​幕間 ──ある少女のためのフェアリーテイル​──

 まるで、妖精のような人だった。

 私の幼馴染————白雪美姫のことを一言で表すのなら、私はきっとそう言うだろう。少しでも目を離せば、いつの間にか見えなくなってしまいそうで。数え切れないほど私に見せてきた屈託のない笑顔が、何の予兆もないまま記憶の中に押し留めるしかないものになってしまいそうで————だから、私は彼女のことをそう形容した。綺麗で可愛らしい子……そういう意味合いも、ないわけではないけれど。




 物心ついた時から、いつも美姫と一緒だった。小学校に上がるまでのことはもうあまり覚えていないが、彼女がずっと隣にいたことだけは覚えている。

 小学校中学年ぐらいの頃、私はいじめを受けた。とは言っても、ニュースに出るような悪質なものではない。複数の相手に何度か悪口を言われたり、嫌がらせをされたりしただけだ。今ほどではないと信じたいが、私は昔からひねくれていたし、目つきも人より鋭かった。子どもにとっては、それが怖かったのだろう。自身と異なる存在を脅威と見なして排斥しようとする、幼稚ゆえの防衛本能。それが少しだけ形を持ってしまったに過ぎない。今となっては何ともないことだ。実際、私自身さえ具体的な被害をほとんど覚えていない。ただ一言を除いては。

「魔女め!」

 馬鹿とか気持ち悪いとか、そんな取るに足りない悪口に紛れて誰かが放った、その一言。もちろん、私は魔女なんかじゃない。そう思わせるような超常的な現象を見せた覚えもない。だから、言った本人はきっと何の気なしにそう言ったんだと思う。その頃流行っていた漫画の悪役に私を重ねた……そんなところだろう。だから、向こうが全く覚えていなかったとしても不思議ではない。でも、その一言だけが他の悪口とは違う妙な具体性を持っていて、いやに耳に残っている。

 美姫はそんな私の状況を知らないまま、相変わらず私とよく遊んでいた。仮に知っていたとしても、気にせず一緒にいてくれたと思う。彼女はそういう子だ。世間の人々が抱くような負の感情なんかには欠片ほども興味がない。ただ、自分がこう生きたいと思うままの形で生きている。そして、その理想には何故かいつも当然のように私が含まれていたのだ。私がどんな目に遭っていても、彼女が私から距離を置くことはなかった。子どもながらにそれが不思議だったから、一度だけ聞いてみたことがある。

「ねえ……美姫は、なんでいつも私とばかり遊ぶの?」

「え?」

「私なんかより、良い子はいっぱいいるのに」

 彼女は虚をつかれたような表情をして、その場に固まった。そんなこと、これまで考えもしなかったのだろう。数秒経って再び動き出した彼女は、仰々しく咳払いまでしながら私の予想通りの答えを返してくれた。

「……私が、そうしたいからかな!」

 これも、きっと言った本人は覚えていないのだろう。でも、何の具体性もないけれど、私はその言葉を今までずっと覚えている。これは、私を救ってくれたと同時に、致命的なまでに狂わせた言葉だから。

 その答えを聞いた瞬間、胸の奥が優しくぎゅっと締まるような感覚を覚えた。得体の知れない温かさが全身をじわりと包んだかと思うと、瞬く間に身を焦がすような熱さに変わっていった。蕩かされたようにぼうっとした意識をどうにか保って、本当はすぐに返そうと思っていた言葉をようやく美姫に返した。

「……その、そうしたい理由を聞いてるんだけど」

「えー、そうだったの?」

「まあ……何でもいいよ、ありがとう」

 何でもいいわけがない。まだ美姫の答えの真意は分かっていないのだから。でも、その時の私は突然自分を襲った不思議な感覚のことが気になって、それどころではなかった。いつもなら美姫と過ごす時間は少しでも長い方が良いはずなのに、この時は無性に一人になりたくなって、手短に別れを告げて美姫のもとを去った。

 何年も美姫とずっと一緒にいて、初めて抱いた感情。その正体に気が付くのにそれほど時間はかからなかった。何の変哲もない、誰しもが持ちうる感情だ。しかし、私はそれを美姫に打ち明ける気にはなれなかった。私のそれは、人と比べて歪んでいる気がしてならなかったから。




 中学校に上がる頃には、私へのいじめはもう跡形もなく消え去っていた。徒党を組んで排斥しなくてはならないほど私が大層な存在ではないとわかったのか、あるいは彼らが成長とともにそもそもの原因である防衛本能のままに行動することをやめたのか、詳しい理由は私にもわからない。平穏は得てして突然崩れ去るものだが、どうやらその逆も起こりうるらしい。嵐が過ぎ去ったように、私の生活に突如平穏が訪れた。

 しかし、それとほとんど同時に、これまでとは違う脅威が姿を見せた。同級生たちの関心が、私から美姫に移ったのだ。もちろん彼女は私のように嫌われていたわけじゃないから、その関心の向け方も随分違っていたのだが。

「ねえ、羊子」

「何?」

 その日の朝、彼女は一枚の便箋を手にしながら、私に話しかけてきた。

「下駄箱の中にこの手紙が入ってたの……これ、何だと思う?」

「……そんなの、見なくても分かるでしょ」

 あまりにも古典的な手法だったが、美姫にとっては未知の体験だったらしい。だったらどんなことが書いてあるか当ててみてよと彼女が言うので、お望み通り手紙の内容を教えてあげた。半信半疑で手紙を開いた美姫が、目を見開く。

「よ……羊子って、超能力者だったの!?」

「そんなわけないでしょ、変な噂になるからやめなさいよ……それで、どうするの?」

 勢いに任せて、つい聞いてしまった。手紙をもらったからには、何かしらの形で返事をしなければならない。美姫は、周りにいる人は皆友達だと思っているような子だ。何となく友達だと思っていた相手が、自分のことを強く意識していると知ったら、彼女はどう感じて、その気持ちにどう応じるのだろうか。それは、決して他人事とは思えなかったから。じりじりと、何かが焦げるように胸の中が熱くなってゆくのを感じながら、美姫の答えを待つ。

「うーん……羊子ならどうする?」

「え?」

 聞き返されることを想定していなかったから、つい狼狽えてしまった。本当なら美姫の答えが聞きたかった。しかし、さっき私が手紙の内容を当ててしまったせいで、美姫はこの件について自分で判断するより私の考えに従う方が安全だと思ってしまっているようだ。だから、私の答えはもう決まっていた。

「……私なら、そもそも待ち合わせ場所に行かないかな。手紙の内容が事実とは限らないし、行った先で何があるか分からないから」

 そう言った直後、何だかすごく苦しくなった。何か大事なものを傷つけてしまったような痛みが、嘘をついた罪悪感に混じって心臓のあたりから全身にじわりと鈍く広がってゆく。それでも、答えを変えるわけにはいかない。

 いつかこんな日が来る気はしていた。白雪美姫は、妖精のような人だから。何だったらむしろ遅すぎるくらいだ。だからこそ、譲れない。美姫とずっと一緒にいて、いつの間にかもう譲れないところまで来てしまったのだ。

「……そっか。じゃあ、私もそうしようかな」

 予鈴が鳴った直後、美姫は笑いながらそう言って、席についた。

 他者は自分を映す鏡だという言葉を聞いたことがある。彼女の笑顔がどこか哀しげに見えたのは、きっとそういうわけなのだろう。

 それから、美姫に言い寄る人はいなくなった。最初に近づこうとした奴が悲惨な結末を迎えたということもあるが、どうやらいつも私が傍にいたことも大きく関係していたらしい。

 相変わらず私は目つきが鋭くて、怖いと言われることも多かった。背も幾分か伸びたから、以前よりも尚更威圧感があるように映っただろう。昔から面識のある人たちは私がそれほど脅威ではないことを知っているが、だからと言って私に積極的に関わる理由もない。そうして、私の印象だけで生まれた何の根拠もない噂は、誰にも訂正されないままずっと一人歩きしていた。

「なあ、白雪さんって……もう誰かと付き合ってるのかな」

「あの子はやめとけよ、どんな目に遭わされるかわかったもんじゃない。気持ちは分かるけどな」

「まあ……そうだよなあ」

 教室の隅や廊下で、そんな会話を散々聞いた。根も葉もない噂を聞いただけで諦めるのなら、その程度の気持ちなのだろう。まあ、実際引き下がらなかったとしたらどんな目に遭わせるかは分からないけれど。もしも本当にそんな人がいたら、どんな目に遭わせてやろうかな。

 そんな調子で、くだらない子どもじみた空想にずっと溺れていた。私の方も、そんなものに縋るしかないほど余裕がなかったのだ。他の人を美姫から遠ざけてばかりで、自分も前に進めない。何もできないまま、時間だけが流れてゆく。このまま何もできなければ、いつか美姫と離れ離れになる時が来てしまう。今はそれを少しでも先延ばしにしたくて、地元で一番の進学校を目指す彼女と同じ高校に行くために死に物狂いで勉強した。そして、平穏だが何の変化もない中学生活は幕を閉じた。




「う、受かってる……!」

「羊子!」

 高校入試の合格発表の日、自分の番号が書かれた掲示板の次に、美姫の姿が目に飛び込んできた。中学までとは違って、その場にいる人のほとんどは面識がない。だから、そこにピントが合わせられたように、駆け寄ってくる彼女の顔が普段よりはっきり見える。

「おめでとう、高校でも一緒ね!」

「……うん」

 美姫の口からそう聞いて、ようやく自分の望みが叶った実感が湧いてきた。三年間、また一緒にいられる。安堵で全身の力が緩み、ふらつきそうになったところを、後ろにいた誰かが支えてくれた。

「おっと……平気かい?」

「わっ、すみません」

 慌てて飛び退くと、ぶかぶかのコートを着た背の小さな少女がそこに立っていた。確かに寒さが残る時期ではあるのだが、それにしてもサイズが全く合っていない。奇抜な格好を呆然と見ていると、彼女は懐から紙切れを二枚取り出して私たちに一枚ずつ握らせた。

「君たちも受かったようだね、おめでとう。これからよろしく」

「は、はあ……」

 それだけ言って、少女は去ってしまった。口ぶりからして、彼女も合格者なのだろうか。美姫の方を振り返ると、彼女は膝をついて激しく咳き込んでいた。目の前で突然起こった事態に色を失い、急いで彼女のもとに駆け寄る。

「美姫!?」

「ごめんね、ちょっと疲れちゃって。そろそろ帰りましょう?」

 息を切らしながらそう言う美姫に肩を貸して、一緒に帰った。彼女を家まで送り届けてから、手に何も持っていないことに気が付いた。いつの間にか、さっきの少女から貰った紙切れを道端に落としてしまっていたようだ。何が書いてあったのか気にはなったが、わざわざ拾いに戻る気にはなれなかった。




 高校生活が始まってすぐ、美姫に新しい友達ができた。同じクラスの七人組だ。七人とも同じ中学校の出身らしく、入学式の時点で既に仲良く喋っていたのを覚えている。高校に上がってさらにその友達の輪を広げるために、席の近かった美姫に​───​─正確に言えば私たちに、近づいてきた。

「ねえ、白雪さん。それと、金山さんも!」

「えっと……小野さん、よね?」

 元気の良さに戸惑いながら、美姫は声をかけてきた子に返事をした。一方、私はもちろん警戒一色だ。その明るい顔をじっと睨み、低い声で返事をする。

「……何?」

「二人とも、今日の放課後って暇?」

「用件次第ね」

「えっと……空いてるなら帰りにカラオケでも一緒に行こうと思ってたんだけど、どうかな?」

 想定内の返答だ。美姫が歌うところはあまり見たことがないから、一度見てみたい気持ちがないと言えば嘘になる。けれど、それは別の機会でも全く構わない。それに、元々騒がしい場所は嫌いだ。いずれにせよ、この七人のために時間を割くつもりはなかった。

「私はいい。美姫、行こう」

 半ば強引に美姫の手を引いて、教室の外に向かって歩く。美姫は体勢を崩し、こちらに寄りかかるようにして七人のもとから数歩離れた。

「わっ……羊子、いきなりどうしたの?」

「……別に、何でもない」

「何だ、意外と金山さんの方が乗り気?」

 七人のうちの一人が呑気な勘違いをしていたようなので、歩みを止めて振り返った。

「結構ってことよ。私はこの後用事があるから。美姫もそうでしょう?」

 美姫に話を振りながら、再び歩き始めた。彼女はこういう誘いをほとんど断らないが、私が率先して断るといつもそれについてきてくれた。高校でも同じように、他の人達よりも私との時間を優先してくれる————そう思っていた。

「でも……楽しそうじゃない?」

「————え?」

「ほら、中学までは帰りに寄り道なんてしてこなかったから。せっかくだし、私は行ってみようと思うけど……どう?」

 予想外の反応に、思わず美姫の手から指が離れる。それと同時に、彼女は七人の方に戻るために歩き出した。どうして。今までは、私を一番に優先してくれたのに。初対面の相手に強く当たったのが気に入らなかったのか。その一瞬、夥しい数の言葉が脳裏をよぎった。だが、そうして頭の中を駆け巡った無数の思考が皆同じ形をしているのに気付いて、すぐに我に返った。原因が何であっても、美姫が私やあの七人のことをどう思っていたとしても、そんなことはどうでもいい。美姫が、私の傍から離れた。私の全てだった彼女が、私のもとからいなくなった。重要なのは、ただその事実だけだった。

「……そう。じゃあ、また明日」

「羊子は来ないの?」

「用事があるって言ったでしょう」

 ため息をついて踵を返し、足早に教室を後にした。もちろん、用事なんて真っ赤な嘘だ。拙い嘘をつき通してでも、その場を後にしたかった。全てを失くして、何も残っていない抜け殻の身体をぼんやりと動かしながら家に帰った。

 美姫はそこで七人と相当仲良くなったらしく、その日の夜に楽しそうに笑っている写真が送られてきた。それが、彼女の善意による行動なのだと分かってはいる。その写真以外にメッセージが届いたわけではないけれど、楽しかったから今度は一緒に行こうという遠回しの誘いだと一目で分かった。白雪美姫は、妖精のような人だった。どこまでも無垢で明るく、人の痛みに気付かない。彼女の底抜けの優しさを、その時初めて苦しく感じた。




 それから、美姫は七人組と遊びに行ってしまうことが増えた。妖精が見えなくなる日が、少しずつ増えていった。それに対して思うところはもちろんあったが、それを美姫にぶつける気にはなれなかった。今でも、彼女は私の全てだ。けれど、彼女は私ではない。私の手を離して七人の方に歩いて行ったあの瞬間に、どうしようもないその事実に直面してしまった。だから、これ以上彼女を縛ることはしない。そう思っていたのに、結局私はその決心を貫くことができなかった。

「……美姫」

「羊子……何だか、久しぶりね」

 美姫が学校をしばらく休むことになって、家が近い私が荷物を届けに行った時、数日ぶりに美姫の姿を見た。顔色は入学当初と比べて常に陰がさしているように薄暗く、昔から細身だった身体はさらに細くなっている。体調不良で休んだと聞いていたが、その変わりようは明らかに異常だった。

「これ、プリントと置いてあった荷物」

「ありがとう、わざわざ届けてくれたのね」

「別に、頼まれただけだから」

 平静を装うために、あえて何も言わずにその場を去ろうとした。しかし、後ろに一歩さがった私を美姫が呼び止める。

「ねえ……良かったら、少しだけ上がっていって」

 美姫の誘いに、無言で首を縦に振る。階段を上がる時から、重い沈黙が周囲を覆っていた。二人分のまばらな足音と、時折咳き込む美姫の声だけが辺りに響いている。美姫の部屋に着いても、その空気は変わらなかった。

「……それで、呼び止めたってことは何か話があるんでしょう?」

「……うん」

 美姫の表情は暗い。今からするのが良い話でないことは明らかだ。不安だが、大事な話を私だけにしてくれるこの状況がどこか嬉しくもある。自分の鼓動の音が、普段よりずっとはっきり聞こえていた。

 美姫は沈黙したまま、口を開こうとしない。よほど言いづらいことなのだろう。彼女から話し始めるのを待つよりは、こちらから聞いてしまった方が良さそうだ。

「それって、今の体調についての話?」

 美姫は何も言わず、そっと頷いた。ついこの間までは何の悩みもなさそうな様子で振る舞っていたが、その裏では相当深刻なものを抱えていたらしい。ずっと一緒にいたはずなのに、少しも気付けなかった自分が嫌になる。これも、あの七人組が美姫に近づいたせいだ。隣で過ごす時間が減ったことで、彼女の異変に気付くことができなかった。

 思考がそこまで及んだところで、ふと気が付いた。これまで何の兆候も見せなかった美姫が、高校に上がってから急に苦しみ始めた。それまでの間で美姫の周りで起こった変化といえば、一つしか思い当たることはない。

「……その変わりよう、ただごとじゃないように見えるけど」

「……そうね。ただごとじゃない」

 ぽつりと零すような弱々しい返答を聞いて、確信した。美姫の身体の異常には、あの七人が関わっている。元々、美姫は身体が強い方ではない。私を含む他の同級生と比べて、かなり疲れやすい子だった。高校に入って新しく美姫と出会った七人は、そんなことを知る由もない。何の脈絡もなく、他人をいきなり遊びに誘ってくるような奴らだ。あの日の後も、美姫を無理に連れ回して遊んだ可能性は十分に考えられる。

「ねえ、美姫。やっぱり……あの七人と関わるのは、やめた方がいいと思う」

「……え?」

 美姫は虚をつかれたような表情を浮かべた。何も喋っていないのに話が大きく飛んだから、驚いているのだろう。でも、美姫から直接聞かなくてもわかる。七人に悪気はなかったはずだが、美姫は大変な思いをしていたのだ。その事実を正直に伝えれば、彼女たちにも余計な気を遣わせることになる。それなら、必要以上に関わらないでおく方がお互いのためだ。

「どうしてそんな話になるの?」

「そんなに辛そうな顔してたら、言わなくても分かるよ。私も、できるだけ美姫の傍にいるようにする。断りづらかったら、今まで通り私の方から話をするから」

「ちょっと待って!」

 声を上げて立ち上がった直後、美姫は咳き込みながら、腕を押さえてうずくまった。

「ッ……!」

「ちょっと、大丈夫!?」

 駆け寄って美姫の身体を支えた時、袖の中が少しだけ見えた。肩の辺りに、傷跡のような赤黒いものがある。高校入試の合格発表の日、美姫に肩を貸して帰った時はこんなものはなかったはずだ。

「美姫、その肩……!」

 私が声をかけても、美姫は黙っている。しかし、言葉がなくても状況は明らかだ。彼女が学校を休んだ理由は、体調不良なんかじゃなかった。誰かが美姫を傷つけて、彼女は学校に行けなくなってしまったのだ。私の想像よりも、実際に美姫を取り巻いている状況はずっと深刻だった。

 美姫の秘密を目の当たりにしてから、すぐに思考が次の問題————美姫を追い込んだ犯人探しに移った。まだ新学期が始まったばかりだから、わざわざ彼女を傷つけるような真似をするほど関わりのある相手は自ずと絞られる。

「……あの七人にやられたの?」

 美姫は必死に首を振る。その否定に、もう意味はないのに。苦しみを隠す優しい嘘は、もはや互いの痛みにしかならないのに。

「羊子の考えているようなことじゃないわ……大丈夫よ」

「大丈夫なわけない!」

 うずくまったままの美姫に対して、つい声を荒らげてしまった。美姫を追い詰めた七人に対する怒りはもちろんあるが、それよりも彼女が自分の危機を隠し通そうとすることが許せなかった。

 美姫が一言でも助けを求めれば、どんな手を使ってでも、誰をどんな目に遭わせてでも、私は彼女を助けるつもりだった。それなのに、美姫は頑なに言い分を曲げない。

 彼女が何を考えているのか分からない。白雪美姫は、妖精のような人だから。そして、私はもう既に随分妖精が見えなくなってしまっていたから。

「​────もういい」

 怒りと失望を置き土産に零して、私は美姫の家を後にした。もしかしたら、彼女を真に追い詰めたのは私の方だったのかもしれない。次の日にまた家まで行って、言い過ぎたって謝れば、取り返しがついたのかもしれない。けれど、あの時の私には美姫の部屋に戻る勇気がなかった。




 それから美姫が学校に戻ってこないまま一週間ほど経った日の朝、担任の先生から彼女の訃報を聞いた。それを聞いた私はというと、驚くほど落ち着いていた。先生も私のことを気にかけてくれていたみたいで、私が取り乱していないのを見て安心していたようだった。でも、きっと本当は、美姫の死をその場で受け止めきれなかったんだと思う。

 白雪美姫は、突然にこの世から消えた。私を救ってくれたあの笑顔は、幾度となく触れてきた白く細い指は、いつも私の傍にあったほのかに甘い匂いは、私を狂わせた彼女の全ては、この日を境に記憶の中だけの存在になってしまった。それがどうにも実感できなくて、ただ茫然とすることしかできなかった。行きどころを失った感情が霧散して、自分の心に大きな穴が空いているのをはっきりと感じた。だからと言って、それを埋めてくれる何かが見つかるはずもない。それが見つかってしまえば、私が記憶の中に必死に押し留めている美姫の存在が薄れていってしまうかもしれないから。

 生前の美姫の希望らしく、美姫の両親は彼女の死因について話さなかったそうだ。彼女の死に関する情報の秘匿は、幼馴染である私に対しても平等だった。彼女とずっと一緒にいた私も、クラスメイトが知っている以上のことを知らない。私だけが知っていることといえば、せいぜい一週間ほど前に美姫と話をしたことぐらいだ。

 そんな様子だから、学校では根も葉もない噂が飛び交っていた。これまで美姫と接点を持っていなかったような人達も、ここぞとばかりに彼女のことを話題にして、くだらない推理ごっこに興じていた。周囲のそんな変化は、美姫がいないことそのものよりもはっきりと私に彼女の死を実感させた。妖精が見えなくなった、なんて曖昧な感覚じゃない。白雪美姫は、死んだのだ。誰かが彼女の話をしているのが聞こえる度に、必死に目を背けようとしていたそのどうしようもない事実を突きつけられているような気がした。

「それにしても、突然だったよね……もしかしたら、”人狼事件”に巻き込まれたのかも」

 ふと横を通りかかった一人の生徒の言葉が聞こえてきた。”人狼事件”————ここ最近、十代の少女を狙った連続誘拐殺人事件だ。誰が言い出したのか、毎晩一人ずつ被害者が出ることからそう名付けられたのだという。連日ニュースになっているから、世間の話題に一切興味のない私でさえその名前は知っている。考えたくはないことだが、確かにあの事件に巻き込まれたとしたら、美姫の死が突然だったことにも説明がついてしまう。真偽はどうあれ、”人狼事件”を追ってみる価値はありそうだ。もちろん、危険なことは分かっている。相手は学校にいるいじめっ子や、見せかけの威圧感を振りかざしている私なんかとは比べるべくもない、本物の犯罪者だ。だが、それでも美姫の死の真実を知りたい。美姫がいなくなった今、私が彼女と接するにはそれしかないと思ったから。




 私が”人狼事件”を追うと決心した数日後、その事件はあっけなく終幕を迎えた。空言来亜という変わった名前の同級生が、全て解決してしまったらしい。おかげで、学校の話題は彼女で持ちきりだ。結局美姫は事件に何の関わりもなかったらしく、彼女の話はすっかり聞かなくなった。それはもちろんありがたかったが、同時に複雑な気持ちにもなった。このまま、私以外はみんな美姫のことを忘れていってしまうのだろうか。もしかしたら、私自身さえ例外ではないのかもしれない。自分が美姫のことを忘れてしまったらと思うと、とても怖くなる。単なる他人にすぎないと分かっていても、彼女は私の全てだから。

 その日は、漠然とした不安と虚しさを抱えながら帰り道を歩いていた。このまま何もしなければ、いつか美姫を忘れてしまう日が来るかもしれない。しかし、彼女の死の真相を追うための大きな手がかりは失われて、他にこれといった目的もない。今の自分を体現するかのように、ふらふらと力なく歩いていたのを覚えている。そして、見知らぬ怪しい人間に声をかけられたことも。

「おや、何だか足取りがおぼつかないな。酒でも飲んだのかい?」

 急に話しかけられたので、固まったようにその場から動けなかった。視線だけ動かしてその姿を見上げると、真っ黒なタキシードを着た大人だった。顔はほとんど仮面で隠されていて、何とか目と口元だけ見えているぐらいだ。声も何かの機械を通しているようで、元の声色はよく分からない。そんな様子だから、性別さえはっきりしない。少なくともその場では、ただ不審な人物であるということ以外には情報を得られなかった。

「……そう見えないかもしれないけれど、未成年よ」

「これは失礼。酔っ払いか不審者のどちらかでないと説明がつかない様子だったから、より可能性の高い方に賭けただけだ。他意はないよ」

「あなたも人のこと言えた格好じゃないでしょう」

「あっはっは、案外手厳しいな」

 その人は苦笑しながら、一歩引き下がった。怪しくはあるが、私に対する害意はなさそうだ。

「名乗るのが遅れたね。僕は怪盗ライト。この神土町の闇を照らす者だ」

「怪盗って……冗談にしても面白くない」

「冗談じゃないさ、既に僕は君から盗んでいるよ」

「えっ!?」

 そう言われ、慌ててポケットや鞄の中身を確かめた。しかし、何もなくなってはいない。その発言の真意を探るべく、ライトと名乗ったその人をじっと睨み返す。ライトは私の視線に気付くと、わざとらしくにこやかにウインクをしてみせた。

「今まさに青春時代を送っている、君の貴重な時間を……ね!」

「……馬鹿馬鹿しい」

 付き合いきれないので、歩いてその場を去った。しかし、ライトは後を追ってきた。然るべき対応をするために無言で携帯電話を取り出すと、慌てた様子で声をかけてきた。

「待ちたまえ、あんな冗談が本題じゃないんだ。だから、是非ともその携帯を一度しまってくれると嬉しい」

「……それは、その本題とやら次第ね」

「君の話を聞こうと思ったんだ。何か悩んでいる様子だったから……」

 拍子抜けとはまさにこのことだ。それが本題なのだとしたら、今までのライトの話は全くの無意味だったことになる。ただ私に怪しまれただけだ。

「私が言えたことでもないけれど、人と接するのが下手すぎるでしょう……」

「そういう常識があったら怪盗なんかやっていないからね、僕がろくでなしであることは重々承知の上だ。それで……君の悩みを聞かせてくれないか?」

 怪しい。ライトに対するその印象は変わらない。だが、私の悩みを話せる人が他に誰もいないこともまた事実だ。私の話をすれば、必然的に美姫に対する私の気持ちも明かすことになってしまう。だから、身近な人には話せない。むしろ、今日初めて出会った不審者に洗いざらい話してしまうぐらいがちょうど良いのかもしれない。そう思って、ライトの方を向いて頷いた。

「ありがとう。それなら……少し場所を変えようか」

 言われるままに、ライトと一緒に近くの公園まで足を運んだ。それから、ベンチに座って全てを話した。美姫と過ごした時間のことも、美姫に対する私の気持ちも、そして、彼女がもう帰っては来ないことも。

「……そうか」

「私は、美姫の死の真相を知りたい。でも、手がかりさえ全く掴めない……」

「美姫ちゃんが亡くなる前、それらしい兆候はなかったのかい?」

「そうね……さっきも話した通り、亡くなる直前はずっと学校を休んでいたわ。名目上は体調不良だったけれど、実際のところは分からない」

 意外にも、ライトは私の話を真剣に聞いてくれた。話すだけ話して気持ちだけ整理するくらいのつもりでいたのだが、自然と一緒に手がかりを見つけ出す流れになってしまっていた。

「ふむ……”人狼事件”じゃないにしても、何かしらの事件に巻き込まれたかもしれないと思ったんだが、そこまでの兆候があるのなら可能性としては低いだろうね」

「……やっぱり、そうなんだ」

「あくまで推測だけれどね。そうだな、次は学校を休んでいたことについて考えてみよう。君の見立てでは、体調不良で休んだというのは本当だと思うかい?」

 ライトの問いかけに、すぐに答えることはできなかった。こんな状況になってしまった以上、体調不良という理由は正直疑わしい。しかし、美姫の身体が弱いのは確かだ。以前から咳き込むことは度々あったが、高校に上がってから一層酷くなったように思う。

「……分からない」

「断定は難しいか。それなら、両方の場合を考えてみよう」

「……ええ」

「まず、体調不良が本当だった場合。それなら、美姫ちゃんは病気によって死に至ったと見るのが自然だろう。だが……君はそういう話を聞いたことがない」

 ライトの言葉に、真っ直ぐ頷く。もし美姫が何かの病気を患っているとしたら、それを私に話す機会はいくらでもあった。それに、そこまで重い病気なら学校に通うことも難しいはずだ。話として説明はつくが、実際にそうだった可能性は低いだろう。

「そして次に、体調不良が本当ではなかった場合……あるいは、他にもっと大きな理由があった場合について。こちらについては心当たりがあるかい?」

「……学校にいる間、私はほとんどいつも美姫と一緒だった。でも、美姫が七人組と一緒にいる時には近づかないようにしていたから、何かあったとしたらそこだと思う」

「なるほど。その七人組が彼女の死に関わっているかもしれないな」

 どうやらライトも私と同じ結論に至ったようだ。美姫が学校を休んだのは、あの七人と関わり始めてすぐのことだった。直接的にしろ、間接的にしろ、美姫の死に関わりがあるのはほとんど間違いないだろう。

「でも……あの七人には動機がない。傍から見ても、美姫と仲が良かったのは本当だったと思う」

 認めたくはない事実だが、七人組と一緒にいる時の美姫は心底楽しそうにしていた。彼女の心からの笑顔を遠目に見たのは、それが初めてだった。私の言葉を聞いたライトは、微かに目線を落とした。仮面で隠れたその顔に、暗い影がさす。

「……これは、一人の悪人としての意見だけれどね。本当の悪人は、悪人の顔をしていないものさ」

「……それは、どういうこと?」

「君の見た光景だけが全てとは限らないということだよ。仮にその七人組が美姫ちゃんに危害を加えていたとして、それを皆の前で堂々と行うとは考えにくい」

 確かにライトの言う通りだ。あの七人が美姫の死に関わっていると確信しながら、私が直接尋ねることができない理由もそこにある。もしも本当に七人組が美姫の死の原因を作っていたとしたら、必ず言い逃れをする。そうなった時、私にはそれを防ぐ手立てがない。

「実際、人間関係を苦にした自殺という線も考えられる。特に今回の件で言えば、いくら仲良くなったとしても、元々仲の良かった七人にとって美姫ちゃんは”よそ者”であることに変わりはないからね。何がきっかけになって排斥されるか分からない」

「……向こうから近づいてきたのに?」

「そういうこともある、という話さ。既に関係性が構築されている七人の中に入れば、多少なりとも摩擦は起こりうる。そして、七人がずっと仲良くしているのなら、その少々の亀裂さえも許容できないという可能性は十分に考えられる……」

 ライトの話には、妙な説得力があった。もしもこの話の通りだとすれば、美姫は勝手に近づいてきた相手から危害を受けて命を絶ったことになる。思い返してみれば、最後に話をした時の美姫は不自然だった。ずっと表情が暗かったのも、私に何かを伝えようとして言葉に詰まっていたのも、肩に赤黒い傷のようなものがあったことも————

「許せない……!」

 怒りに任せて立ち上がる。もう日は暮れてしまっているが、すぐにでも七人のもとに行かなければならない。言い逃れをされるかもしれないが、そんなことを気にしている場合ではないのだ。

「待ちたまえ、いくら何でもこんな仮定で動いていい話じゃない。ちゃんと時間をかけて考えるべきだ」

 私の手を引きながら、ライトはそう言った。正しい言葉だ。でも、その正しさは無意味だ。私がこれからしようとしていることは、きっとどうしようもなく間違っている。それを行うのが多少遅くなったところで、何一つ変わらない。

「待てですって……?」

「ああ。そうだな……一年生が終わる頃に、まだ彼女たちのことが許せなければ、もう一度ここに来ると良い」

「そんなの、待てるわけない!」

 ふざけた話だ。こうしている間にも、美姫の記憶はどんどん色褪せてしまう。彼女は、もう帰ってこないのだ。だから、一度消えてしまった記憶が新たに蘇ることはない。ライトは、きっとそれが分かっていない。だから、こんな残酷な言葉を平気で吐けるのだろう。

「そうやって待っている間に、あの子が記憶からも消えてしまったら……!」

 それが、怖くて仕方がない。美姫が亡くなる前、私は何もしてあげられなかった。今この機会を逃せば、またそれを繰り返すことになるかもしれない。そうなるのはもう嫌だった。目の奥がじんと熱くなるのを感じる。眼前に立つ黒ずくめの怪盗が、夜の闇に溶けるように滲んで見える。全身から力が抜けて、その場に膝をついてうずくまった。

「……消えないよ。僕にはわかる」

 ライトは屈んで、何も言わない私に優しく呟いた。その言葉は、どこか自分自身に言い聞かせているようにも聞こえた。

「どうして、そう言い切れるの?」

「————君が、僕と同じものと戦おうとしているから」

 ライトは一体何と戦おうとしているのだろうか。その時は自分のことで必死だったから、それを聞くことはできなかった。

「君は、心の中に激しい憤怒の炎を抱えている。一見、それは時間とともに消えてゆくように思われるが……実際は違う。時が経てば経つほど、その勢いは強くなるんだ」

 ライトは私に一歩近づいて、手を差し伸べた。濡れた顔を袖で拭いながら、その手を取って立ち上がる。

「決行は、それからでも遅くはない。その間に、その子たちが本当に自分の戦うべき相手なのかどうかを見極めるんだ」

「……分かった」

「さて、それじゃあ僕も準備をしておく。くれぐれも、抜け駆けはやめたまえよ!」

 そう言い残して、ライトは去った。怪盗らしく道具で空を飛んだり、建物の屋根を飛び移っていったりするのかと思っていたが、そういう芸当は全く見せずに歩いてその場を後にした。結局、最後までよく分からない人だった。けれど、あの人のおかげで日々を過ごすのが怖くなくなった。私の怒りが、そして美姫の記憶が消えることはない————追い求めていた真相を知り、為すべきことを為すまでは。




 そして今、私は約束した公園でライトを待っている。これまでにあったことを回想して、美姫に関する記憶が確かに生きていることを確かめながら。

「やあ、久しぶり」

「そうね、随分待ったわ」

 姿を現したライトの背後に、ただならぬ気配を感じる。得体の知れない何かに気圧されてしまっているのを悟られたらしく、ライトは苦笑いを浮かべた。

「失礼、君は結構鋭いんだね」

 ライトが指を鳴らすと、さっきまでの気配が消えた。全身に張り詰めていた緊張が解け、少しよろけてしまった。

「な、何だったの……?」

「後で話すよ。それより……ここに来たということは、この一年で考えは変わらなかったみたいだね」

 その言葉に、静かに頷く。結局、あれから重要な情報は集まらなかった。だが、七人の様子は美姫の死の直後から明らかに変わっていた。誰も彼も美姫のことを忘れたように、彼女と出会う前みたいに楽しげに話をしている様子が目についた。ライトの言う通り、きっとあの七人にとって美姫は”よそ者”にすぎなかったのだろう。美姫との記憶が色褪せてゆくことに、彼女たちは何の焦りや悲哀も抱いていないようだった。

「……そうか」

 それを話すと、ライトはぽつりと零すようにそう言った。ライトの身の上話を聞いてはいないが、その様子を見ると何となく私と似たような痛みを抱えているような気がした。

「でも……本当は、それが正常なんじゃないかとも思う」

「ふむ、それはどうして?」

「何をしたって美姫はもう帰ってこないって、私も分かってる。もし本当にあの七人が美姫を死に追い込んだ張本人で、私がその復讐を果たしたとしてもね」

 ライトは静かに小さく頷いた。多分、私が同じ話を聞いても同じ反応をすると思う。それは認めざるを得ない事実だが、心の底では肯定したくないのだ。

「……そうだね」

「だから、きっとおかしいのは私の方なんでしょう。いつまでもあの子に執着してばかりいる、私の方が……」

「それなら、美姫ちゃんのことを追うのは諦めるかい?」

 ライトの問いかけには、迷わず首を横に振った。おかしいのは私の方だと分かっている。でも、それはこの足を止める理由にはならない。おかしいのは、今に始まったことじゃない。あの子の笑顔を一目見た時から、ずっと————私は、狂っているのだから。

「確かに、他人から見たらおかしいかもしれないけれどね……僕は、君の気持ちが間違っているとは思わないよ」

「……本当に?」

「ああ。むしろ、誰より一途な純愛だと思うね」

「なっ……!」

 大人の口から恥ずかしげもなく飛び出してきた言葉に、顔が熱くなるのを感じる。ライトはそれを見て、満足げに笑っていた。

「あっはっは! 君は大人びているけど、案外可愛らしいところもあるじゃないか」

「……もういい、行くわよ」

「おいおい、ちょっと待ちたまえ」

 ライトは私を引き止めながら、指を鳴らしてみせる。それと同時に、その背後に怪物のような何かが現れた。大きさは私やライトの二倍ほどで、豹のような形をしている。さっきまでは姿が見えなかったが、これが最初に感じた気配の正体なのは間違いない。

「これは……!?」

「今度は僕が話す番だね。これはフラウロス、炎を操る悪魔だ」

 私が我に返るのを待ってから、ライトは目の前の怪物について話をしてくれた。聖書に登場する、炎を操る悪魔。これが、私のために準備してくれたものらしい。

「でも、悪魔って……よく知らないけれど、何か契約とか代償とかがあるんじゃないの?」

「本来はね。でも、これはいわば模造品だ。だから、その辺りの心配は無用だよ。入手経路は秘密だけどね!」

「そうなんだ……」

 しかし、そもそもなぜライトはこんなものを用意したのだろうか。確かに七人の出方によっては実力行使もあり得るが、これほど強大な力を要することでもないはずだ。

「人間、いざ自分の悪事を暴かれたらどんな行動に出るか分からないものだからね」

「確かにそうかもしれないけれど……」

「それに、一気に七人集めるわけじゃないんだろう? それなら、途中で君の動向を探る者や、君を止めようとする者も現れるかもしれない。そうなった時のための力でもある。まあ、お守り程度に引き連れておくと良い」

「あ、ありがとう」

 困惑しながらも、ライトからフラウロスを引き取った。姿こそ消せるものの、自分の背後に巨大な悪魔が潜んでいると思うと落ち着かない。ライトが悪魔の特性や指示の方法を一通り説明してくれたが、使う気にはなれなかった。

「よしよし、結構さまになってるじゃないか」

「何だか、複雑ね」

「安心したまえ、褒めてるよ」

「……それはどうも」

「さて……僕にできるのはここまでだ。君の迎える結末が、良いものであることを願っているよ」

 その言葉を最後に、ライトは闇の中へ姿を消した。帰り道で友達と別れるように、にこやかに手を振りながら。

「……行かなきゃ」

 七人組と一人ずつ接触する方法は、既に考えてある。少なくとも一人目の段階では、向こうも警戒していないだろう。あれこれと策を巡らせるより、一人に手紙を送って呼び出した方が手っ取り早い。立て続けに複数人を狙うことを考えれば、少し日を置いて春休みが終わった直後から動き出すのが良さそうだ。もう、待つのは怖くない。私の中で今も燃え続けているものが決して消えないことを、ライトが教えてくれたから。

 七人と接触し、場合によっては復讐を果たす。およそ一年の時を経て、私の望みが再び動き出した。




 始業式の前日、七人を呼び出す手紙の準備に取りかかった。疑念や恨みを後ろ手に隠すように抑えながら、偽りの恋情を文字に乗せてゆく。もしかしたら、こういう方法で美姫に本当の気持ちを伝えることもできたのかもしれない。

「————ああ、そっか」

 その可能性は、ずいぶん前に私がこの手で潰したんだった。あの時、哀しげに映った美姫の笑顔が脳裏をよぎる。目の前にあるように鮮明に思い出せるのに、その光景はどうしようもなく遠いものに感じる。美姫から聞けなかった真相に今まさに辿り着こうとしているはずなのに、歩みを進めるごとに彼女の存在がどんどん遠くなってゆくような気がした。倒錯的で、気持ち悪い。死は、喪失は、後悔は、そしてそれらを埋め合わせようとすることは、こんなにも————

「……できた」

 息を切らしながら、何の意味も持たない七枚の紙切れの中身を書き上げた。そのうちの一枚を握りしめ、無地の封筒の中に入れる。たったそれだけの動作なのに、毒を盛るような緊張感と高揚感が走った。

 翌日の早朝、調べ物をするなどと適当な言い訳をして家を出た。そして、持ち出した薄紙の毒薬を一人の下駄箱に忍ばせる。教室で過ごしながらしばらく様子を伺っていると、私の手紙を手にした生徒が浮かれた様子で廊下を歩いているのが見えた。

「ねえこれ見て!」

「えっ、今時そんな手紙もらうことある!?」

「ねー、真面目な子なのかな」

「いいね、結構アリかも」

 相変わらず騒がしい。きっともうほとんど関係ないことだが、二年生でクラスが離れたのは僥倖だ。しかし、今だけはこの会話の内容が重要だから、教室から出て聞き耳を立てる。

「それで……行くの?」

「まあね。いつもバイトから帰るのも大体これぐらいの時間だし、親も何も言わないでしょ」

「明日、絶対結果教えてよ!」

 どうやら狙いは上手く行ったようだ。もう、後には引けない。待ち合わせの時刻に指定した二十二時になるまで、何一つとして手につかなかった。何もできずにいるうちに約束の時間が近づいて来たので、人通りのない空き地で相手を待った。

「えっと……ここで良いのかな」

 ほどなくして、人影が見えた。一ノ瀬小夜————七人の中で最も警戒心の薄い相手だ。ライトに言われた通りに待っていた間、美姫に関する手がかりを得ることはできなかったが、七人の情報や人柄の理解はかなり進んだ。だからこそ、より確実な相手を狙うことができたのだ。

「……こんばんは、一ノ瀬さん」

 これ以上隠れていても仕方がないので、小夜の目の前に姿を現した。当然のことながら、ひどく驚いている様子だ。

「金山さん……何でこんなところに?」

「この辺り、家から近いのよ。それで、あなたがこんな人通りのない所に行こうとしているのが見えたから先回りしただけ」

 わざわざ私が呼び出したことを明かす必要はないので、適当な言い訳で誤魔化した。小夜は素直に信じたらしく、ふーんと気の抜けた相槌を打った。

「そうなんだ、でもこれから大事な用事があるからなあ」

「今朝の手紙のこと?」

「えっ、何で知ってるの!?」

「……あれだけ大声で喋ってたら嫌でも聞こえるわよ」

 本当に、信じられないほどの鈍さだ。この様子なら、美姫に危害を加えていたとしてもまず間違いなく主犯格ではないだろう。だからと言って、許すわけではないけれど。

「じゃあ、そういうわけだから。別に見てても良いけど、遠くからにしてね」

 小夜は気恥ずかしそうにそう言って、私を追い出そうとした。なるべく怪しまれないように話を聞き出そうと思ったが、この辺りが頃合いだろう。

「それはできない相談ね」

「え?」

「あなたを呼び出したのは私だから」

「……ええーっ!?」

 案の定、小夜は声を上げて驚いていた。彼女のことだから、きっとこんな状況にあってもおめでたい勘違いをしているのだろう。それを真っ先に潰しつつ、早々に本題に入った。

「あなたに聞きたいことがあったの。手紙はそのための道具にすぎないわ」

「そんな……」

「単刀直入に聞くわ。あなた、美姫の死について知っていることはある?」

 美姫の名前が出た瞬間、小夜の表情が強張った。思った通り、美姫の話は彼女にとって都合が悪いらしい。一度話を止めて、相手の出方を伺ってみることにした。

「し、知らないよ。私たちも、新しい友達ができたと思った矢先にあんなことになって……」

「そう。あなた達と関わるようになってから、美姫の様子が明らかに変わっていたのだけれど……本当に何も知らないの?」

「そう言われてもね……私たちと一緒にいる時に咳き込むことは時々あったけど、それは前からよくあるって言ってたし……」

 あくまで、認めるつもりはないらしい。これ以上泳がせても無駄だ。鞄の中から包丁を取り出して、小夜に突きつける。彼女は目の色を変えて、恐怖に顔を歪ませた。

「ちょっと、正気……!?」

「紛れもなく私の意思よ。正気じゃないのは否定しないけれど。それで……本当はどうなの?」

「そんなことされたって、知らないものは知らない!」

「……そう」

 一ノ瀬小夜は、対話を拒否した。それは、実力行使による解決を受け入れることを意味している。彼女がそれを承知の上かどうかは知らないが、事実としてそうなっている以上仕方がない。小夜に向けていた包丁の切っ先で、そのまま彼女の身を貫かんと突進する。しかし、小夜は身体を横に逸らして躱し、包丁を握る私の右腕を蹴り上げた。腕全体に痛みが広がり、包丁から手が離れる。

「いっ……!」

 小夜の動きは、素人のそれではなかった。思考の鈍さとは裏腹に、身体は俊敏そのものだ。運動ができるのは知っていたが、武器を持った相手から身を守れるほどとは思わなかった。想定外の事態に歯噛みする。包丁が蹴飛ばされた先に目を向けると、既に小夜が包丁を拾い上げていた。さっきまで私が彼女に向けていた切っ先が、今度はこちらを向いている。

「ねえ……何でこんなことしたの?」

 小夜の問いかけには答えず、黙って彼女を睨みつける。そのままゆっくりと一歩ずつ後退するが、当然小夜も同じようにこちらに近づいてくる。

「答えてよ!」

 小夜は鬼気迫る表情で叫ぶ。下手に動けば、そのまま殺されかねないほどの気迫だ。だが、今の数歩で既に覚悟はできていた。もはや他に手立てはない。ずっと私の背後に控えていた存在————悪魔の力を、解き放った。

「ッ……フラウロス!」

 瞬間、五本の鋭い爪が小夜の胴体のあたりをめがけて横一文字に走った。小夜の口元から、溢れるように血が流れる。彼女は自分の身に起こったことを理解できないといった様子で、一部が抉れた自分の胴を見下ろした。

「————え?」

 直後、顔を上げた小夜は私の背後から現れた悪魔を視認した。目を見開き、顔を真っ青にして、彼女は眼前の悪魔と対峙する。人の道理を外れた捕食者と、その犠牲。二者の関係性は、あまりにも絶対的だった。

「いやああああッ!!」

 小夜の声帯は恐怖に圧し潰され、もはや正常に機能してはいなかったが、きっと彼女はそうやって悲鳴を上げたつもりだったのだと思う。小夜は私たちに背を向けて一目散に走り出した。

「まずい……!」

 ここで小夜に逃げられてしまったら、間違いなく七人全員が私を警戒する。接触することは叶わなくなるだろう。それに、フラウロスの力のことまで外に伝われば、街全体に大混乱を招くことは想像に難くない。

「フラウロス、逃がしたら駄目!」

 咄嗟に出した稚拙な指示には、悪魔は大雑把に応えることしかできない。フラウロスは小夜の目の前に炎を起こし、彼女の足を止めた。炎は空き地に生えていた雑草に次々と燃え移り、牢獄のように小夜を取り囲む。

「あ……ああ……!」

 周囲の草木を燃やし尽くした炎が次の生贄に選んだのは、籠の中の鳥のように怯えて身体を縮めることしかできなくなっていた小夜だった。悪魔の爪が引き裂いた服の端から炎が上がり、彼女の命を蝕んでゆく。私は、自分の傍に控えている悪魔が引き起こした災厄をただ茫然と見ていることしかできなかった。

『魔女め!』

「……ッ!」

 突如、記憶の奥底に眠っていた言葉が脳裏をよぎる。顔も名前も覚えていない、誰かが放った一言。何の根拠もない言いがかりだったはずのその言葉が、今になって急に襲いかかってきた。

『どんな目に遭わされるかわかったもんじゃない』

 そうだ。私は今、悪魔の力で人を殺す魔女になったのだ。誰も近づかない。誰も近づけない。それで良い。私の望むものが手に入るのなら、他に何もいらない。

『でも……楽しそうじゃない?』

 あの時、無理にでも美姫を連れ去っていたら。先に私の方から彼女を寄り道に誘っていたら。あるいは、その前にずっと抱えていた気持ちを伝えていれば……美姫は今も私と一緒にいて、私がこうなることもなかったのかもしれない。でも、今更考えても仕方ないことだ。何もかも、戻ってくることはないのだから。

「どう……して……!」

 炎の中から、か細い声が聞こえてくる。瀕死の小夜が放った最期の言葉なのか、記憶の中から蘇ってきた言葉なのか、はっきりしない。でも、その答えは決まっている。

「————美姫は、きっとこうしたかったはずだから」




 小夜が息絶えたのをフラウロスが見た途端、炎が消えた。炎を起こすだけでなく、消すことも自在にできるらしい。こんな絶大な力が手元にあることが、頼もしい反面恐ろしくも感じる。

「いやあ、ずいぶん派手にやったね」

 いきなり背後から声が聞こえて振り返ると、そこには私にこの力を渡した張本人が立っていた。目の前で人が死んでいるのに、信じられないほど冷静だ。むしろ、私の方が驚いてしまった。

「な……何で来たの!?」

「何でって、そりゃ気になるさ。手を貸すだけ貸して結末は見ないなんて、おかしな話だろう」

 そんなことより、と話を変えながら、ライトはいきなり拍手した。手袋の布同士が当たって、くぐもったような小さな音が辺りに響く。

「おめでとう、晴れて犯罪者デビューだ」

「……この場合、あなたも殺人教唆になるんじゃないの?」

 ライトは驚いたように目を見開いて、顎に手を当てる。そのまま数秒ほど固まって、目を逸らしながら返事をした。

「……ふむ、確かにそういう見方もあるかもしれないね!」

 本当にそうなることを想定していなかったような口ぶりだ。しかし、ライトがそんな間抜けではないことは今までのやり取りで分かっている。この人は、底が知れない。見かけや性別だけじゃない。過去も、これからしようとしていることも、結局聞けずじまいだ。時折、その目がひどく冷たく映ることがある。自分が見据えているもの以外に何一つ関心を持っていないような、冷たい目。ただ一人だけを見ている私も、きっと同じ目をしているのだろう。

「……ねえ、ライト」

「何だい?」

 ふと気になったから、聞いてみることにした。その冷たい目で、ライトは何を見ているのか。そして、そこに映っていないはずの私に、どうしてここまでしてくれるのか。ライトは既に答えを用意していたかのように、間を置かず私の問いに答えた。

「言ったはずだよ。僕の目的は、この神土町の闇を照らすことだ」

「そうだけど……闇を照らすって、どういうこと?」

「本当の悪人は、悪人の顔をしていない。だから、そういう奴らの悪行を白日のもとに晒すんだ」

「それが、闇を照らすこと……」

「そう。そして、君の目的も僕と同じだ。自らの罪から逃れようとする悪人が許せなくて、君は動き出した……そうだろう?」

 その言葉に頷くと、ライトは満足したように笑顔を見せて、焼け残った遺体を前に腕を組んだ。

「さて、第一歩を踏み出したはいいものの、ちゃんと後始末も考えなければならないな」

「あ……」

 遺体はひどく焼けている。このままでは、一目見ただけで死因が明らかだ。どうにか隠す方法がないかと頭を捻っていると、不意にライトが指を鳴らした。

「よし、こういう筋書きで行ってみよう。まず……これを」

 どこから取り出したのか、ライトの手にはいつの間にか煌びやかなドレスがあった。雪のように真っ白で、美姫によく似合いそうだった。

「これを……どうするの?」

「遺体に着せるんだ。もちろん、指紋がつかないようにね」

 ライトの狙いはよく分からなかったが、ひとまず手袋を借りて遺体にドレスを着せた。その後、ライトは思いついた筋書きを詳しく語ってくれた。派手なドレスを着た遺体のそばに齧ったリンゴを置いておくことで、おとぎ話にちなんだ毒殺事件だと思わせるらしい。

「……そんなの、引っかかるかな。検死されたらすぐ分かっちゃうと思うけど」

「ああ、これはそういうのが狙いじゃないよ。僕は、ただこの事件に色をつけたかっただけだ」

「……どういう意味?」

「おとぎ話……白雪姫における魔女は、罰として火の上で焼ける鉄の靴を履かされ、死ぬまで踊らされたという。つまり、そこに転がっている彼女のように焼け死んだわけだ」

 残酷な話をしているにもかかわらず、ライトは口元に笑みを浮かべていた。自分の組み立てた筋書きが、よほど気に入っているらしい。

「煌びやかなドレスを着て、毒に倒れた姫……その正体は、自らの犯した罪の報いを受けて焼け死んだ魔女だったことが暴かれるというわけだ。それに、死因がバレたところで悪魔の存在までは辿り着けない。むしろ検死は大歓迎さ!」

「……この一瞬で、よくそんなこと思いついたわね」

「日頃から近いことはやっているのさ。まあ、実際の事件は初めてだけれどね」

 全然褒めていないのだが、ライトは何故か得意げにしていた。”近いこと”の内容は、聞く気になれなかった。

 改めて遺体に目を向ける。あれが、罪を犯した魔女の末路。あれが————

「……魔女、か」

「どうかしたかい?」

「昔、いじめられていた時にそう言われたことがあったの」

 あの時私を取り囲んでいた中の誰かが放った一言。何の根拠もない、でたらめな言いがかり。でも、それが今も私の心の中に残り続けている。歪んだ恋情に焦がれて、狂った執着に溺れて、その成れの果ての心の中に、ずっと残り続けている。

「私……本当に魔女になっちゃったんだ」

 自分の声が震えているのがよく分かる。初めからそうするつもりで、覚悟もしていたはずなのに、今になって取り返しのつかないことをしてしまったという実感が湧いてくる。

「————全部、おとぎ話だったら良かったのに」

 全部、おとぎ話だったなら。喪失の苦痛も、面影への固執も、そしてこの憤怒の炎も————私が背負っている全てが、幸せな結末に繋がっていたなら。

「君は魔女じゃないよ」

 ライトは私を真っ直ぐ見ながらそう言って、私の肩に優しく手を置いた。

「……え?」

「そうだな……それじゃあ、かつて君をいじめていたという子たちも、七人と一緒に殺してしまおうと思っているかい?」

 ライトの問いかけに、首を横に振って答える。いじめられていたと言っても、はっきりと覚えているのはたった一言だけだ。そもそも、相手の顔と名前もろくに覚えていない。今となっては、どうだっていい些細なことだ。そんな相手まで巻き込むつもりはない。

「うん。やっぱり君は魔女じゃない」

「どういう……こと?」

「魔女……そう呼ばれるのは、悪魔に魂を売り渡した人間だ。でも、君の心は間違いなく生きている。悪魔に従うまま、破壊や殺戮を繰り返す操り人形じゃない……力を使う相手を自分で選べるんだよ」

 ライトは私の肩に置いていた手を離して、踵を返した。既にその目は私を見ていない。けれど、不思議とそこに冷たさは感じなかった。

「だから……君は、君の判断でこの力を使うんだ」

「……分かった」

「これからも、君が闇を照らしてくれることを願っているよ。魔女ではなく……悪魔使いとしてね」

 その言葉を最後に、ライトは去っていった。ここから先は、自分の判断で前に進まなければならない。しかし、既に一歩目は踏み出した。あとはそのまま進み続けるだけだ。生前に叶わなかった美姫の望みを果たすまで、この心に抱えた憤怒の炎が消えるまで————

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