ー24ー
モカちゃんとワーム君の喧嘩にほっこりしながら進んでいると、夥しい死体の量。人間の死体ももちろんあったがそれ以上に化物を通り越し、地球外生命体に出てきそうなやつらの死骸が溢れていた。
通路の行き止まりのように山積みになった死体の山によって俺たちは足を止める。
地球外生命体の死骸から緑色の体液がぷつぷつと、泡が出ているがママと先輩は全く気にせず掃除していく。
さ、さすがだぜ。
二人が掃除の合間、ちょいちょい見える人間の死体を見れば苦悶の表情だったり絶望したような顔。
うーん? 出入り口で詰まった感じかな?
そんなことを考えていると小さな声。
「……たす……け……てくれ」
そっちを見れば、ちょうどママと先輩がどんどん吸い込んでいくところから聞こえてきた。急いで二人を叩いてストップさせる。
半端ない悪臭に我慢しながら引っ張り出せば、両足と左手が千切れている人間を引きずり出せた。唯一残っている右手はメカチックな黒い大きな機関銃と融合している。
か、カッコいい。
俺も改造されるならそっち系がよかった。
引っ張り出した人間は少し前にタピオカでも飲んでいたのか、口から大量のタピオカの粒を吐き出す。
地面に落ちたタピオカの粒が妙に動いているのは気のせいだろう。うん。
タピオカに視線が行っていると、いつのまにか人間は右手の機関銃の銃口を向けてきていた。
いや、えぇぇ?
助けたヒーローの俺にそんなことするぅ?
機関銃の銃口をどかそうと軽く先端を摘めばそのまま人間の右腕の根本から千切れた。
「ガァァァ!!!!」
……う、うん。
すっごい痛そうに絶叫を上げているが俺のせいじゃない。
君の右腕が弱すぎるせいだ。次までにもっと頑丈にしなさい。いいね?
サイボーグ右腕をそのまま後方へポイッと投げ捨てた。モカちゃんはとてとてと走ってくると、懐から注射器を取り出し人間の首に突き刺す。
たちまち痛みがなくなったのか、荒い呼吸を繰り返しながら人間がモカちゃんを見る。
「なぜ戦闘チームがこんな所にいる。お前らの戦闘力があればすぐに脱出できただろう?」
「だ……誰だ。なぜ子供が……んな所に……いる。いや……どこ……かで……見覚……え」
「ふん。お前、魔眼持ちだったはずだよな。面倒だから発動しろ」
「なぜ……そんなこ……知……ている」
モカちゃんはまるでボインさんの時のような流暢な喋り方。
うん!?
め、めっちゃ普通に喋るじゃん! ど、ど、どういうこと!?
脳内を駆け巡るハテナの嵐。なんとか二人のやりとりを見ていると、人間が一度目を瞑りカッと大きく開くと幾何学模様のある瞳に変化していた。
か、カッコいい。
俺もそういうの使いたいんだけど、どこに行けば改造してもらえる?
「……あんた……たのか。しか……し、その悍ま……魔力……は……本……当……人……か?」
「ふん、わかればいい。話を戻すがなぜお前は一人こんなところにいる? 場合によっては助けても良いぞ」
「上……から……で……常事……態が、全生……物……を……逃……殺……」
「ちっ。やはり最初から全員を飼い殺しするのが目的だったか」
モカちゃんはムニッと強張った顔をほぐすように眉間を揉むと、深いため息を吐いた。
「まぁ、わからなくもない。私たちは研究員と言われているが一般人からすればお尋ね者の凶悪な犯罪者の集団。その上お偉いさん方は私たちを鎖に繋げるのではなく、こんな悍ましい研究をさせている。もし明るみにでも出れば魔国まで飛び火する可能性があるからな」
多分、モカちゃんはコソコソと会話しているつもりなんだけど、バッチリ俺の耳に入ってる。しかし、よくわからん言葉の羅列に俺の頭はアチアチになっていた。
そろそろパーンしそう。
「まぁいい。話を戻すが、なぜお前だけが置き去りにされた形になっている? お前らの頭のネジが外れているのは重々承知だが、どんなに変異しようが生きているやつを連れ帰るのがお前らだろう?」
「ガ、ガ、γ……2、2、203……で、で、出……た、た、対………」
人間の口からガンマ203? っていう言葉を放たれた瞬間、モカちゃんが後ろへ大きくジャンプ。右の親指を食いちぎると、大量の蛆が指から噴き出てきた。
きもォッ!!
急いで後方へ飛ぶ。俺が知っている蛆とは全く違っていた。何が違うって一匹一匹がモカちゃんの親指ぐらいのサイズ。
洪水のように溢れ出た蛆たちは人間を食い尽くさんと襲っている。
き、きめぇぇ。
モカちゃんさぁ、君の体内は虫さんのデパートなの?
「そいつは危ないのじゃ! 寄生させられてるかもしれないから早く殺すのじゃ!」
寄生って言ってるけどモカちゃんも寄生……い、いや、やめとこう。
これ以上考えたらモカちゃんが成長した後に俺は素直にボインボインを楽しめなくなる。
殺すといっても俺は肉弾戦がメインの男。目からビームなんて放てないし、遠距離攻撃もできない。
はろー!
あ、どうも。
なぜか俺の肩に座っている汚い妖精が挨拶してきた。小さく頷いて挨拶を返したのになぜか心底呆れた目。
な、なによ。
汚い妖精は大袈裟な外人さんのように両肩を大きくすくめた。イラッとして汚い妖精へデコピンでも放とうと考えていると、ドカァァン!! と大きな音。
顔をすばやく戻せば、観葉植物ママと触手本先輩が攻撃を加えているようだった。
観葉植物ママの頭頂部の赤い花から赤いレーザー。触手本先輩の尻尾のような悪魔の足から黒いレーザー。
お、俺はツッコまんぞ。
絶対にな!
すさまじい煙がモクモク立ち上がったが、突如煙が掃除機で吸い込まれるように晴れていく。そこには手足がなかったはずの人間が立っていた。
あるぇぇ? 君さっきまで手足なかったよね?
故意じゃなかったけどさ、君の唯一残っていた右手も完全にもぎ取った気がするんだけど。
よくよく見れば新しく生えてきていた手足は石のような灰色。人間は壊れたロボットのように歩いてくる。
そいつが一歩一歩進むたび、全身がどんどん灰色になっていき石と石がぶつかる音が響いてくる。
人間っていつから手足が再生するようになったの? 半端ねぇよ。
俺、地上で全く普通に暮らせる気がしねぇんだけど。
「きゅいきゅい!」
そこへワーム君の可愛い声。何かを鳴くとモカちゃんは目ん玉が溢れるぐらい大きく見開いていた。
「な、なにいってるのじゃ! あたまおかしいのじゃ!」
「きゅきゅい!!」
「うぅ……どうなっても知らないのじゃ!」
モカちゃんはワーム君を重そうに持ち上げると人間の方へ投げた。
……何してんの? 一メートルも飛んでないぞ。
飛ばすというより叩きつけられたワーム君は身体を痛そうに悶える。少しすると「キュイ!!」とモカちゃんへ強く鳴いた。
強く鳴かれたモカちゃんは何やらぶつぶつ言い訳しながら子供のように地面を蹴る。
ワーム君は顔をキリッと決め、いそいそと人間の方へ動き始めた。
……お、おっせぇぇ
石人間みたいになってる人間も歩いているけど、結構の頻度で地面に倒れたりするから全然進まない。そしてワーム君も子犬のサイズだからすっごいゆっくりだった。
もはや暇すぎた俺は肩にいる汚い妖精と指でボクシングごっこして遊んでいた。そこへ「きゅいきゅい!!」と甲高い鳴き声。
お?
顔を戻すとようやく両者は手が届く距離。ワーム君は口を大きく開きそのまま石人間の身体をボリボリ食べ始めた。
だろうね。そんなことだろうと思ってたよ。
人間の手足どう見ても石っぽい感じだし、食べると思ってたよ。
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