第3話 マイルカ編 「わっふーいのきもち」

 パークセントラル 研究所


「ジェネット、マイルカ見なかったのさ?」


「さあ?でも、朝気づいたら居なくなってた、あの子、お母さんに会えなくて寂しくなってるんじゃないかな」


「そのうち戻ってきますよ、あの子が行く場所なら私は大抵見当ついてますよ」


「家族との思い出の場所…、リウキウチホーとか」


 リウキウチホー 大穴付近


 まっさらな砂浜、それは昔と変わらない。

 でも、1つだけ変わったことがある。リウキウチホーに空いた大穴と、そこに流れ込む沢山の海水だった。

「おかーさん…えんちょー…みんな、私が絶対にリウキウを取り戻すから」

 たいちょーが言ってた。リウキウチホーに空いた大穴の影響で、そこにあった生態系は全部崩れてしまった。私はこの大穴の監視任務をたいちょーから任されていた。

 そして大穴に流れ込む海水は、いずれパーク全体を巻き込んで、パークを海の底に沈めてしまうって。

「私が守らなきゃいけないんだ…この場所を、楽しかったあの日々を…!」

 そう、昔は沢山のわっふーいに溢れてた。

 おかーさん、ナルカ、ドルカ、イッカク…。みんな…!

 沢山の海のフレンズと一緒に過ごした日々は、今も色褪せる事無く輝いてる。


「本当に、守る価値があるのだろうか」

 ふと、私の背中から声が聞こえてきた。

「…ゲンブさん…?」

 四神のゲンブだ。隣にはスナネコとツチノコがいる。

「このパークはいずれ滅びの道を迎える…それはこの現状を見れば分かるはずだ、なぜ守る?もう戻ってこないというのに」

 スナネコは、フォトポケから沢山のフォトを取り出して眺めていた。

「わかってないですね、ゲンブさんは。思い出は大事に閉まっておく物じゃなくて、ずっと心に残るものなんですよ。ずっと消えない、大切なもの…。思い出は、飽きないものなんです」

 私も持ってる。沢山の思い出、沢山のフォト…。これだけは絶対に消えない。…絶対に。

「ゲンブにもあるだろ、絶対に消したくない大切な思い出…。もう忘れちまったのか?」

 ゲンブは空を眺めていた。

「大切な…思い出…」

 そしてゲンブは重々しく言葉を放った。

「PPPの皆が、いつか大空に羽ばたく瞬間を…この目で焼き付けなければ」

 そういえば、PIPの頃からずっとフリッパーだったもんね…ゲンブ。

「そうだ、とっておきの事を思いついた。早速マーゲイに相談しなければ」

 ラッキービーストを通じて私達はセントラルにいるマーゲイとPPPの5人と話すことにした。


『はあ!?リウキウチホーの海を全部凍らせてPPPのLIVEステージを作る!?何言ってんのよ!そんな無茶が叶うわけ…』

 そんな事…できないよ…。ゲンブ、一体何を考えてるの…?

「叶えてみせる。我がPPPに最高の景色を見せる。そして我がこの目にPPPの最高のステージを焼き付ける…そうすれば、我からも…皆からも思い出は消えないはずだろう…?」

 そしてゲンブは口をつぐみ印を結ぶ。


「骨・聴・智・易・慄・志・水!」


 氷の塊に包まれたゲンブは新たな姿に生まれ変わる。

「我が名は真・玄武。パークより絶えぬ不滅の玄帝なり」

 ラッキービーストから、プリンセスの声がした。

『玄武…本当に私達の為にステージを作ってくれるの…?』

 コウテイも、どこか申し訳無さそうにしている。

『玄武には…、何度も助けてもらっている。それを…、こんな大変な時期にライブをやるなんて…』

 しかし玄武はニコリと笑い、空に手を翳し大穴の海水を全て凍らせた。

「我はPPPのフリッパーだからな、フリッパーがPPPの為に尽くすのは当然のことだ」

 そして氷は徐々に形を変え、大きなドーム状のステージができあがった。 

 そしてラッキービーストはカメラモードを起動しPPPとマーゲイ達に出来上がった氷のステージを見せた。

『わぁ…!とても綺麗です!早くこのステージに立ちたいです…!』

 ジェーンが感嘆の息を漏らす。

『驚いたわね…!本当に作ってしまうなんて…!』

 マーゲイは氷のステージを見て声をひっくり返して驚いている。

 しかし、玄武の身体は少し限界を迎えていたようだった。氷の地面に手をつき倒れる。

「どうやら…力を使いすぎてしまったみたいだ、このままだと何時間も保たない…」

 ステージを作るだけで、玄武はかなりの力を使ってしまった。リウキウの太陽に曝され続けたら、すぐにこのステージはまた海に戻ってしまう。

「PPPのみんなも…すまない、こんな我の思いつきに付き合わせてしまって…」

 イワビーが疲れ果てた玄武を励ます。

『そんな事ないぞ!今の玄武、すっげえロックだったぜ!』

 すると、氷のステージの中に誰かが現れた。

「わあ、すごいです!リウキウチホーにこんな寒い場所があるなんて!ホッキョクウサギちゃん!やっと見つけましたよ!」

「パーク中を駆け巡ってた甲斐があったですねえ、ここ、ホッカイチホーのみんなも呼んじゃいますか?」

 ホッキョクウサギとホッキョクギツネだ。

「あら、ゲンブさん!少し姿が違いますけど、ここにいたんですね!ここはどういう場所なんですか?とっても寒くて落ち着きます…!」

 玄武は、どこか嬉しそうにしている。

「ホッキョクギツネ達も、元気そうで何よりだ、この氷のステージの上で、今度PPP達がLIVEをするのだ、沢山フレンズを呼んでくれると嬉しい」

 でも…。

「なんか…地響きがしたぞ」

 ツチノコは地面の揺れを少しだけ感じたという。

『ねえ、玄武と一緒にお食事会ライブしたときみたいに、じゃぱまんもいっぱい持っていかない?』

「いいですね、それ。飽きなくて済みそうです」

 フルルがスナネコにライブの提案をしている…けどそんな場合じゃない!

「まずいよ!日差しが強すぎて、こんな氷すぐに溶けちゃうよ!」

 私が皆に危険を知らせるが、ホッキョクギツネとホッキョクウサギは立ち止まったままだ。

「私に考えがあるんです、玄武さんの特性を活かした作戦なので…玄武さんの力が必要です。」

 ホッキョクウサギによると、このステージをとても寒い場所だと思い込む事で、玄武への信仰心が強まり、玄武の力をもう一度呼び覚ますという作戦だ。

「アイスキャニオン作戦でも同じ現象が発生したのを覚えているわ。トナカイにサメ映画を撮らせて欲しいって何度せがまれたかしら…」

 マーゲイがため息を吐いている。

 そうすれば、氷のステージもサンドスターの輝きによって残り続けるという寸法である。

「なるほど…我ら四神も、祭りや神事などを開いたりなどして守護けものたちの信仰心を強める方法は何度も行っている。PPPのライブという名目を置いて、ここに沢山のフレンズを集めなければ」

 しかし、ホッキョクギツネは首を横に振り、玄武の手を握る。

「いいえ、貴女もPPPと一緒にステージに立つんです。貴女が作り上げたこの氷のステージに」

 玄武は目を点にしている。

「わ、我が?PPPと…?そそそんな馬鹿な話があるか!我はただのフリッパーだ!ステージなど立てるわけが」

 しかし、隣のホッキョクウサギがニッコリと笑い…。

「フリッパーだったら…振り付けもちゃんと完璧に踊れますよね?」

 玄武は息を呑んで答える。なんたってPPP本人が聴いているんだから。

「ん…当然だ!我はその目でPPP達の練習風景を焼き付けている!踊れないわけがなかろう、5羽全員分踊れるぞ!」

 もうそこまで関わってたらもはや関係者なんだけどなあ…。


「ライブ当日、楽しみにしてますね、それでは!」

「またね〜です〜」

 ホッキョクギツネとホッキョクウサギは、次の寒い所探しの旅に赴いて行った。


 …


「ツチノコ、起きているか」


「…起きてるぞ」


「ドールの元に預けているデバイス…、あれには四神が封印を施していると言ったであろう」


「ドールは今日新与那国島に転送されるんだろ?それがどうかしたのかよ」


「先ほど、ヒカリ達が拠点からデバイスを持ち去るドールの姿を目撃したと報告を受けた」


「ドール…あのデバイスは使うなって忠告されてた筈だろ…?何してんだよ…!」


「そこで…だ。ツチノコ、其方にデバイスの封印を解く為の印を授ける。と言っても、封印の段階を一段階下げるだけだ。起動するには四神から全ての印を刻む必要がある」


「デバイスには確か供給用のサンドスターを電池として内蔵していたよな…?」


「内部のサンドスターを消費しないように四神の力で5段階のフィルターを重ねている、1段階下げるだけなら消費も少なかろう」


「ドールに印を渡せばいいんだよな、スナネコも連れて行ってもいいか…?」


「ダメだ。他のフレンズを巻き込めない、其方に委ねるしか…」


「わかったよ…、オレが頼まれた仕事だ。オレ1人で何とかしてやる」


「ああ頼んだぞ、ツチノコ」


 …


 こうして、リウキウチホーの片隅に立っている小屋をレッスン場にしてPPPとゲンブの合同レッスンが始まった。

 生憎、一度作り上げてしまった氷のステージは日差しに曝されて全て崩れ去ってしまった。

 でも、ゲンブは諦めることなく本番までにまたステージを作り上げると約束した。

「ペンギンアイドルと強火フリッパーの奇跡のコラボ!四神のゲンブとの合同ライブってだけでかなりの客が集まってくれたわ!チケット完売よ!本当にありがとう!」

 マネージャー兼現場監督のマーゲイの宣伝のおかげで、多くのフレンズがリウキウチホーに来てくれるみたい!

「まぁ、当然だ。PPPの皆には返しきれないほどの恩を貰っている。精一杯の恩返しをさせてもらう」

 フルルが、じゃぱまんを頬張りながら呟いた。

「そういえば、こないだゲンブが作った氷のステージ、前に作ってもらったパーティー会場みたいだったなあ、岩と氷でぜんぜん違うもん」

 フルルに話しかけられた玄武は、涼しい顔でニヤけている。

「力を取り戻して久しいが、我ら四神にはもう一つ異なる性質があるそうなのでな、それを利用させて貰った」

 ふと、鋭い感触が私の視線を過ぎる。八つの蛇の尾だ。

「玄武!あぶない!」

 玄武が氷塊を出現させ奇襲を防ぐと、大きな笑い声が轟いた。

「ジャーッハッハッハ!久しいのう玄武!あいどる遊びで呆けとる場合か?」

 ヤマタノオロチだ。どうしてここにいるの?

「たわけが。遊びなどでは無い、CARSCに唆されおって」

 CARSCって…ボスがいる所だよね…?どうしてボスが…?

「かあす?ああ、あやつらに興味は無い。我が欲するのはえるゔぃーなんたらとか言う絡繰のみじゃ。悪鬼巣食う島を呑み込む力が欲しい。ただそれだけの事よ…ヤタガラスの熱波で焼き払うなど勿体なかろうに…丸ごと灼かれる前に取って食ってやるわ!」

 ヤマタノオロチの八つの尾が突如裂け、中から七つの大きな金属質の物体が現れる。

「あれは…おなごが髪に挿す櫛か?」

 玄武が呟く。すると、ヤマタノオロチの胸に、七つの櫛状の何かが突き刺さる。

 しかし、ヤマタノオロチは痛みを感じていない。

「胎が空くでは無いか、大人しくしとれ…」

 胸を貫いた櫛状の何かはするりとヤマタノオロチから抜け落ち、鋭い剣の様な物体へと変化する。

 ヤマタノオロチの周囲を円状に周る剣は私たちに狙いを定めて射出される。

「…っ!どうしてヤマタノオロチが!?」

 私が叫ぶが、返事は無い。

「ツチノコはどこじゃ!玄武の元におると聞いたがの」

 玄武を睨みつけ、剣先を私たちに向ける。

「ツチノコはおらん、つい先ほどドールの元へ向かった」

 ドールの所に…?ドールは今作戦で…!

「ごめん玄武、私…!ドールの所へ行かなきゃ…!」

 私は焦りを覚えながら海に飛び込んだ。ドールが危ない…!助けに行かなきゃ…!

「マイルカはドールの元へ行け!PPPの皆も応戦を頼む!…ここは我が引き受けよう、貴様をツチノコの元へは行かせん」

「あの…ボクもツチノコの所に…」

 玄武が足止めしてくれてるうちに…!

「スナネコはPPPのみんなについて行って!今は離れない方が…!」

「でも…」

 コウテイがスナネコの手を引っ張った。

「今はヤマタノオロチから逃げることが最優先だ、行くぞ」

「…はい」

 スナネコは俯きながらPPPについて行く。

「ドール…!今行くからね…!」

 待ってて…!私がドールを守るんだ…!


 4話 四神・玄武編に続く。

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