「ぴぎいぃぃぃぃっ⁉なんだ?新しい魔法少女かぁ?」
バイクの爆発を受けた怪人は、しかし倒れることなく緩慢な動きで振り返るだけだ。
「この儂が魔法少女に見えるとはとんだ大物だな貴様!」
「あぁん?」
と目を見開いたユリブターは、表情を一変させる。
「スケ番長だ!スケ番長だ!」
どすんどすんと重たそうな体をユリブターは歓喜に揺らした。
「なんだ、あの怪人は」
「私たちにもわかりません」
ブラックは理解不能と首を横に振る。
「でもスケ番長はテンション上がるよなー」
と共感する要。
「スケ番長!要のこと連れてきちゃったんですか?!」
「おう。問題なかろう?」
「大ありですよ」
「も、問題あるのは柚希だけだけど」
揉める三人。
一方、要の姿にユリブターの動きが止まった。
「おめえ……間男……!」
「間男ってなんぞ?」
「とぼけるな!」
ビシィッ、とユリブターは蹄で要を指す。
「ミルキーたんとブラックたんの友情を引き裂いただけでなく!スケ番長まで手にかけるこの変態野郎め!スケ番長の親友はルナアタック一人だけだって決まってんだよ!」
ルナアタックとはかつてスケ番長と共に活躍していたヒーローである。
「それを邪魔するとは!お天道様が許してもおいらが許さねえ!」
要へ殺意が向けられる。
「おいらは豚怪人ユリブター!お前らみてえな間男をこの世から一人残らずぶっ殺す百合の守護者だ!」
豚怪人は感情に任せその太い腕を振り回す。
「よしっ何言ってるかわからん!」
要は残念ながらオタク文化の知識はない。
ヒーローは好きだがライトな層である。所謂オタク文化の人々と交流することもなければ出会ったこともない。主に兄、アゲハによる情報統制の成果である。
「儂にも分からん。が、奴が強い“欲”を持っていることは確かだ」
ユリブターが暴れるたびに飛び散るコンクリの破片を避けながらスケ番長は分析する。
「欲?」
「おう。人間がもつ欲。あるいは感情。特に強い欲を持つと簡単に『イド』に利用されちまう」
ユリブターが要を狙い突進するが、スケ番長が要を片手に避けた。
「人間の心に寄生し、欲を養分に宿主を怪人化させることで、破壊の権化へと変化させる。肉体を持たぬ怪物。それがイド!」
突進の勢いで頭が埋まったユリブター。スケ番長は飛来したコンクリ片を釘バッドで撃ち返した。
「そしてイドと共生し怪人に立ち向かう者。それこそが、儂らヒーローだ!」
起き抜けにコンクリ片がクリーンヒットしたユリブター。ずしゃりと重たい体を倒れる。
「かっけー!」
戦いの場で動きが悪い要を守りつつ、華麗に怪人を倒してしまうスケ番長に要は目を輝かせる。
が、ユリブターも負けられてはいなかった。
「ぷっぷぎぃっ!この間男め!スケ番長までも手籠めにして!」
ユリブターは強く要をにらみつける。
「は!間男って俺のことか!」
「「「「いまさらか!」」」」
真実を明かした名探偵のような顔をする要。しかしそれは要以外の誰もが把握していたことだ。
だが、今更ながらも要は、間男が悪い言葉であることを察することはできる。
「おい怪人!俺を間男だとかなんだとか!シツレーじゃねえか!」
「ぷぎぃっ!おいらの大好きなミルキーたんとブラックたんの間に挟まろうとするお前が、間男以外のなんだっていうのだ!」
「挟まるってなんだ!お前の言ってることわけわからんぞ!」
「分かれ!ミルキーたんとブラックたんの間に挟まることの罪を!」
「マジでわからん!が!なんかお前にとって譲れないことなのはわかった!」
「要!なにして」
要はずんずんとユリブターに近づく。
「ぴぎぃっ」
ユリブターは突然の接近に後ずさりする。
要はユリブターの目の前で立ち止まった。
「教えてくれ!お前にとって譲れないもの!俺がなにをしちまったのかを!」
要は真面目な顔を向ける。その表情に、誰が見ても嘲笑やその類は存在しない。
それはユリブターにもしっかりと伝わった。
「お前が好きなもの、俺が何かしちまったから怒ってんだろ?俺も好きなものをけなされるのは嫌だって知ってるからな。だからお前を知りたい!」
ユリブターに、手のひらは大きく差し出された。
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