ー31ー
はぁーっ! まったくもぅ、俺以外暴れん坊しかいないから困ったもんですよ!
やれやれ。
両肩を上げて困ったちゃんアピールしていると、突如真横の地面から巨大生物が出現。
びくぅっと肩を驚かせ、ジャブの構え。そのままぶちのめそうとしたが、顔を見て急停止した。
ふぁっ!?
ワームくんじゃねぇか。
あ、危ねぇ。
拳を下げて顔を逸らすが、視線だけはワーム君に向かう。
かなり大きい俺ですら見上げてしまうほどの巨大さ。さっきまでちんまかったのに、とんでもない圧迫感。モフモフの毛並みもすさまじくボリュームアップしていて、ファサファサ顔にあたるワーク君の毛がすごい柔らかい。
……ワーム君さぁ、なんか物凄い成長してない?
なに? 君、成長期なの?
今更だけど、脳内で駆け巡るワームという存在。とんでもない大きさだけど、どう考えでも化け物生物のワームっておかしくね? そんな文章がうるさく頭の中で主張するが、そもそもの話ワームがもう存在している時点でむしろそんなことを考えている俺がおかしいだろう。
なんかもう考えれば考えるほど自分が何を考えているかすらよくわからなくなってきた。
そうだ。きっと俺は悪の組織に脳を改造され、逃げ出す正義的ポジションの主人公。よく意味がわからないがそういうことだ。ついでにお目目を改造された俺の眼球は何を見てもファンタジー系へのフィルターがかかっている。
う、うむ。
ワーム君は可愛い魔女っ子。
これ以上じろじろ見たら魔女っ子のワーム君へのいやらしい目線を向けたことでお巡りさんにしょっぴられてしまう。
そっと視線を逸らそうとしたら、ワーム君が「きゅいっ!」と大きく鳴いた。
どう……うがぁッ!
め、目がァァァ!!
とんでもねぇ光を直視して目が潰れそうになった。大きな手で両目を擦りながら、そっと隙間から覗けば小型犬サイズのワーム君。
お、おう……え? いや、どういう原理だよ。
なんなの? 光ったら変身できんの?
もしかして俺が今いる場所ってファンタジー系とかじゃなくて、某変身アニメ系だった?
どかぁぁぁん、ごろごろごろ!! と俺の灰色の脳細胞に降り注ぐ雷の嵐。
ほほぉ? 俺もピカッと光れば超絶イケメンになっちゃうってことやんけ!
すでに俺の脳は変な方向に走っていた。脳から危ない何かを発生させながら体に力を入れる。
ふんっ!! うがぁぁぁ!!!
脳みそが破裂するぐらい力を入れ、尻から新しい尻尾が生えてきそうなぐらい踏ん張る。
……当然そんなことをして光るわけもない。
当たり前だろう。
何を考えているんだ? 馬鹿じゃないのかお前ら。
俺はただの人間だぞ。
誰に文句言っているかよくわからないが、頭の片隅では超絶イケメンに変身し美女を侍らす桃源郷が浮かぶ。
ぐぉぉぁああああ!!
変身、変身しろぉぉぉぉぉ!!
一人でしょうもないことをしていると、いつのまにかそばへやってきたモカちゃん。小ちゃな手で小型犬ワーム君を抱き上げ、なにやら変な顔で俺を見てきた。
「何してるのじゃ?」
…………ご、ごほん。
無垢の少女みたいな眼差しでじっと見られるとさすがの俺も恥ずかしい。
本当、今まで俺は何をしていたんだろうか?
思い浮かぶのは体がメキメキ大きくなり、口からゲロを吐く俺。
まるで光線のように飛んだゲロが大きな怪物を壊す記憶。
……頭を小さく振る。
きっと夢だ。ゲロで怪物を倒すなんてどこのB級、いやC級映画だ。ふざけてるにもほどがある。
すんごい見てくるモカちゃんへ俺はむしろ「どうしたんだ?」という顔で見返すこの視線勝負で負けたら俺の根源に関わる。
それは大勢の前でゲロを知らない人にかけたという恥ずかしい現実。
俺とモカちゃんの視線が交わり数秒。ワーム君の不満そうな鳴き声にモカちゃんが小さく頭をコテンっと倒した。
そして、てくてくと歩き出したのでモカちゃんの後をついていく。
ふっ、俺の勝ちだな。
華麗に髪の毛をかきあげる俺。別にそんな長くないけどそんな雰囲気で頭をくるっと上げて、視線を落としてからとんでもねぇ事実に気づいた。
あるぇぇ?
モ、モ、モカちゃん? 右足が……観葉植物ママみたいになってない?
後ろから幼女をじるじる見る変態だが止めることができない。どこからどう見てもモカちゃんの剥き出しになっている右足は木材みたいな見た目。
しかも俺に見られていることに気づいたのか、右足から短い枝が生えた。
……ど、どうも。
小さく会釈すればその短い枝の先にポンッと青い花が咲いた。
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